自然日誌 たかつき

自然についての問わず語りです。

八ヶ岳のヤマネ 5

2021年05月06日 | 標本
(承前)

最初に書いたように、私は国立大学の大学院生を相手にしてきたので、麻布大学の学部生の卒業研究が学術雑誌に受理されるものになるかどうか少し自信がないところがありました。正確にいえば、私が期待するように学生が調査をしてくれれば大丈夫だとは思いましたが、そうしてくれるかどうかが自信がありませんでした。同じような大学にいる人から、学生は研究に対する意欲が弱いとか、途中でやる気をなくしてしまう学生がいるとか聞いていたからです。中にはそういう学生がいないわけではありませんが、ほとんどは熱心でした。少なくとも動物が好きで、研究するとはどういうことかわからないが、やってみたいという学生が多かったと思います。動物が好きということと、調べることが好きということにはかなり乖離があって、麻布大学では前者のタイプが多かったと思います。しかし、私がその意義や面白さを伝えることで、課題を自分のものとして「やるきになる」学生が多かったと思います。その過程は個人ごとに違い、「そんなに大変なのか」と当惑していたが、結果が出てから意欲を持つ学生がいれば、調査地に惚れ込んで「ここで調べられるなら本気でやりたい」と思った学生もいました。
 私はその変化を「スイッチが入る」と表現していましたが、そうなると細かいことは言わなくても自分で考え、行動するようになり、自ずと質問をしてくれるようになりました。自分の問題として考えるようになると「このやり方でいいのだろうか」と疑問を持ったり、自信がなくなったりして、受け身だった時は気にならなかったことが気になるようになるようでした。そうするとどうしても英語の論文を読む必要が生じます。英語力にはかなり個人差がありました。英語が苦手でも、その動物や内容に強い興味があればデータだけ読んでも大体の意味はわかるので、そういうことを繰り返しているうちに、英語にも馴染んで行きました。

 そういうわけで、私はいわゆる偏差値でランクづけすれば、必ずしも高いとはいえないとされる麻布大学の学生と共同作業をし、結果としては、その心配はいらなかったと胸を張っていえます。そのことはとても誇らしいことだし、私の大学人としての体験の中でも大きなものでした。
 まだまだ未発表の卒論もありますが、データそのもの、あるいはサンプルは残されているので、じっくりと取り組んで公表していこうと思っています。

コメント
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