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論文)ジャスモン酸による内生ジベレリン量の制御

2024-02-11 12:57:32 | 読んだ論文備忘録

Jasmonate inhibits plant growth and reduces gibberellin levels via microRNA5998 and transcription factor MYC2
Fukazawa et al.  Plant Physiology (2023) 193:2197–2214.

doi:10.1093/plphys/kiad453

ジベレリン(GA)とジャスモン酸(JA)は植物の成長に対して拮抗的に作用する。GAとJAのシグナル伝達は、それぞれDELLAタンパク質とJAZタンパク質によって抑制されており、DELLAとJAZは相互作用をすることでそれぞれの抑制作用を阻害している。そのため、JAがJAZの分解を促進するとDELLAが遊離してGAシグナルを抑制、GAがDELLAの分解を促進するとJAZが遊離してJAシグナルを抑制し、DELLA-JAZの相互作用を介してJA-GA間のクロストークが形成されている。広島大学深澤らは、DELLAタンパク質のREPRESSOR OF ga1-3(RGA)にGFPを付加した融合タンパク質を自身のプロモーター制御下で発現(RGApro:GFP-RGA)する形質転換シロイヌナズナ芽生えに各種処理をして根でのGFP-RGAの蓄積を観察した。GA生合成阻害剤のパクロブトラゾール(PAC)処理およびJA処理は根のGFP-RGA蓄積を促進したが、JAとGAの同時処理によってGFP-RGAは分解された。このことから、JAによるDELLAタンパク質の蓄積促進は、DELLAタンパク質の分解を阻害しているのではなく、内生GA量の制御によってもたらされている可能性が示唆される。そこで、芽生えをJA処理した際の内生GA量の変化を観察した。その結果、JA処理は、シロイヌナズナの活性型GAであるGA4、活性型GAの前駆体であるGA12、GA53、GA15、GA24、GA19、不活性型GAのGA34、GA8の量を減少させることが判った。したがって、JA処理をした芽生えでは活性型GAが減少したことによってDELLAが蓄積すると考えられ、JAはGA生合成を阻害してGAの不活性化を促進していることが示唆される。GAの生合成や不活性化に関与する酵素遺伝子の発現を見たところ、JA処理はGA生合成に関与するAtKSAtGA3ox1AtGA3ox2 の発現を有意に低下させたが、AtGA20ox1AtGA20ox2 の発現は上昇させた。また、GAの不活性化に関与する遺伝子のうち、AtGA2ox4AtGA2ox7AtGA2ox9 の発現を上昇させた。AtGA20ox1AtGA20ox2 の発現上昇は、GA量の減少によるフィードバック制御に起因すると考えられるが、AtGA3ox1 の発現は抑制されたことから、JAによってAtGA3ox1 のGAフィードバック制御が阻害されている可能性がある。JAシグナル伝達を制御しているMYC2ファミリータンパク質(MYC2、MYC3、MYC4)が機能喪失したmyc2 myc3 myc4 三重変異体では、JA処理によるAtGA3ox1AtGA3ox2AtGA2ox4AtGA2ox7 の発現変化が見られなかったことから、これらの遺伝子の転写はMYC2ファミリータンパク質によって制御されていることが示唆される。MYC2ファミリータンパク質は転写活性化因子として機能しており、一過的発現解析やChIP解析から、MYC2ファミリータンパク質はAtGA2ox4AtGA2ox7AtGA2ox9 のプロモーター領域に結合して発現を活性化することが判った。AtGA3ox1 の発現は内生GA量によって制御されており、PAC処理によって発現量が上昇するが、JAを同時に処理すると発現上昇が抑制された。JAによるAtGA3ox1 の発現抑制はMYC2ファミリータンパク質に依存しているが、MYC2ファミリータンパク質は転写活性化因子なので、この過程には何らかの他の機構が関与している可能性がある。AtGA3ox1pro:LUC を用いた一過的発現解析において、JA処理はLUC活性に影響を示さなかったことから、JAによるAtGA3ox1 の発現抑制は、mRNAの安定性のような転写後制御によるものである可能性が示唆される。そこで、miRNAデータベースmiRbaseを検索したところ、miR5998がAtGA3ox1 mRNAの5′UTR配列と相同性を示し、JAによって発現誘導されることが判った。また、一過的発現解析において、miR5998 の過剰発現はAtGA3ox1 の発現を抑制した。したがって、AtGA3ox1 はmiR5998のターゲットであると考えられる。miR5998 プロモーター領域にはMYC2結合部位が存在し、MYC2はmiR5998 の発現を直接活性化した。miR5998 を過剰発現させた形質転換体は、AtGA3ox1 発現量が減少して矮化したが、GA処理をすることで成長が回復した。以上の結果から、ジャスモン酸は、AtKSAtGA3ox1AtGA3ox2 の発現を低下させてGA生合成を阻害し、MYC2ファミリータンパク質を介してAtGA2ox4AtGA2ox7AtGA2ox9 の発現を促進してGA不活性化を促進することにより、内生GAレベルを減少させることが判った。AtGA3ox1 の発現は、MYC2ファミリータンパク質を介したmiR5998 発現の活性化により抑制されるが、AtKSAtGA3ox2 はmiR5998のターゲットとなっていないことから、他の発現制御機構が存在するものと思われる。

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