波乱の海をぶじ目的地へ

現世は激しく変動しています。何があるか判りませんが、どうあろうと、そんな日々を貧しい言葉でなりと綴っていけたらと思います

バイク 雪女 未完 3

2019-04-24 03:08:48 | 超短編



 バイク 雪女3
 女は中学生の声が、途中でぷつりと切れてしまうのを感じるようになった。切れるのは幼い子供に聞かせたくないものがあるからなのだろう。そしてその内容こそが、彼女がこの村を出ていかなければならなかったものを含んでいるからなのだと、身震いしながら、考えないではいられなかった。今も小学生の声が大きくなると、それを制するように中学生の声がひときわ大きくなって、その後は沈黙が訪れた。女はその静まりの中から、中学生の声をすくいあげようとしたが、声はひそひそ話のようになっていて、とても聴き取れるものではなかった。
 女は自分がこの村を脱出しなければならなかった七年前に引き戻され、緊張から息ができないほど苦しくなってきた。そしてその恋がもとになって、悲劇に結びついて行ったとしか思えない出来事が下敷きになっていた。
 今、中学生の声が聞こえなくても、明らかになってつきあげてくる、そのときのことが、四方から押し寄せてくるのを感じ取っていた。
 その出来事が起こったのは、彼女が高校二年生のときだった。彼女はそのとき、この村から一時間あまりの街の高校にバスで通っていた。忌まわしいあの夏、彼女の記憶は、いきなり、その夏の日へと飛び火する。それまでは、不幸のかけらさえ見つけられないほど楽しく安らかで、平和そのものと言っていい学園生活だった。バスの通学は夢の中を走っているようなものだった。
 その中に突如降って沸くように現れたのが、彼女の心を虜にしたあの高校生、園部透だった。しかし心を虜にしたくらいだから、彼女が不幸に陥ったわけではない。幸せのてっぺんに火がついたようなものだった。
 彼、園部透は一学年上の、東京からの転校生だった。母親が急死して、父親の故郷であるこの村に引き揚げてきたのである。
 彼の実家は村の奥地にあり、高校にバスで通学するには、一時間半も歩かなければならなかった。山道を一時間半も歩くのは、容易なことではなかった。彼はバスの中でも、よく居眠りをしていた。彼とはいつも離れた席に座っていたが、彼女は彼が降りるべき、高校前の停留所で目を覚ますか気が気でなかった。それで幾度となく、彼を振り返っていた。
 彼が眠っていたからといって、声をかけられる間柄ではなかった。というのは一度も話などしていなかったのだ。しかし彼は、バスが高校前に来ると、目を覚まして、彼女と目を合わせた。それはもう不思議としか言えなかった。彼女は涙が出るほどの安堵にかられて、さっさとバスを降りて、高校に駆け込んで行った。
 そんな危うい、幸せの絶頂とも言える時は長くはつづかなかった。

未完3

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