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論文)アブシジン酸による芽生え主根の伸長阻害

2023-01-19 09:32:09 | 読んだ論文備忘録

Abscisic acid inhibits primary root growth by impairing ABI4-mediated cell cycle and auxin biosynthesis
Luo et al.  Plant Physiology (2023) 191:265-279.

doi:10.1093/plphys/kiac407

アブシジン酸(ABA)は、植物の様々な発達過程を制御しており、高濃度のABAは根の伸長を抑制するとされている。しかしながら、その詳細な機構については明らかではない。中国 西北工業大学Shuらは、ABAシグナル伝達経路において正の制御因子として機能している転写因子のABA INSENSITIVE 4(ABI4)に着目して解析を行なった。その結果、シロイヌナズナ芽生えをABA処理することによって主根の伸長が阻害され、根端部でのABI4 転写産物量が増加すること、abi4 変異体芽生えはABA処理に対する感受性が低下して、主根伸長阻害の程度が野生型植物(WT)よりも弱いことが判った。通常の培養条件(1/2 MS培地)では、WTとabi4 変異体芽生えの根分裂組織領域の大きさと細胞数に差異は見られないが、ABA処理をするとWTでは領域の大きさと細胞数が減少し、abi4 変異体では減少の程度が少なかった。そこで、ABI4と細胞周期との関連を調査したところ、abi4 変異体の根端部では細胞周期を正に制御するサイクリンやサイクリン依存時キナーゼをコードする遺伝子の発現量がWTよりも高いことが判った。abi4 変異体では、これらの遺伝子のABA処理後の発現量変化がWTよりも少なく、特にサイクリンBをコードするCYCB1;1 とサイクリン依存性キナーゼをコードするCDKB2;2 の発現量は常にWTよりも高くなっていた。クロマチン免疫沈降アッセイから、ABI4が結合する多くの遺伝子は細胞周期に関連していることが判明し、一過的発現解析から、ABI4はCYCB1;1 およびCDKB2;2 のプロモーター領域と直接相互作用をして転写を抑制することが確認された。ABI4CYCB1;1CDKB2;2 を過剰発現させた形質転換体芽生えの主根の長さは、1/2 MS培地で育成した際には同等だが、ABA処理条件ではOE-ABI4 の主根はWTよりも短くなり、OE-CYCB1;1OE-CDKB2;2 はWTと同等であった。また、OE-ABI4 のABA存在下での表現型は、CYCB1;1CDKB2;2 の過剰発現によって回復した。さらに、abi4/cdkb2;2 二重変異体、abi4/cycb1;1 二重変異体の主根長は、1/2 MS培地育成下ではabi4 変異体と同等であったが、ABA処理によりabi4 変異体よりも短くなった。これらの結果から、ABA処理によるOE-ABI4 の主根の伸長抑制は、ABI4によるCYCB1;1CDKB2;2 の発現抑制によるものであり、CYCB1;1CDKB2;2 はABI4の遺伝的下流で作用していることが示唆される。根の発達では根端部のオーキシン濃度が重要であることから、オーキシンレポーターDR5-GFP を発現させて解析を行なった。1/2 MS培地育成下ではabi4 変異体とWTの根端部におけるGFP蛍光レベルは同等であったが、ABA添加後のabi4 変異体のGFP蛍光はWTよりも著しく高いことが判った。また、WTの根ではABA添加によってオーキシン生合成酵素遺伝子YUCCA2YUCCA8 の発現量が減少するが、abi4 変異体での発現量はWTよりも高くなっていた。根端部のオーキシン(IAA、IBA)含量を比較すると、1/2 MS培地育成下ではabi4 変異体とWTで差異は見られないが、ABA処理後のabi4 変異体のオーキシン含量はWTよりも高くなっていた。そして、ABA処理によるOE-ABI4 の主根伸長抑制は、オーキシン添加によって回復した。よって、ABA処理によるOE-ABI4 の主根の伸長抑制は、少なくとも部分的にオーキシン濃度の減少によって引き起こされていると考えられる。オーキシン排出トランスポーターをコードするPIN1 遺伝子の発現を見ると、ABA処理後のabi4 変異体根端部での発現量はWTよりも高くなっていた。これらの結果から、abi4 変異体の根端部はオーキシン濃度が高いので、ABA処理後にWTよりも根が伸長すると考えられる。以上の結果から、ABAはABI4を介して細胞周期およびオーキシン生合成を制御することで主根の伸長を阻害していると考えられる。

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