波乱の海をぶじ目的地へ

現世は激しく変動しています。何があるか判りませんが、どうあろうと、そんな日々を貧しい言葉でなりと綴っていけたらと思います

狐火

2012-12-16 17:37:20 | 超短編



*狐火


辺境の山村に、一つの灯りが瞬いている。麓から見ると、どうして

も狐火だ。狐の火が見えるようになるとは、ただごとではない。悪

い霊が取りついたのか。

彼は追い払うべく、さかんに頭を振った。


頭振りを止めると、目の前に女が立っていた。東京に就職した近所

の女だ。彼の初恋の相手でもある。ゴーカートを手にしている。

「どうしたんだよ、いきなり現われて」

「あんたこそ、どうしたんよ。目茶に頭振ったりして」

「狐火が見えたから、頭冷やしていた」

「やだ、私が狐だって言うの? 私東京勤めを辞めて、帰って来た

のよ。これからよろしくね」

彼はにわかには信じきれず、慎重に女を探りにかかった。

まるでどっちが狐なのか判らなくなる。


  ☆


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