私たちが若かりし20代に,社会人として搾取された安価なサラリーを必死に貯蓄し,購入した日本ロレックスの正規品を毎日毎日使い続け,四十年後,自分の息子に渡そうと,丸の内の日本ロレックスに初めて持参し,カウンターで〝メンテナンス拒否〟されたら…。どう感じますか。消費者という権利を行使する前に…
私は最近このことを考えると,異常に高騰したすべてのロレックスを売却して,パテックフィリップ,バセロンコンスタンチン,またはブレゲにでも今のうちにチェンジしておこうと真剣に思うようになりました。
ポールニューマンや手巻きのデイトナ,またはCal.1560以前のムーヴメント搭載のロレックスのメーカーメンテナンス拒否…が今やメーカーであるロレックスによって当たり前のようになされています。
かなりの高価でも中古のセカンドオーナーとして購入したのなら,まだ〝アンティークロレックス〟が好きだから,で少しは気が済むかもしれません。でも,新品で購入したファーストオーナーが,永年使った自分のロレックスを,ロレックスの窓口でメンテナンス拒否,それも〝改造やガッチャマン〟なんかもしていない,純正の真証ロレックスがメンテナンス拒否されたら〝消費者として〟どう思いますか。嫌というより,嫌な半端なブランド時計を何十年も着けていた自分が嫌になるかもしれませんし,それ以前に自分一代だけの時計であったことが,ハッキリしたため,子供には引き継がすことができない時計,という強い認識だけが残り,その時計を売却するか,タンスにしまうか,捨てるだけとなります。
ロレックスはメーカーとして①「定期的にメンテナンスをしていなかったのでメンテナンスはできない」,というかもしれませんし,②「生産終了のためパーツがありません」,というかもしれません。①は極端な話,毎年メンテナンスをしていたら,ポールニューマンやCal.1560以前のムーヴメント搭載のロレックスなどを今後も永年に渡ってメンテナンスをしていただけるのでしょうか。②パーツがない…ダイアルは後年のオリジナルを製造できているので,それほど複雑でもない(多くは互換性のある)ロレックスムーヴのパーツをストックしておくのはメーカーの義務だと思います。
パテックフィリップはその点,偉いと思います。確実に子や孫いや,パテックフィリップ社が存在する限り,永遠にメンテナンス(〝永遠〟や〝永久〟という表現は公正取引上,独占禁止法に抵触するそうですが。)をしていただけるのですから。時間はかかるが,それでもメンテナンス依頼のパテックに対応のパーツがなければパテック社が再製造する。消費者が考える〝高級時計として当たり前の姿勢〟がそこにはあるのです。ロレックスももちろん高級時計の分類に入ります。
ただし,パテックフィリップやバセロンコンスタンチンなどの過去のアンティークを修理する場合,難問があるようでして,そのブランドの〝日本正規代理店〟の判断によって,スイス送りにするか,依頼者へ修理不可として戻すかにするそうですが,最悪,直接,自分でスイス送りにするという通常気の遠くなりそうな,手段もあります。
ところで,ロレックスは正直,〝作り過ぎ〟に尽きます。メンテナンス期間を限定し,将来のメンテナンスを眼中に入れない,資本主義の権化の様な商業主義と揶揄されても仕方がないほどです。〝自社で生み出した製品をすべては責任を負えない〟というのでは,やはりマニュフクチュールな時計ではなく,単なる〝量産工業製品〟な時計といえばそれまでですが。
改造品やガッチャマンのロレックスならばメンテナンスは拒否してもよろしい。しかし,一般に,月収サラリーの二倍以上も支払って購入した本物のロレックス製品にはどんなに経年してもメーカーの責任でメンテナンスするのは当然,とするのが消費者心理です。家電製品のテレビや洗濯機,アイロンでもないのですから…
現状の情けないメンテナンス拒否の風景はロビーで見ていて,いつも自分の現行ロレックスの将来が,強く危惧されます。ですから,ウォッチコレクターの世界認識として〝パテックコレクターは親子数世代,ロレックスコレクターは一代限り〟とも言われています。それは,時計の〝メーカーメンテナンスが重要なボトルネック〟になっているのです。
ロレックス社ほどの規模の会社ならば,特別に〝アンティークロレックス・メンテナンス〟部門を新設することを,私は強く要望したいです。もうそろそろ,パテックフィリップ社やバセロンコンスタンチン社のような〝自社製品に対する永遠の愛情と姿勢〟は大切なのではないでしょうか。
アンティークロレックス・メンテナンス部門の新設はロレックス社のイメージに計り知れないほどの,効果をもたらすに違いありません。特に,世界中のロレヲタにとってですが…
私は私の代でコレクションのロレックスを数十年後,〝メンテナンスできない〟からというチンケな理由で〝全部売却〟,という憂き目だけは避けたいのです。
現行品もロレックスが言うところの定期的なメンテナンス履歴がその個体になければ,四十年後の自分のロレックスが窓口で拒否される,ことになります。また,1980年(シリアル頭,〝6〟ナンバー)以前の4桁のモデルはロレックスでのメンテナンスを拒否される可能性が高いので,ロレックスメンテナンスオンリー主義の私は,もうリスクを抱えてまでアンティーク中古ロレは購入する気分にはなりません。これこそが,ロレヲタである私にとっての〝今,そこにある危機〟といえます。