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論文)芽生え胚軸の光方向感知機構

2024-03-24 15:01:15 | 読んだ論文備忘録

Air channels create a directional light signal to regulate hypocotyl phototropism
Nawkar et al.  Science (2023) 382:935-940.

doi:10.1126/science.adh9384

スイス ローザンヌ大学Fankhauserらは、シロイヌナズナ芽生えから光屈性が低下した変異体を選抜し、胚軸が透明な変異体を単離した。この変異の原因遺伝子は、ABC-2タイプトランスポーターファミリータンパク質をコードするATP-BINDING CASETTE G5ABCG5)であることが確認された。この変異体における光屈性の低下は、光透過が促進されることで胚軸上部の光勾配が浅くなることによって引き起こされるのではないかと考え、abcg5 変異体と同じく胚軸が透明な2つのcristal 変異体(cri7cri8)と光屈性を比較した。この3つの変異体は胚軸の光透過性が高く、一方向からの青色光照射に対して、野生型植物は光屈性を示したが、3つの変異体は成長方向がバラバラで、青色光受容体が機能喪失したphot1 変異体は無反応であった。abcg5 変異体の胚軸は、重力に対する応答性は正常であった。よって、胚軸が透明であることは、光の方向に反応する能力の変化と関連していると考えられる。abcg5 変異体の光屈性の欠損は、光強度が弱くても強くても、双方向光照射のような複雑な光環境においても観察された。このような明らかな光屈性欠損があるにもかかわらず、光を感知してから数分以内に起こるphot1を介したターゲットタンパク質のリン酸化はabcg5 変異体でも観察され、青色光による胚軸伸長阻害も正常に起こった。しかし、abcg5 変異体では胚軸を横断するオーキシン勾配が形成されなかった。このことから、abcg5 変異体の光屈性欠損は、初期のフォトトロピンシグナル伝達段階ではなく、胚軸全体に光勾配を形成する能力の低下によるものであると考えられる。abcg5 変異体の透明性は胚性器官(根、胚軸、子葉)に限られ、本葉等の他の植物器官は透明ではなかった。また、abcg5 変異体の葉柄は野生型植物と同じように光屈性を示した。ABCG5 遺伝子は発達中の胚で強く発現しており、芽生えでは有意な発現は見られなかった。これらの結果から、abcg5 変異体は芽生え特異的に光屈性欠損を示し、これは胚軸の透明性に起因すると思われる。ABCG5は子葉のクチクラ形成に関与していることが報告されているが、胚軸のクチクラは野生型植物とabcg5 変異体の間で大きな差異は見られなかった。また、野生型植物とabcg5 変異体の胚軸細胞壁の厚さや、黄化芽生え可溶性粗抽出液の吸収スペクトルに差異は見られなかった。したがって、abcg5 変異体における胚軸の透明性は、クチクラや細胞壁の厚さ、可溶性色素の違いによるものではないと考えられる。明所で育成したしたabcg5 変異体芽生えや切取った根や胚軸は水に沈み、空気含有量が減少していることが示唆された。また、abcg5 変異体の胚の密度は野生型植物よりも高くなっていた。空気チャネル(air channels)は、胚や胚軸の皮層細胞間や皮層と表皮細胞の間の三細胞接合部の細胞間空隙において見られる。黄化芽生え胚軸の横断面を電子顕微鏡で観察したところ、表皮細胞と皮層細胞によって生成される三細胞接合部の空隙が、野生型植物では空いていたが、abcg5 変異体では繊維状の構造物で埋まっていた。また、野生型植物では、空隙を取り囲む細胞壁の外側に明確な電子密度の濃い層が並んでいたが、abcg5 変異体では、この層は拡散し、不均一で、時には存在していなかった。さらに、3次元非破壊X線マイクロトモグラフィーによる観察を行なったところ、野生型植物では長軸方向に空気チャネルが検出されたが、abcg5 変異体では検出されなかった。これらの結果から、野生型植物とabcg5 変異体の光透過率の違いは、細胞間隙の空気の存在の有無で説明できることが示唆される。そこで、空気チャネルの役割を明らかにするため、シロイヌナズナの胚軸、葉(葉柄と葉身)、アブラナ(Brassica rapa)の胚軸、ミナトカモジグサ(Brachypodium distachyon)の葉柄に水を浸透させたところ、光透過性が向上することが判った。よって、細胞間隙の空気は組織を通過する光の透過を制限することに寄与していることが示唆される。次に、シロイヌナズナと、それよりも10倍以上大きいアブラナの芽生えを用いて実験を行なったところ、両種とも水浸潤によって光屈性は低下したが、重力屈性は低下しなかった。これらの結果から、芽生えの光屈性には細胞間隙空気チャネルが必要であると考えられる。芽生えの光学的特性を詳細に調査したところ、abcg5 変異体芽生えは野生型植物よりも多くの光を透過すること、野生型植物の空隙に水を浸潤させることでabcg5 変異体と同様の光学特性を示すことが判った。対照的に、abcg5 変異体に水を浸潤させても光学的性質に有意な変化は起こらなかった。したがって、abcg5 変異体および浸潤させた野生型植物芽生えでは、拡散透過光、反射光、拡散反射光が減少している。解析の結果、空気チャネルが光散乱に寄与し、それによって胚軸全体の光透過性を制限していることが判った。蛍光標識したPHOT1(PHOT1-GFP)を発現させた系統の解析から、PHOT1 は皮質細胞で強く発現し、野生型植物では、細胞間空隙の細胞膜に沿ってGFPシグナルのギャップが見られたが、abcg5 変異体では観察されなかった。また、胚軸の光照射側と日陰側で形成されるGFP蛍光シグナルの勾配は、abcg5 変異体や浸潤芽生えよりも野生型植物の方が有意に急であった。これらの結果から、空気チャネルは光の散乱を促進し、その結果、一方向から照射された胚軸を横切る光の勾配を強くしていることが示唆される。以上の結果から、胚で発現するABCトランスポーター遺伝子ABCG5 は、芽生えの空気チャネルの形成に必要であり、空気チャネルは芽生えの光の方向感知にとって重要であると考えられる。

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