隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

0798.団十郎切腹事件

2007年01月27日 | 安楽椅子探偵
團十郎切腹事件
読了日 2007/1/27
著者 戸板康二
出版社 講談社
形態 文庫
ページ数 296
発行日 1981/10/15
ISBN 0193-362140-2253

中村雅楽譚も4冊目となった。できれば昭和52年に立風書房から発行された単行本を読みたかったのだが、ネットのオークションで見つからなかったので、文庫を買った。 読む順序が逆になってしまったが、ここに収録されているのが江戸川乱歩氏の勧めにより書かれた処女作から順次、探偵雑誌「宝石」に発表されたものだ。

話しは違うが、もう今となってはうろ覚えなのだが、江戸川乱歩氏がこの雑誌の編集に携わっていた頃、雑誌の体裁が変わって表紙がコーティングされたきれいなものになって、 イラストに棟方志功氏の版画が使われていたことがあり、それまでとはイメージが一新されて、高級感をさえ漂わせていたことが懐かしく思い出されるのだが、いつ頃だったろう?

ここには収録されていないが「宝石」に発表された中でもう1編、「六スタ殺人事件」を最後として、それ以降はタイトルに”殺人”も”事件”も使われなくなっている。著者のあとがきによれば、 ”事件”を続けたのはヴァン・ダインを真似たのだそうだ。さて、「淀君の謎」のところで僕はジョセフィン・ティ女史の「時の娘」についてちょっと触れたが、 著者も勿論この作品は読んでいて、やはり意識していたようだ。直木賞を受賞した「團十郎切腹事件」がまさにアームチェア・ディティクティブならぬベッドサイド・ディティクティブの様相を示す。 江戸末期、嘉永年間に起こった名優・八代目市川團十郎の謎の死を、人間ドックで3日間の入院中に雅楽が推理するという趣向である。
雅楽譚のほとんどはレギュラーである竹野記者か、もう一人のレギュラーとも言える江川刑事の持ち寄るデータを元に雅楽が推理するという形の、いわゆる安楽椅子探偵型だ (厳密に言えば、雅楽自身も現場に赴き様子を伺うこともあるので、安楽椅子探偵ではないともいえるのだが・・・)。
本書に収録されている中の「松王丸変死事件」では、冒頭で世田谷の雅楽宅を訪れた竹野記者に雅楽が「今日の竹野さんの朝からの様子を当ててみようか」というセリフが出てくる。
これはシャーロック・ホームズが初めて見えた依頼人の素性や、行動などを言い当ててインパクトを与える常套手段だ。 僕のように歌舞伎や演劇方面に疎い読者でも思わずにやりとさせられるところが随所にあり、それがまた楽しいのである。

初出一覧
# タイトル 紙誌名 発行月
1 車引殺人事件 宝石 昭和33年7月号
2 尊像紛失事件 宝石 昭和33年11月号
3 立女形失踪事件 宝石 昭和34年3月号
4 等々力座殺人事件 宝石 昭和34年5月号
5 松王丸変死事件 宝石 昭和34年7月号
6 盲女殺人事件 宝石 昭和34年9月号
7 團十郎切腹事件 宝石 昭和34年12月号
8 奈落殺人事件 オール読物 昭和35年7月号




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