「温故知新」
私が好きで無い言葉に温故知新というものがあります。古いことを知ると、新しいことが分かるという意味らしいです。
校長先生がこの額の前に立って、偉そうに長々と演説をする光景を思い出すからです。
大体、自分が生まれる前のことなど知るもんか!という感じで現役の時代を過ごして来ました。もっとも歴史小説や教養としての歴史書は沢山読みました。しかし興味本位の読み方でしたので現在の事と深く関連づけて考えることはありませんでした。
しかし仕事を辞めて、老境の心理状態になると、自分の生まれる前のことでも現在のことに深く関係していることが実感出来るようになったのです。驚きです。そして初めて「温故知新」が身近に感じられるようになったのです。
例えば日露戦争で勝ったので日本は道を誤り、真珠湾攻撃をして完膚無きまでに叩きのめされたのです。こういう文脈は老人になってから初めて真理だと感じることが出来ました。
もう一つ例を書きます。1549年にイエズス会のザビエルが日本へ初めてキリスト教を伝えました。1520年頃からマルチン・ルターによる宗教改革が始まりますが、まだまだ旧教であるカトリック宗派の勢力が大きかったのです。その上、当時の航海術はスペインが一番すぐれていたのです。従ってスペインのバスク地方のザビエル城出身のザビエルの持ってきたものはカトリックでした。
そのイエズス会の日本での活動はどうなっているのでしょうか?
江戸時代の禁教の後、明治時代になってイエズス会日本管区が出来たようです。そして明治末期の1906年にローマ法王、ピウス10世の指示で上智学院を開設し、後に上智大学になりました。イエズス会は現在日本に4つの学校を開設しています。そしてイエズス会の属する修道院が数ヶ所あります。
イエズス会日本管区の本部は東京の四谷駅前の上智大学の構内にあります。
このように1549年、ザビエルが日本に来たと言う古い話が、現在の上智大学へ深く関係しているのです。
しかしイエズス会が明治維新後、しばらくしてから日本で活動を始めたのは何故でしょうか?
それも歴史的に考えると簡単に解答がでるのです。カトリック教会組織の中でイエズス会男子修道会は一番大きな修道会で、ローマ法王の精鋭部隊とも言われています。その本部はイタリアのローマにあるのです。
江戸末期に日本の開国を迫った国はアメリカ、イギリス、ロシア、フランスなどでした。イタリアは後発国だったのです。
幕末から入ってきたキリスト教諸派はアメリカのプロテスタント宗派、イギリスの聖公会、ロシア正教、などが有力でした。フランスのカトリックも長崎に教会を建て、隠れキリシタンと再会したのです。日本のカトリック組織はその後もフランスのカトリック教会の指導を受けていたのです。
アメリカ、イギリス、ロシア、フランスの国力の発展の歴史を知ると日本の現在のキリスト教の勢力分布が理解できるのです。勢力分布は俗っぽい考えで、信仰生活の上では重要ではありません。しかし古いことを、少し歴史的に考えると簡単に現在のことが分かるのです。まさしく温故知新ですね。
これこそ老境の知恵です。幸せです。以上は愚かな自分個人の体験です。知的に優れた方々は若い時から温故知新を実践していることと思います。
今日も皆様のご健康と平和をお祈り致します。藤山杜人
=下の写真は国立天文台の旧図書館です。古い本や記録が沢山蒐集保存してありました。=