☆昼の月を胸に抱えるイルカ
海の上にはまっ青な空が広がっている。
雲一つない空に、まあるい昼の月が浮かんでいる。
海で遊んでいた一匹のイルカが、たまらなく昼の月が欲しくなり、月に向かってジャンプした。
空は高くて、月には届かない。何度飛び上がっても、届かない。届かなければ、届かないほど、月を欲しい思いは募っていった。
イルカは助走をつけて泳げば、高く飛び上がれるかと、幾度となく試みたが、失敗した。
次に助走の距離を長くすれば、高く飛べるかもしれないと、距離をのばしてやってみた。
助走をつけて泳ぐだけでくたくただった。それでもその先に昼の月はあるのだと奮起して、力の限り泳ぎ、決めた場所に来ると、海面を蹴って飛び上がった。
イルカはあまりの疲れで、意識が遠くなっていきながら、ひゅるひゅると空高く昇っていった。
そしてついに、昼の月を捕まえたのだ。いや、捕まえたと思った。そう感じたとたんに、気絶してしまった。
イルカが海の生き物であるからこそ、助かったのだろう。陸の生き物であったら、そんな高さから落下すれば、命を落としたに違いない。
イルカは海の底で、海藻にくるまれて何日か寝込んだ後、疲れも取れてぱっちりと目が覚めた。
夜だった。何かに煌々と照らされている気がした。光に導かれるまま、海面まで上っていき、目を開いた。
夜空には月が出ていた。けれどもその月は満月ではない。端が欠けていた。やっぱり自分はあのとき月を捕まえたのだ。そう信じられて満足した。その反面、月にすまないことをした気もした。
「お月さん、かじってごめんね、痛かったでしょう」
そう言って謝った。
二度と月を捕まえようなどとは考えなかった。
何日かが流れた。ふと気づいて見上げると、月は完全に回復して満月になっていた。
白昼の空に浮かぶ昼の月も満月だった。イルカはほっとして、背泳ぎをしながら、昼の月を眺めていた。
背泳ぎするイルカを見かけるようになったのは、このときからである。背泳ぎするイルカはみんな、胸に月を抱えている。大切な宝物だから、かじったりはしないのだ。
おわり
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