樫の実
あまりに外側の殻がきっちりしていて、窮屈なので、樫の実は身もだえした。そんなちょっとした身動ぎでも、ミニカップのような殻では支えきれなくなり、樫の実は地面に落ちて、跳ね飛んだ。
跳んだ先が、少女のランドセルだったので、隙間から中へ潜り込んだ。
知らないで帰宅した女の子は、隣の席のマサル君からのプレゼントと勘違いした。
その明くる日は、バレンタインデーだった。女の子は高校生の姉から一個、チョコレートをちょろまかして、学校へ持って行った。
「マサル君、私のランドセルにドングリ入れたよね」
「僕? 入れないよ。僕のドングリなんか、ちゃんとあるもんね」
そう言って自分の机を覗き込み、中からドングリの実を一個つまみ出した。
少女は学校の帰り道、マサル君に渡そうとしていたチョコレートを、ほおばった。ほろ苦い味がして、チョコレートって、こんなに
苦かったかしらと思った。そのとき靴が何かを踏んだ気がした。地面を見ると、ドングリが落ちて散らばっていた。
「このドングリなんだわ。ランドセルに飛び込んだのは」
少女はそこに立ちん坊をして、ぼんやりドングリの木を見上げていた。すると挨拶でもするように、頭のうえに木の実が降ってきた。 堅くて痛いほどだった。少女は頭を打って地面に転がって行くドングリを、追いかけて拾い上げた。
チョコレートをちょこまかしたお詫びに、これを姉さんにあげようと思った。
それとも家においてある、ランドセルにとびこんだほうにしようかな。少女は迷いながら道を急いでいた。
向こうは意識しないうちにランドセルに飛び込んできたんだし、こっちははっきり意識している私にぶつかってきたんだもの、これはあげない。あげるのは向こうのにしょう。
少女ははっきり意識と言う言葉を遣ってそう思った。
知らないより、意識しているほうがレベルが上なんだ。少女は本心からそう納得した。
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