

ここに住み始めて7年目になるが この辺りは台地の南端にあたる
平安期には東京湾が深く入り組んだ海岸縁だったようだ
その後の埋め立て等による変化で海岸線は次第に南下していった
その名残とも言うべき松林が残っていたのだが
私たちが住む頃には その数もかなり減っていた
それでも 自宅の東側一帯は竹林と松が混在する林となっていた
所有者は近所の高齢ご夫妻
春の終わりごろには筍をおすそ分けしていただいたこともある
夏には 蝉の鳴き声がにぎやかだった
そして秋には 松の木に絡んだ蔦が紅葉した
つい最近の大雪では 林が白く美しい雪化粧をした
私たちには当たり前の日常の景色だった
その林が 突然崩壊してしまったのだ!
地主さんが相次いで亡くなられたことによる相続問題からだ…
重機とチェーンソーを使い あっという間に緑が消されていく
それを真近で見ていた孫っ子は言った
「フザケンナよ! なんで木を切るんだよ!」
昆虫好きな彼は 夏になると林から聞こえる蝉の声に耳を傾けた
蝉が地面の中で何年も過ごして
ようやく木に登って鳴くことができるのを学んだ
カブトムシを卵から育てて以来 生き物の一生に関心を持っている
木が切り倒され やがて地面が掘り起こされる…
看板で住宅が22棟建てられることが予告されている
彼はさらにひとりごとを言った
「家なんか建てんじゃねーよ!」
蝉たち昆虫が今 地面の中で生きていることに
限りない想像力を働かせているようだ
私たち大人は 自然保護に関わる社会問題として語るが
子どもである彼は 純粋に生き物の命を考える
-S.S-