(前回からの続き)
本稿は、「アベノミクスは失敗したのではないか」と世間の一部で聞かれる声に対し、その所期の目的「貧富差拡大」達成の観点からはアベノミクスは見事に成功していることをデータであれこれ示すことで安倍政権、そして金融政策でアベノミクスを支える黒田日銀を擁護(?)しようと試みるものです。
で前回、アベノミクス開始以降の国民の実質賃金が大きく減少した様子をご紹介し、そのおもな原因が政策意図的な円安インフレにあることを指摘しました。本ブログでたびたび書いているとおり、この円安インフレは日銀が実行中の「量的質的金融緩和(異次元緩和)」という名の円安誘導策によって引き起こされたものであることは明らかです。これが円建て輸入品価格の上昇を促して物価、とりわけエネルギー価格と食料品価格を高騰させ、生活費に占める光熱費および食費の支出割合が大きい所得額中~低位層の生活レベルの低下に寄与したものと推察されます。
このあたりは以前からご紹介している、アベノミクスの実質開始時点(2012年11月)を100としたときの消費者物価指数(CPI)の推移を表す下記グラフで窺い知ることができます。これによれば直近(今年3月時点)のCPI総合値は104.1なのに対し、食料品は109.9、電気代105.6と、どれも総合値を上回るインフレぶりを示しています(・・・が、世界的な原油安を受けて電気代を含むエネルギー価格はここのところ大きく下がっているわけですが、このあたりは後述します)。こうなれば上述のように、一般庶民の経済生活水準は悪化し、結果として貧富差が開くことになるでしょう。
そのへんが実際に確認できるのが、名目の家計消費指数(2010年:100)の推移を表した次のグラフ(総務省統計局データ)。
これによると、消費支出は漸減傾向にあるにもかかわらず、アベノミクス開始(グラフでは2013年~)以降、国民の食料品と光熱・水道の両者とりわけ前者の食料品にかかる支出が逆に大きく増えている様子が分かります。CPIグラフと合わせて考えれば、これは円安インフレで食料品価格が上がったためと考えるべきでしょう。家計の全体の消費支出額は減っているのに、政策的なインフレの影響で食費は逆に増えている・・・ということで、国民の困窮度を示す指標のひとつが上がるわけです。それは―――「エンゲル係数」。
上記は2008年から昨年までのエンゲル係数の推移を見たものです(2人以上世帯:総務省統計局データ)。エンゲル係数とは消費支出に占める食料費の割合のことで、一般的にこれが高いほど生活水準は低いと考えられます。まあそれはそうでしょう、生命維持に直結する食費の支払いに追われれば、人々は服や光熱費や娯楽といったその他の消費は切り詰めなくてはなりませんからね。
で、そのエンゲル係数ですが、アベノミクス開始以後に急増していることがよく分かります。2000年代は2013年まではおおむね23%台だったものが2014年には24%、そして2015年には25%へ跳ね上がりました。エンゲル係数のこれほどまでの短期かつ大幅な上昇は、少子高齢化にともなう年金受給世帯の増加みたいな社会構造的な要因ではなく、上記要因すなわちアベノミクスの円安誘導による食料品価格の意図的な引き上げの結果であることは明白でしょう。