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論文)DNAの脱メチル化によるトマト果実登熟の制御

2015-10-02 05:47:01 | 読んだ論文備忘録

A DEMETER-like DNA demethylase governs tomato fruit ripening
Liu et al.  PNAS (2015) 112:10804-10809.

doi:10.1073/pnas.1503362112

DNAのメチル化は、遺伝子発現、トランスポゾンのサイレンシング、DNA組換えなどにおいて重要な役割を演じている。植物においてDNAのメチル化は対称の位置にあるシトシン残基(CGやCHG)と非対称なシトシン残基(CHH)で起こる。また、植物では、DEMETER-like DNAデメチラーゼ(DML)のDNAグリコシラーゼ-リアーゼ活性によるメチル化されたシトシンの除去とシトシンの置換が行われる。フランス ボルドー大学のGallusci らは、トマトを実験材料に用いてDNAの脱メチル化の役割について解析した。トマトゲノムにはDMLをコードすると推定される遺伝子(SlDML )が4つあり、いずれの遺伝子もトマトの各器官で発現しているが、SlDML4 遺伝子は他の遺伝子に比べて発現量が非常に低い。また、SlDML2 は果実登熟時に発現量が劇的に増加した。RNAiによってSlDML の発現を抑制した形質転換トマトは、果実において、登熟の遅延、形態の変化、色の変化、艶の強調、単為結果といった変化が単独もしくは複合して現れた。果実ではSlDML2 の発現量が高いことから、ウイルス誘導遺伝子サイレンシング(VIGS)によってSlDML2 の発現を特異的に抑制したところ、果実の登熟異常が再現された。RNAi系統では果実の登熟開始が野生型よりも10日から20日遅くなり、45日以上経過しても登熟が完了しなかった。同時に、カロテノイドやりコペンの蓄積やクロロフィルの分解も遅延した。また、一次代謝産物の組成も変化しており、リンゴ酸の過剰蓄積、グルコース、フラクトース、グルタミン酸、ラムノース、ガラクトースといった登熟果実に含まれている成分の減少もしくは蓄積遅延が見られた。クリマクテリック期のエチレン生産量も大きく減少していた。トマト果実の登熟過程に関与しているCOLORLESS NON RIPENINGCNR )、RIPENING INHIBITORRIN )、NON RIPENINGNOR )やカロテイノイド蓄積に関与しているPHYTOENE SYNTHASE 1PSY1 )の発現量をRNAi系統と野生型で比較すると、CNR の発現誘導が遅延し、他の3遺伝子は発現量が大きく減少していた。メチル化感受性PCR(McrBC-PCR)解析を行なったところ、野生型果実ではRINNORPSY1 のプロモーター領域が登熟に伴い脱メチル化されていくことがわかった。また、バイサルファイトシークエンシング法による解析から、野生型果実ではNORPSY1CNR のプロモーター領域のシトシンが登熟に伴い脱メチル化されていくことが示された。以上の結果から、DNAの脱メチル化による遺伝子発現の活性化は、トマト果実の登熟にとって重要であることが示唆される。

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