*狐火
辺境の山村に、一つの灯りが瞬いている。麓から見ると、どうして
も狐火だ。狐の火が見えるようになるとは、ただごとではない。悪
い霊が取りついたのか。
彼は追い払うべく、さかんに頭を振った。
頭振りを止めると、目の前に女が立っていた。東京に就職した近所
の女だ。彼の初恋の相手でもある。ゴーカートを手にしている。
「どうしたんだよ、いきなり現われて」
「あんたこそ、どうしたんよ。目茶に頭振ったりして」
「狐火が見えたから、頭冷やしていた」
「やだ、私が狐だって言うの? 私東京勤めを辞めて、帰って来た
のよ。これからよろしくね」
彼はにわかには信じきれず、慎重に女を探りにかかった。
まるでどっちが狐なのか判らなくなる。
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