◇
ストレート
まっすぐ伝わるのは
ストレートな思いだけだよ
曲がって書けてもストレート
曲げて書いてもストレート
それが今あることのすべて
書いたのか 書かされたのかも
しれないけれど
今をさらけたら 明日死んでもかまわない
そうしたら
明後日生きているかもしれないさ
まだ行ったこともない天国でね
◇
いいものを書こうなんて気を起こさないで、
単刀直入に綴ったよ。
そしたら生まれて初めて、詩が書けた。
それがこれだよ。
詩かな、詩でないかな。
詩だよ、と僕でない声がした。
あそこに出そうかな、やめようかな。
そう呟いたら、出せ出せと声がした。
隣で寝ている寮生で同じ学年の飯田直助の寝言かな。
そう思って、布団から出ている直助の手を抓ってみた。
むにゃむにゃと口を動かしただけだったから、こいつの寝言ではないと分かった。
それなら誰が言ったのか、気になるところだけど、
僕は深夜にせかせかとインターネットの投稿サイトに、これを投入したよ。
投入してしまったから、僕の中には何もない。空っぽだ。空の空の空だ。
明日ネットを開いて、びっくり仰天する直助の顔が見ものだよ。
僕の詩が載っているなんて、夢にも思わなかっただろうからね。
僕が詩を書けるなんて。猫の毛ほども思っていなかったさ。
そのくせ、いつも言っていたんだ。
詩を書け、詩を書け、とね。
そしたら、あそこに連れて行くと、口癖のように言っていたんだ。
あそこって、どこかな。
決まってるさ、直助の彼女がいるといつも自慢しているコーヒーカフェのスズランだよ。
詩人気取りで、奴が彼女にもてるのは、詩人だからなんて、驕っていたけど、
この僕の詩が、インターネットに載ったなんて知ったら、
直助のみならず、彼女も慌てふためくさ。
まるきり詩のセンスなんかない、鈍の上にアホのつくのろまだと
決め込んでいたんだから。
とにかく明日になって、隣の相棒の慌てようを見るのが楽しみだ。
ということで、寝ようするのに、興奮の度が過ぎて、眠れなくなったぞ。
頭の冴えというのは、こんなときに訪れるものなのか。これは困った。
僕が教える先に、直助に見つけられたら、困るんだっちゃ。
僕をへこませる文句を、いろいろ練るからだよ。奴のことだから、
こんなことも言い出しかねない。
まぐれ、まぐれ、まぐれに浮かんできた、まぐそに過ぎない。
おい、まぐそとまぐれが、どう違うかわかるか? それそれ、そが、れに、なっただけだ。 ドレミファソレシド
言わせておけば、図に乗って攻撃してくるから、
ソレシドじゃなく、ソラシド と訂正してやる。すると奴は、僕の訂正まで攻撃の材料に組み込んで、そうだそうだ、空空、何もない、空、詩の言葉も、エスプリも、新しさも 何もない空疎な空。
こんな敵人と化した直助と、空想上の闘いをしているうちに、疲れて寝てしまったようだ。
目が覚めると、彼が机を前にしょぼくれている。見つけたな、と思ったが、僕はやんわりと、
「どうかした?」
と探りを入れる。
「小島のレポートの提出期限が、今日なんだよな。明日までと思い込んでいた」
と直助は当ての外れたことをぬかす。
「おまえが授業を受けていれば、ノートを見せて貰えるところだけど、あいにく受けていないし」
と彼はぼやきつづける。
僕はたまらず、直接攻めることにする。
「僕の詩、見てくれた?」
「何だって! おまえの詩だって?」
「昨日、読んで、出せ出せって、言っただろう」
「おまえ、本気で思ったのかよ」
彼は言って、ノートパソコンを引き寄せ、例の詩のサイトを開いた。
「ないじゃないか、おまえの詩なんか、どこにも」
「ないって?」
びっくりするのは、僕のほうだった。
僕は自分のノートパソコンを開いて、確認するが、直助の言うとおり、どこにも載っていないのだ。昨夜あんなに苦心して投稿したのに、それが出ていないとはどうしたことだ。入力に際し、なれない手続きを踏んでいき、最後のボタンを押し忘れたというのか。
もう一つ、これは考えたくないが、僕のパスワードの置き場所を知っているのは、直助だけなのだ。それは夜遅いこともあり、整理もしないまま机の上に書き散らしたままになっている。
直助への疑いを晴らすためにも、もう一度最初から入力してみなければならないだろう。「詩は根気だ」
とも彼は語っていた。まぐれではない詩が生まれるように、書いてみようと、僕は自らに言い聞かせていた。直助は僕の詩の先生かもしれないぞ。
了
◇
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