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論文)アンキリンリピートタンパク質によるコムギ分けつ数の制御

2023-03-20 10:08:29 | 読んだ論文備忘録

Tiller Number1 encodes an ankyrin repeat protein that controls tillering in bread wheat
Dong et al.  Nature Communications (2023) 14:836.

doi:10.1038/s41467-023-36271-z

中国農業科学院 作物科学研究所のLiu らは、コムギ品種Yanzhan4110(YZ4110)のEMS処理変異体集団から、分けつ数の少ないtiller number1tn1 )変異体を単離した。YZ4110は登熟期に15本以上の分けつを生じるが、tn1 変異体では1~4本しか発達しなかった。また、tn1 変異体の草丈、穂長、小穂数、1穂あたりの穀粒数は、YZ4110と比較して有意に低い値であった。解剖学的および組織学的観察の結果、tn1 変異体でも分けつ芽が形成されるが、そのほとんどはその後の伸長が見られないことが判った。したがって、tn1 変異体の低分けつ表現型は、分けつ芽の成長が抑制されていることに起因すると考えられる。tn1 変異体とYZ4110との交雑後代の解析から、tn1 変異体の低分けつ表現型は、1つの劣性遺伝子によって制御されていることが示された。マップベースクローニングから、TraesCS6B02G013100 の第1エクソンにおいて、tn1 変異体とYZ4110との間に2つのSNP(SNPG373AおよびSNPG392A)を検出し、この2つのSNPと低分けつ表現型は共分離していた。この塩基置換によって、Ala-125-ThrおよびSer-131-Asnのアミノ酸置換が生じることが判った。TraesCS6B02G013100 は、9つのANKドメインと4つの膜貫通ドメインを含むアンキリンリピート(ANK)ファミリータンパク質をコードしており、2つのSNPは、3番目のANKモチーフをコードする領域に位置していた。tn1 変異を導入したコムギ品種Fieldertn1TraesCS6B02G013100 ゲノム断片を導入すると、低分けつ表現型が回復した。TraesCS6B02G013100 に1つのSNPのみを含んだゲノム断片コンストラクトをFieldertn1 に導入したところ、SNPG392Aを含むコンストラクトは低分けつ性を回復させたが、SNPG373Aを含むコンストラクトでは回復が見られなかった。また、CRISPR/Cas9で作出したTraesCS6B02G013100 のノックアウト変異体は、tn1 変異体と同じように分けつ数が減少した。これらの結果から、TraesCS6B02G013100TN1 遺伝子であり、SNPG373Aが低分けつ表現型を引き起こすこと考えられる。TN1 は、主に茎頂分裂組織と分けつ芽分裂組織で発現し、TN1は膜局在タンパク質であることが確認された。コムギゲノムにはTN1 と類似性が高い3種類のANKタンパク質遺伝子があり、このうちTraesCS6B02G437600TN1-like-6BL )が系統樹上でTN1 と同じクレイドに属していた。しかしながら、TN1-like-6BL はシュート基部や分けつ芽ではほとんど発現しておらず、TN1 が分けつ発達の制御において重要であると考えられる。コムギ遺伝資源の解析でTN1 遺伝子に多型は見出されなかったことから、TN1 の機能はコムギの分けつ数を適切に維持するために必要である可能性が示唆される。TN1による分けつの制御を分子レベルで解析するために、YZ4110とtn1 変異体のシュート基部と分けつ芽を用いたトランスクリプトーム解析を行なった。その結果、YZ4110とtn1 変異体の間で、シュート基部と分けつ芽においてそれぞれ5372個と4672個の発現差のある遺伝子が同定された。シュート基部と分けつ芽に共通する1876個のDEGについて遺伝子オントロジー(GO)解析を行ったところ、植物ホルモンを介したシグナル伝達経路、植物ホルモン代謝/生合成過程、シュート発達、アブシジン酸(ABA)への応答、ABA酸代謝過程にに関与する遺伝子に富んでいることがわかった。一方で、植物の分けつや分枝を制御しているTB1/BRC 遺伝子のコムギホモログTaTB1 の発現量はYZ4110とtn1 変異体の間で差異は見られなかった。DEGとしてABAの生合成やシグナル伝達に関与する遺伝子が見られ、RT-qPCR解析の結果、tn1 変異体ではABA生合成遺伝子のTaNCED3-5BTaNCED3-5D の転写産物量が野生型植物に対して有意に高いことが確認された。さらに、PYR-LIKEPYL )、PROTEIN PHOSPHATASE 2CPP2C )、SNF1-REGULATED PROTEIN KINASE2SnRK2 )などの多くのABAシグナル関連遺伝子も、tn1 変異体で著しく発現が上昇していた。また、TaNCED3 の転写を直接活性化する転写因子遺伝子のTabZIP-5A/5B/5D の発現量もtn1 変異体で高くなっていた。そこで、内生ABA量を調査したところ、tn1 変異体のABA量はYZ4110に比べてシュート基部で30%高く、分けつ芽では2倍程度高いことが判った。ABAは分けつや分枝の形成を阻害することが知られており、TaNCED3-5D を過剰発現させた形質転換コムギは分けつ数が減少した。また、YZ4110にABAを添加することで分けつの成長が抑制され、tn1 変異体にABA生合成阻害剤のタングステン酸ナトリウムを添加することで低分けつ表現型が部分的に回復した。CRISPR/Cas9でFieldertn1TaNCED3 遺伝子をノックアウトしたところ、ホモログ6遺伝子をノックアウトした変異体では分けつ数が部分的に回復した。これらの結果から、tn1 変異体の低分けつ表現型は、少なくとも部分的には、シュート基部と分けつ芽におけるABA量の増加によって引き起こされていると考えられる。さらに、TN1は細胞膜に局在するABA受容体のTaPYLと物理的に相互作用をするとことが確認され、この相互作用はTaPYLとTaPP2Cとの相互作用を阻害することが判った。したがって、TN1は、TaPYLとTaPP2Cの結合を阻害することによって、少なくとも部分的にABAシグナル伝達経路に関与している可能性がある。以上の結果から、TN1は、ABA生合成の抑制とTaPYLとTaPP2Cの結合を阻害することによるABAシグナルの抑制という二段階の分子機構により、少なくとも部分的にコムギの分けつを促進していると考えられる。TB1/BRC1タンパク質は、植物の分けつ・分枝を制御するために重要な役割を担っているが、tn1 変異体ではTaTB1 の発現パターンに影響がなかったことから、TN1はTB1経路とは独立してコムギ分けつを制御していることが示唆される。

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