波乱の海をぶじ目的地へ

現世は激しく変動しています。何があるか判りませんが、どうあろうと、そんな日々を貧しい言葉でなりと綴っていけたらと思います

南の国から来た紳士

2019-04-19 00:05:50 | 超短編



北海道は四月になって大雪に見舞われた。北国に住む彼は、まだ雪国に行ったことがないと言っていた友人を思い出し、この機会に招いてやってはどうかと電話をした。
友人は喜んで行くと言い、お土産は何がいいかと訊くので、お土産なんかいらないよ、手ぶらで結構、と言ってやった。それでも、五歳の娘の好物は何かとしつこく訊いてくるので、、じゃあ、キオスクで長崎の安い駄菓子でも買って来てくれと言った。
というわけで、彼はやって来たが、列車を降りて来る友人を見て、驚いた。膝の上まである超長靴に、内側に毛皮のついた防寒服、防寒帽、分厚い手袋……と、まるで北極探検にでも出かける格好をして、また駅を出て道を歩きながら、五歳の娘は面白がって、
「おじさんは、なんというサンタクロース?」
と質問を浴びせた。
「おじさんはねえ、南の国から来たサンタクロースだよ」
と南から来た紳士は答えた。はあはあ喘ぎの息をしているのは、雪国の街に備えた完璧な身支度のせいだった。

二日間、雪国に滞在して、彼は帰って行ったが、彼が準備してきた、防寒用の品々でダンボールが一杯になっていた。
北の友人の普段着を身に付けて帰っていった。南から来た紳士は、なんと多くのお土産を携えてきたのだろう。
北国の友人は、電話でやりとりしたときのことを思い合わせて、そんなことを考えていた。




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