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論文)WRKY転写因子による種子休眠の解除

2023-04-08 11:29:02 | 読んだ論文備忘録

A transcription factor WRKY36 interacts with AFP2 to break primary seed dormancy by progressively silencing DOG1 in Arabidopsis
Deng et al.  New Phytologist (2023) 238:688-704.

doi: 10.1111/nph.18750

種子休眠は、遺伝的な要因、植物ホルモン量、環境シグナルによって制御されている複雑な過程である。植物ホルモンのアブシジン酸(ABA)とジベレリン(GA)は、休眠と種子発芽を拮抗的に制御しており、ABAは種子発芽を抑制し、GAは発芽を促進する。シロイヌナズナの種子休眠を制御している遺伝子としてDELAY OF GERMINATION1DOG1 )が知られている。DOG1 は、機能未知のタンパク質をコードしており、種子が成熟するにつれて発現量が増加し、成熟後期に発現は急速に減少する。このことから、DOG1は種子休眠解除のタイマーとして機能していると考えられている。しかしながら、DOG1 の発現を制御する機構は明らかとなっていない。中国 上海大学のHu らは、ABAシグナル伝達を負に制御しているABI5結合タンパク質(AFP)のAFP2が高温条件での種子発芽を促進することを見出しており、AFP2と種子休眠との関係を調査した。そして、afp2 変異体やAFP2 過剰発現形質転換体(AFP2-FLAG )を用いた解析から、AFP2は種子の一次休眠を負に制御していることを明らかにした。AFP2-FLAG 種子では胚発生過程でのDOG1 転写産物量が野生型植物よりも少なく、afp2 変異体では乾燥種子においてもDOG1 転写産物量が多くなっていた。このことから、AFP2は種子成熟過程においてDOG1 の発現を負に制御していることが示唆される。afp2 変異体種子は発芽率が野生型よりも低いが、afp2 dog1-3 二重変異体では発芽率が回復した。また、dog1-5 機能獲得変異を導入したAFP2-FLAG は発芽が完全に抑制された。これらの結果から、DOG1はAFP2の下流で機能していると考えられる。afp2 変異体の新鮮種子ではGA生合成酵素遺伝子のGA3ox1GA20ox1 、ABA異化酵素遺伝子のCYP707A2 の転写産物量が少なく、AFP2-FLAG 種子では多くなっていた。新鮮種子を4℃ 24時間の低温湿層処理すると、野生型種子やAFP2-FLAG 種子はGA3ox1GA20ox1CYP707A2 の発現量が増加するが、afp2 変異体種子ではそのような変化は見られなかった。逆に、afp2 変異体の新鮮種子や低温湿層種子ではGAの異化に関与するGA2ox2 やABA生合成に関与するNCED3NCED6 の転写産物量が増加していた。また、afp2 変異体新鮮種子はABA含量が高く、生物活性のあるGA4含量が減少しており、AFP2-FLAG 新鮮種子では逆の傾向が見られた。これらの結果から、AFP2はGA/ABA代謝を直接または間接的に変化させることで種子休眠を調節していることが示唆される。種子発芽におけるABAシグナル伝達の制御にWRKY転写因子が関与しているという報告があり、AFP2とWRKY36は共に核に局在していたことから、両者の関係について調査した。その結果、AFP2とWRKY36は核において物理的相互作用することが確認された。DOG1 とは異なり、胚発達過程でのWRKY36 転写産物量は少なく、収穫後の乾燥種子で僅かに増加し、貯蔵期間を延長したり浸漬処理をすることで発現量が増加した。wrky36 変異体種子の発芽率は野生型よりも低く、WRKY36 過剰発現形質転換体(WRKY36-GFP )新鮮種子は野生型種子よりも早く発芽した。WRKY36-GFP afp2 種子はafp2 種子よりも発芽率が高く、AFP2-FLAG wrky36 種子は一次休眠が強くなっていた。これらの結果から、WRKY36はAFP2と協調して種子の一次休眠を解除していると考えられる。wrky36 dog1-3 二重変異体新鮮種子の発芽率はdog1-3 変異体種子と同程度に高く、WRKY36-GFP dog1-5 種子の発芽率は野生型種子よりも低くなっていた。これらの結果から、種子の一次休眠に対するWRKY36の負の効果はDOG1 に依存していることが示唆される。DOG1 遺伝子プロモーター領域にはWRKY転写因子が結合するW-boxが複数存在しており、解析の結果、WRKY36はDOG1 遺伝子プロモーター領域の1番目のW-boxに結合してDOG1 の発現を抑制すること、APF2はこの発現抑制効果を高めることが判った。APF2はTOPLESS-RELATED 2(TPR2)転写コリプレッサーをリクルートしてターゲット遺伝子の発現を抑制することが知られている。野生型植物と比較して、tpr2 変異体種子は発芽率が低く、TPR2 過剰発現形質転換体(TPR2-FLAG )は高くなっていた。また、tpr2 変異体種子ではDOG1 転写産物量が多く、TPR2-FLAG 種子では少なくなっていた。dog1-3 tpr2 二重変異体の新鮮種子は発芽率が野生型よりも高く、dog1-5 tpr2 二重変異体新鮮種子は低かった。これらの結果から、TPR2はDOG1 を介して種子発芽に影響していることが示唆される。しかしながら、胚発生過程でTPR2 転写産物量は変化していなかった。TPR2-FLAG wrky36 種子は発芽率が低いことから、TPR2はWRKY36に依存して種子の一次休眠を解除していると考えられる。WRKY36-GFP tpr2 種子のDOG1 転写産物量はWRKY36-GFP 種子よりも高いこと、プロトプラスト用いた一過的発現解析において、TPR2はDOG1 発現に対するWRKY36の抑制効果を増強することから、TPR2はWRKY36と協調してDOG1 発現を抑制していると考えられる。TPR2とWRKY36は直接に物理的相互作用をしないが、AFP2がWRKY36とTPR2をつなぐアダプターとして機能し、DOG1 発現と一次休眠を阻害していることが判った。TPR2は、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)をリクルートしてターゲット遺伝子座のヒストンアセチル化量を低下させて遺伝子発現を抑制する。解析の結果、DOG1 遺伝子の近傍領域と遺伝子本体領域のヒストンH3アセチル化(H3ac)量は、tpr2 変異体新鮮種子で高く、TPR2-FLAG 種子では低くなっていた。同様に、DOG1 遺伝子座のH3ac量は、wrky36 変異体新鮮種子では高く、WRKY36-GFP 種子では低かった。しかし、TPR2-FLAG wrky36 種子またはWRKY36-GFP tpr2 種子ではDOG1 遺伝子座のH3acレベルは低く、これらの系統におけるDOG1 の発現パターンと一致した。これらの結果から、DOG1 遺伝子座におけるH3ac量の調節はTPR2とWRKY36により相互的に行われ、DOG1 発現が制御されていると考えられる。また、AFP2はWRKY36に依存したDOG1 遺伝子座のH3ac量の減少に必要であることが判った。以上の結果から、WRKY36は種子一次休眠の新規な負の制御因子であり、AFP2がTPR2とWRKY36を架橋してWRKY36/AFP2/TPR2複合体を形成し、HDACを介したDOG1 遺伝子座のH3ac量のエピジェネティック修飾を通じて、DOG1 の発現と一次休眠を制御していると考えられる。

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