虚構金融 | ||
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読 了 日 | 2012/06/05 | |
著 者 | 高嶋哲夫 | |
出 版 社 | 文藝春秋 | |
形 態 | 文庫 | |
ページ数 | 477 | |
発 行 日 | 2008/03/10 | |
I S B N | 978-4-16-771771-1 |
次馬根性で思うのだが、先の東日本大震災について、著者のところには出版社、あるいはテレビ局などから、インタビューや取材の申し込みはなかったのだろうか?などということを思った。
そんなことを思うのは著者の経歴による大学の工学部を卒業して後、原子力研究所の研究員となって、カリフォルニア大学に留学して、1979年には日本原子力学会賞技術賞を受賞する、というような経歴を見ると、凡人の僕からしたら、何ともったいない話だと思うのだが、人それぞれ目指すところや、思惑があるのだろうから、とやかく言う筋合いはない。
学者にならず、作家の道を選んだのは、それなりの考えがあったのだろう。そうした経歴からか、持ち蓄えた知識がさせるのか、まだ読んではいないが「メルトダウン」(談社刊)、「M8」(集英社刊)などという作品を発表している。その前には「スピカ 原発占拠」(696参照)という作品もある。(こちらは読んでいる)
東日本大震災の後は、関連した書物が次々出ているが、著者の作品はそれよりずっと以前に出ており、あたかも予言したかのような作品群だ。(といっても、そうした内容かどうかは知らないのだが・・・・)そんなことから、僕は野次馬的な発想をしたのだが、この文を書くためネットを覗いてみたら、やはり著者も被災地を訪れていたようだ。
話がそれた。
しかし、本書を読んで物語に引き込まれていくうちに僕は、やはり著者は作家に転向してよかったのか!とも思えるようになる。
東京地検特捜部に所属する、後鳥羽雄一郎検事を主人公とするストーリーだが、政官財が絡む汚職事件に発展しそうな事案に関連して、彼が参考人として呼んだ財務省の官僚・大貫貴志が、ホテルの屋上から身を投げた。
後鳥羽と大貫の接見では穏やかな話し合いだったことから、後鳥羽は自殺という警察の判断に疑問を持ち続けて、独自に調べを始めるのだが・・・・。
大貫事件にこだわって調べを進めるうちに、同僚の女性官僚や国会議員が後鳥羽に接触してくる。そんな中で、後鳥羽は暴漢に襲われる。そして、接触してきた国会議員が交通事故でなくなるという事件が起きる。
そうしたストーリーの展開の中に、複数の関係者の話から大貫という人物像があいまいになってくる。だが、上司の制止にもかかわらず、後鳥羽があくなき調査を続けるのは、彼が接見した時に抱いた印象が官僚としての自信や、家族を愛してやまない姿などを垣間見たからなのだ。
構金融というタイトルから、銀行の架空融資か不良債権始末の話かと思っていたら、終盤になってとてつもない大きな意味を持つことになる。
大手の地銀同志の合併問題からスタートしたストーリーが、官僚や国会議員の不審な死に至る事件に発展して、なかなか全貌を見せずに進む中、後鳥羽は大貫の残された母娘や、財務省の同僚たちから情報を集める。そして、死ぬ直前に大貫は、交通事故で死んだ国会議員の早河と、何か大きなことをやろうとしていたことがわかるのだが・・・・。
東京地検特捜部が抱える、銀行合併を端緒として公的資金の投入問題に絡む、贈収賄疑惑がどう決着をつけるのか、といった問題と高級官僚や国会議員の死がどう繋がるのか?一検事の地道な捜査が真相を明らかにできるのかは、最後まで予断を許さない。
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