隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1410.ゴッホの遺言

2013年11月14日 | 絵画

 

ゴッホの遺言(完全版)
読 了 日 2013/10/24
著  者 小林英樹
出 版 社 中央公論新社
形  態 文庫
ページ数 340
発 行 日 2009/12/25
ISBN 978-4-12-205218-5

 

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とはなしにAmazonのサイトで本を見ている時に、著者の「フェルメールの仮面」を見つけて、そうなのだ、それはまさに見つけたという言い方がぴったりだと今でも思っている。
僕がその魅力的なタイトルに惹かれて買って読んだのは4月だった。他の兼業作家―この言い方が失礼でなかったらいいのだが―と同様に、著者・小林英樹氏も画家でありながら、小説の内容もタイトルに劣らず魅力的なものだったから、僕はすぐにファンとなった。
僕が兼業作家という言い方をするのは主として、医師の資格をもって本業をこなしながらも、次々と傑作をものにしている作家たちのことで、そうした人は何人もいるのだ。
「天は二物を与えず」などと昔から言われてきたが、僕など凡人にはそれどころか一つだって持っているかどうか怪しいものだ。ところが先に挙げた人たちに、天は惜しげもなく二物も三物も与えてしまうのだ。不公平だなどと嘆いても始まらない、まして自分の無能さを恨んだって仕方ない。
それどころか僕は、そうして天から与えられて二物も三物も持ち合わせた人たちの、作品を読むことに喜びを感じているのだ。

 

 

本書は著者小林氏によれば、どうやら2冊の内の1冊で、先に書いたものの一部をその後改訂したものらしい。そこで最初の版とは区別して、本書は完全版となっている。
おしまいまで読めばどこが改定されたのかはわかるが、日本推理作家協会賞を受賞した最初に書かれた作品が、その後判明した事実によってその一部を改定せざるを得なくなったということなのだ。
それはともかくとして、本書はゴッホに関する2点の重要な要素で構成されている。
一つは、ゴッホの「アルルのゴッホの寝室」の制作過程をスケッチとして描かれたものが、贋作であるという点。
もう一つは、ゴッホの自殺についてだ。
1888年、ゴッホはブルターニュのゴーギャン宛に一通の手紙を出した。ところが、その手紙が届く前に、ゴーギャンはゴッホの住むアルルに向かう列車あの中だった。すれ違いによりゴーギャンはその手紙を受け取ることがなかったのだ。そもそもそれが元で一枚の贋作が生まれた、というのが小林氏の主張である。

 

 

紙の中でゴッホは制作中の、「アルルのゴッホの寝室」を紹介するために、スケッチを描いている。ところが1914年に出版されたゴッホの書簡集の中に、手紙とは別に独立したスケッチがあり、それはゴッホが弟の テオに紹介のために送ったスケッチとなっている。
古今ゴッホの作として認められているこの「スケッチ」こそ、本書の主題となるもので、画家の目から見てこれが贋作ではないかという疑問を持ったのがである。
その疑問を立証するため、著者はゴッホの生い立ちとその絵画の成り立ちを改めて追い求めた。
本書の大半を費やす300ページにも及ばんとする証明は、まさにあらゆる角度からの観察と検証により、読むものを引き込まずにはおかない。さらには、その贋作者Xをも解明するのだ。その追求の仕方は、足を使って事件の真相を追い求める刑事の姿そのものだ。

ついには、調査の結果がゴッホの自殺の原因までにも及んでいくに従い、終盤の執念とも言えるこの調査が、いささか思い込みの激しさ?に、わずかな違和感を覚えるところもあるが、圧倒的な展開にねじ伏せられる感じだ。
事実に基く検証と推理の迫力は、前に読んだ「フェルメールの仮面」のフィクションとは異なる面白さだ。

 

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