(前回からの続き)
前述の事情などから、本邦法人が内部留保として抱える現金預金は増え続けている―――こうした状況に対し、いまの安倍政権内には不満感がくすぶっているもようです。「企業はキャッシュをため込み過ぎている、これを設備投資や賃上げに使わせるため、内部留保に課税するべきだ」なんて声が今後、政府内で高まりそうだとの観測もあるようで・・・
しかし・・・企業がキャッシュリッチになった現状を結果としてもたらしたのは、当の安倍政権・・・の経済政策「アベノミクス」(≒円安誘導)だったりするわけです。本稿ですでに綴ってきたとおり、アベノミクスは実態以上の円安外貨高を演出して企業の対外投資意欲を減退させるとともに、この国の経済活動の支柱である個人消費に冷や水をかけるような政策を連発し、企業の国内収益見通しを不透明にしてしまった・・・
この個人消費に対するアベノミクスのネガティブな作用についてはこちらの記事を含めて本ブログであれこれ書いているとおりです。手短にいえば、アベノミクスは円安誘導の「悪いインフレ」と「消費増税」の「Wパンチ」で、国民の消費力を意図的に大きく削いだ、ということ。それが表れている一例が、こちらの記事等で紹介したアベノミクス後のエネルギー&食料品価格の高騰ぶり。これによって家計の大半は光熱費や食費の急増に苦しみ、娯楽や教養などの他の消費に回すおカネを失ったはず。このあたりはアベノミクス下で減り続ける勤労者の実質所得とか、対照的に急上昇中のエンゲル係数などで誰でも容易に確認できるところです。前回述べたとおり、勤労者の所得は増えていないわけだから、生活費が政策的に引き上げられればこうなるのは必然です・・・(って、それこそが日本を貧富差の大きな国に作り替えようとするアベノミクスの狙いのとおりなのだけれど・・・?)
こうしてアベノミクスは、その開始からいままで、日本企業にとって内外の新規投資に二の足を踏ませるような経済・為替環境を現出させてきました。となれば各社は、合理的な経営判断の結果として、手元に残った利益をキャッシュで抱えざるを得なくなります。かくして、企業内キャッシュの増加率が下記グラフ(本稿前段でも登場)のとおり、ここ数年で一気に高まったのは、アベノミクスのせいだった、ということになるわけです・・・(?)
・・・したがって、本邦企業の経営者にとっては、安倍政権が内部留保への課税みたいなことをほのめかすのならば、それは筋違い、という思いが強いはず。実際、日本商工会議所の三村会頭は9月の会見で、内部留保は新たな設備投資やM&Aに備えた資金で、これへの課税は企業のやる気を失わせ、経済原則に反する、と述べておられます。そのご本心は、だって、アベノミクスだから・・・なのではないでしょうか(?)。