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論文)ジャスモン酸シグナルによる転写活性化機構

2017-12-01 22:37:30 | 読んだ論文備忘録

Mediator subunit MED25 links the jasmonate receptor to transcriptionally active chromatin
An et al. PNAS (2017) 114:E8930-E8939.

doi:10.1073/pnas.1710885114

ジャスモン酸(JA)のシグナル伝達において、bHLH型転写因子のMYC2が主要な転写調節因子となっている。F-boxタンパク質のCORONATINE INSENSITIVE 1(COI1)によるJA-Ileの受容が、MYC2の活性を抑制しているJAZタンパク質の分解をもたらし、MYC2のターゲット遺伝子の転写が活性化される。しかしながら、COI1がどのように転写調節因子と相互作用をして転写活性化を引き起こしているのかは不明な点か残されている。中国科学院 遺伝・発育生物学研究所Li らは、シロイヌナズナ芽生えを用いて、MYC2のターゲット遺伝子であるJAZ8ERF1 とCOI1の相互作用をクロマチン免疫沈降(ChIP)-qPCRアッセイで調査した。その結果、JA-Ile非存在下では、COI1は両遺伝子のG-boxや転写開始領域(TSS)により多く蓄積されることが判った。しかしながら、JA-Ile処理をすると、15分以内にCOI1の蓄積は見られなくなった。JA-Ile非存在下でのCOI1のMYC2ターゲット遺伝子への蓄積は、myc2 変異体では見られないことから、COI1はMYC2に依存してターゲット遺伝子領域に蓄積していることが示唆される。COI1は、メディエーター複合体のサブユニットであるMED25と相互作用し、この相互作用にはMED25のグルタミンリッチドメインとCOI1のF-boxドメインが関与していた。med25 変異体の解析から、MED25はJA-Ileを介したCOI1とJAZ1との相互作用の促進に関与していることが判った。JA-Ile非存在下では、MED25はMYC2ターゲット遺伝子のG-boxやTSSへ他の領域よりも多く蓄積し、これはCOI1と類似している。しかしながら、JA-Ile処理をするとMED25はMYC2ターゲット遺伝子のTSSへの蓄積が更に増加し、COI1とは逆のパターンを示した。MED25のMYC2ターゲット遺伝子プロモーター領域への蓄積もMYC2に依存していた。COI1とMED25はMYC2ターゲット遺伝子のプロモーター領域に同時に蓄積することが確認された。また、med25 変異体ではJA-Ile非存在下でのCOI1のMYC2ターゲット遺伝子TSSへの蓄積が野生型よりも少なく、JA-Ile処理によるCOI1の蓄積量低下の程度も野生型よりも低くなっていた。したがって、MED25はJA-Ileによる刺激を受ける前の段階でのCOI1のMYC2ターゲット遺伝子プロモーター領域への蓄積に影響していることが示唆される。coi1 変異体でのMED25のMYC2ターゲット遺伝子TSSへの蓄積は、JA-Ile非存在下では野生型よりも若干低いが、JA-Ile存在下では野生型よりも大きく低下した。したがって、COI1はJA-Ileによって誘導されるMED25のMYC2ターゲット遺伝子プロモーター領域への蓄積に大きく関与していることが示唆される。更に、MED25はヒストンアセチルトランスフェラーゼ1(HAC1)と相互作用することが確認され、HAC1はMYC2ターゲット遺伝子TSSに蓄積すること、この蓄積はJA-Ile処理によって増加することが判った。hac1 変異体では、JAによる制御を受ける傷害応答マーカー遺伝子VEGETATIVE STORAGE PROTEIN 1VSP1 )のJA-Ile処理による発現誘導が僅かに減少し、病害応答マーカー遺伝子PDF1.2 の発現誘導は大きく減少した。また、MYC2ターゲット遺伝子の発現誘導も減少した。JAによる遺伝子発現制御におけるHAC1の影響をRNA-seq試験で調査したところ、野生型ではJA-Ile処理によって3354遺伝子の発現量が増加し、hac1 変異体では2010遺伝子の発現が増加していた。そして、890遺伝子は、JA-Ile処理した野生型芽生えと比較して、JA-Ile処理したhac1 変異体芽生えで発現量が減少していた。この890遺伝子はHAC1とJA-Ileとによって発現制御を受けている遺伝子であり、この遺伝子群にはJA応答、傷害応答、その他防御応答に関与する遺伝子が多く、JA代謝、JAシグナル伝達、JA誘導防御応答に関与する多くのJA誘導遺伝子が含まれていた。同時に、野生型をJA-Ile処理することによって3305遺伝子の発現量が減少し、535遺伝子はJA-Ile処理したhac1 変異体で野生型よりも発現量が高くなっていた。そして、153遺伝子はJA-Ile処理した野生型よりもhac1 変異体で発現抑制の程度が低くなっていた。したがって、JA-Ile処理によって発現抑制される遺伝子の4.6 %(153/3305)は、HAC1が抑制に関与している。これらの結果から、HAC1は主にJAが誘導する遺伝子発現のコアクティベーターとして作用していることが示唆される。hac1 変異体では、JA-Ile処理によるヒストンH3K9のアセチル化(H3K9ac)量の増加が野生型よりも低くなっていた。野生型植物において、H3K9acはMYC2ターゲット遺伝子TSSに多く、JA-Ile処理をすることによってその量は増加した。hac1 変異体では、JA-Ile処理によるMYC2ターゲット遺伝子TSSのH3K9ac量やRNAポリメラーゼⅡ(PolⅡ)量の増加は野生型よりも低くなっていた。よって、HAC1はMYC2ターゲット遺伝子へのPolⅡのリクルートに関与していることが示唆される。coi1 変異体およびmed25 変異体では、JA-Ileが誘導するHAC1のMYC2ターゲット遺伝子TSSへの蓄積が低下し、TSSでのH3K9ac量も減少していた。したがって、MYC2ターゲット遺伝子プロモーター領域でHAC1が蓄積し機能するためにはCOI1とMED25が必要であると考えられる。共免疫沈降(co-IP)試験から、MED25とJAZ1は同時にMYC2と相互作用し、JAZ-MED25-MYC2複合体を形成することが判った。そして、JA-IleはMED25-COI1の相互作用を弱め、MED25-MYC2の相互作用を強めた。以上の結果から、以下の作業モデルが考えられる。JA-Ile非存在下ではMED25とJAZタンパク質はMYC2と結合してJAZ-MYC2-MED25三重複合体を形成する。この時、JAZタンパク質はCOI1とではなくMYC2と相互作用をし、転写抑制因子として機能する。JAZタンパク質はMED25とMYC2との相互作用を妨げているので、MED25とCOI1の相互作用はMED25とMYC2との相互作用よりも強くなる。その際、MED25は物理的相互作用によってCOI1をMYC2ターゲット遺伝子プロモーターへ引き入れている。ストレス応答等によって生産されたJA-Ileは分子糊として機能してCOI1-JAZ複合体の形成を促進し、これによってJAZはプロテアソーム系により分解される。そしてJA-IleによってMED25はCOI1との相互作用は弱まり、MYC2との相互作用が強くなり、MYC2ターゲット遺伝子のプロモーターへHAC1とPolⅡをリクルートして遺伝子発現を活性化させる。

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