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論文)植物の成長・発達におけるサイトカイニン応答因子の役割

2016-03-31 20:04:31 | 読んだ論文備忘録

The cytokinin response factors modulate root and shoot growth and promote leaf senescence in Arabidopsis
Raines et al. The Plant Journal (2016) 85:134-147.

doi: 10.1111/tpj.13097

サイトカイニン応答因子(CRF)はAP2/ERF転写因子に属し、6つの遺伝子からなるファミリーを構成している。米国 ノースカロライナ大学チャペルヒル校Kieber らは、植物の成長・発達におけるCRFの役割を解析した。シロイヌナズナ芽生えをサイトカイニン処理するとCRF2CRF5CRF6 の発現量が増加した。芽生えを根とシュートに分けて転写産物量の変化を見たところ、CRF1 以外の5つのCRF はサイトカイニン処理によってシュートでの発現量が増加した。また、CRF6 はシュートと根の両方で発現量が増加した。CRF のT-DNA挿入機能喪失変異体および過剰発現個体(OX)での主根および側根の成長を見たところ、crf1,3,5,6 四重変異体において根の成長が著しく阻害されていた。よって、CRFは冗長的に根の成長の正の制御因子として機能していることが示唆される。CRF3OXおよびCRF5OXの芽生えは側根量が多く、crf2,5,6 変異体、crf1,3,5,6 変異体は野生型よりも側根数が減少していた。よって、CRFは側根成長を促進していると考えられる。crf1,3,5,6 変異体、crf2,5,6 変異体の根端分裂組織(RAM)は野生型よりも小さく、CRF5OXでは大きくなっていた。サイトカイニンはRAMの大きさを負に制御するが、CRF5OXもcrf1,3,5,6 変異体もサイトカイニン処理によってRAMが小さくなり、サイトカイニン処理をした野生型と同等になった。CRF1OX、CRF3OX、CRF5OXのロゼット葉は野生型よりも小さく、逆に、crf 三重変異体はどの組合せであってもロゼット葉が大きくなった。crf1,3,5,6 四重変異体のロゼット葉の大きさは野生型と同程度であり、crf1/CRF1,2,5,6 変異体は野生型よりも小さくなった。crf1/CRF1,2,5,6 変異体の表現型がcrf 三重変異体とは逆になるということは、高度のcrf 変異はCRFの機能を正常な成長に必要な閾値以下に減少させることを示唆している。また、CRF2はシュートの成長においてCRF3よりも重要であると考えられる。crf1/CRF1,2,5,6 変異体の葉は野生型よりも細く、湾曲しており、花序は非常に小さくなっていた。サイトカイニンは葉の老化を阻害することが知られており、CRF6は葉の老化の負の制御因子として機能していることが報告されている。CRF の単独もしくは二重の機能喪失変異体の葉の老化は野生型と同等であったが、crf1,3,5,6 変異体やcrf1/CRF1,2,5,6 変異体では老化が遅延した。CRF1OX、CRF3OX、CRF5OXでは葉の老化が促進され、老化のマーカー遺伝子SAG12 の発現量が増加し、クロロフィル合成に関与しているCAB2 遺伝子の発現量は減少していた。よって、CRFは葉の老化を正に制御していると考えられる。crf1/CRF1,2,5,6 変異体の自殖後代からはcrf1/CRF1,2,5,6crf2,5,6 の芽生えのみが得られ、crf1,2,5,6 系統は得られなかった。調査の結果、crf1,2,5,6 変異体は胚性致死となるようで、CRFは雌性配偶体や胚の発達に関与していることが示唆される。サイトカイニンは暗所での胚軸伸長をエチレン生合成を高めることで阻害していることが知られている。CRF3OXとCRF5OXの黄化芽生えの胚軸は野生型よりも長く、crf1,3,5,6 変異体やcrf2,5,6 変異体の胚軸は野生型よりも短かった。しかし、これらの過剰発現系統や変異体はサイトカイニン処理に応答して胚軸伸長が阻害されることから、CRFは暗所での胚軸伸長におけるサイトカイニン応答に必須ではないと考えられる。CRFは他のAP2/ERF転写因子と同様にGCC-boxに対して高い親和性で結合することが判明し、おそらく転写活性化因子として機能していると考えられる。RNA-seq解析から、crf1,3,5,6 変異体の根では野生型よりも1803遺伝子の発現量が高く、1319遺伝子の発現量が低くなっていることがわかった。crf1,3,5,6 変異体の発現量が変化している遺伝子の中にはサイトカイニンによって強く制御されている遺伝子群(ゴールデンリスト)が含まれていた。crf1,3,5,6 変異体のシュートでは800遺伝子の発現量が増加し、213遺伝子の発現量が減少していた。そしてそれらの遺伝子もゴールデンリスト遺伝子群が多く含まれていた。crf1,3,5,6 変異体において発現量が異なる遺伝子のオントロジーカテゴリーを見ると、非生物/生物ストレス応答、輸送、シグナル伝達に関するものが多く含まれていた。発現量が異なる遺伝子には転写因子をコードするものが多く見られることから、CRFは様々な転写因子を制御しているものと思われる。サイトカイニンは根においてPINオーキシントランスポーターの量を調節しているが、crf1,3,5,6 変異体のPIN 転写産物量に変化は見られなかった。しかし、PINタンパク質をリン酸化してPINのリサイクルを制御するタンパク質キナーゼをコードしているWAG1WAG2 の発現量は減少していた。crf1,3,5,6 変異体のRAMが小さいことに呼応して、変異体では幾つかの細胞周期関連遺伝子の転写産物量が減少していた。エチレン、オーキシン、ジベレリン、アブシジン酸、サイトカイニンといった植物ホルモンの代謝やシグナル伝達に関与する遺伝子の発現量も変化していた。サイトカイニンに関与する遺伝子としては、IPTLOGCKX ファミリーの遺伝子が含まれており、幾つかのタイプA ARR 遺伝子の発現量は減少していた。内生サイトカイニン量を見ると、crf1,3,5,6 変異体の根やシュートでサイトカイニン量が減少し、CRF5OXのシュートではリボシド型サイトカイニンが増加していた。以上の結果から、CRF転写因子は植物の様々な成長・発達過程において重要な役割を担っていることが示唆される。

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