ルーツな日記

ルーツっぽい音楽をルーズに語るブログ。
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I'M WITH HER @ブルーノート東京

2015-10-29 23:19:58 | カントリー


10月28日、ブルーノート東京にてI'M WITH HERを観てまいりました!!私が観たのはこの日の2ndショー。

サラ・ジャローズ(SARAH JAROSZ)- 1991年テキサスはオースティンの生まれ、09年の1st作「SONG UP IN HER HEAD」から「Mansinneedof」がグラミー賞『Best Country Instrumental Performance』部門にノミネートされるなど、デビュー時からその才能を際立たせ、現在まで3枚のアルバムを発表。最新作「BUILD ME UP FROM BONES」からもタイトル曲がグラミー賞『BEST AMERICAN ROOTS SONG』部門にノミネート。若くして新世代のブルーグラスを代表する才女。

サラ・ワトキンス(SARA WATKINS)- 1981年カリフォルニア生まれ。89年、兄のショーン・ワトキンスと、後の天才マンドリン奏者クリス・シーリと共にニッケル・クリークを結成。新感覚と巧みなテクニックは「プログレッシヴ・ブルーグラス」等と評され、ブルーグラスの新しい扉を開けました。ちなみにサラ・ワトキンスとクリス・シーリは同い年で、ニッケル・クリーク結成当時は8歳ぐらいですか?まったくもって恐ろしい子供達です。02年の4作目「THIS SIDE」がグラミー賞『Best Contemporary Folk Album』部門を受賞。現在はメンバーそれぞれ自由な活動に邁進し、サラ・ワトキンスも2枚のソロ作を発表しています。

イーファ・オードノヴァン(AOIFE O'DONOVAN)- 1982年、マサチューセッツ州ニュートンの生まれ。Sometymes Why、Crooked Stillなどのグループで活躍し、2013年にはソロとして1stフルアルバムとなる「FOSSILS」を発表。2012年度のグラミー賞『Best Folk Album』部門を受賞したクリス・シーリ、ヨー・ヨー・マを中心としたブルーグラス・プロジェクト「The Goat Rodeo Sessions」にシンガーとしてフィーチャーされていたのも印象的でした。


そんな、まさに現行ブルーグラスを代表する女子3人が集まったスーパー・トリオ、アイム・ウィズ・ハー。私はミーハー魂を炸裂させて最前列ド真ん中で堪能させて頂きました。開演前、ステージには既にマンドリンやギター、ウクレレなどがセットされていましたが、そこにバンジョーが見当たらない…。このトリオではサラ・ジャローズはバンジョーを弾かないのかな?と少々がっかりしていたのですが、開演時刻、場内が暗転し、いよいよ3人娘が登場。なんと、サラ・ワトキンスはフィドルを、イーファ・オードノヴァンはギターを、そしてサラ・ジャローズはバンジョーを持ってステージに現れました。なんかその雰囲気だけで既に夢心地。

そして1曲目「Shadows Blues」。バンジョーとフィドルの音色に導かれ、イーファが歌う。私が3人の目の前に座っていたからかもしれませんが、ストリングスも歌声もほとんど素のような音で響いてくる。その飾り気のない音色はとても暖かく、土っぽい。そして歌、ストリングス、ハーモニー、それぞれの絡み合いは、古き良きブルーグラスの香り濃厚ながらも、新世代らしい瑞々しさに溢れている。一見トラディショナルなブルーグラスのように聴こえるこの曲も、実はコロラド出身のシンガー・ソング・ライター、ローラ・ヴェイアズによるほぼ同時代の曲だったりするんです。こういうカヴァーから始まる辺り、このトリオのモダンさを物語ってますよね。

このステージが今回の来日公演のファイナルになるというワトキンスの言葉に拍手が沸き、彼女が歌う「Today Is a Bright New Day」。サビにおける3人のハーモニーが麗しく愛らしい。こちらは、ノースダコタ出身の現行シンガー・ソング・ライター、トム・ブロッソーのカヴァー。

続いて「Wakin' Back To Georgia」。ジム・クローチの名曲をジャローズが歌う。カントリー・フィーリングに溢れた太く凛とした歌声にうっとり。ちなみにこのタイトルは今回の公演にちなんだブルーノート・オリジナル・カクテルの名前にもなっていました。ま、私はお酒がダメなので飲めませんでしたけど…。

それにしてもステージ上での3人の親密さは見ていてとても気持ち良かったです。コーラスを付ける時はそれぞれが顔を見合わせながら楽し気にハモってましたし、ワトキンスがフィドル・ソロをとる時はグッとジャローズに身を寄せ、音の対話を楽しんでるかのようだったり、ステージ上はこの3人ならではの空気感で満たされていました。なんて言いますか、女子3人ならではの雰囲気ってありますよね?

そして待ってましたのインスト「Squirrel Hunters」。ジョン・ハートフォードでも知られるアパラチア系の曲ですが、ワトキンスのフィドルもさることながら、ジャローズのマンドリンのキレに思わず体が揺れましたね。そして力強い歌声が印象的だったイーファのオリジナル曲「Captain's Clock」。3人の優し気なハーモニーに癒されたユタ・フィリップス のカヴァー「I Think Of You」。素朴な味わいのフィドルが秀逸だったワトキンス作のインスト「The Accord」。来年リリース予定のイーファの新作に収録予定の「Hornets」などなど。

なかでも特に印象的だったのは、アップテンポなブルーグラス・ゴスペル「Lord, Lead Me On」。ドラムレスのたった3人でリズミカルなノリを演出するのはブルーグラスならでは。ジャローズを中心にスピード感と昂揚感たっぷりなコーラスが堪らない。2コーラス終わった後、曲が一瞬終わったような感じになり、観客から拍手が沸き上がるや否や、いたずらっぽい笑みを浮かべたワトキンスがフィドルで割って入り3コーラス目に突入。盛り上がる観客達。この辺の手綱の取り具合も流石でしたね!

そしてもう1曲。個人的にこの日のハイライトだった「Run Away」。ほぼジャローズの弾き語りで披露されたこの曲での彼女の魔力めいた歌声は、カントリーの深みと言うより、堪らなくブルージーでした。それまで良い意味で牧歌的だった雰囲気にあの存在感は光ってました。またジャローズのリード曲ではセット終盤に披露されたボブ・ディランのカヴァー「Ring Them Bells」も良い味わいでした。それにしても、3人のなかでは10歳程年下のジャローズが声質的には最も肝が座った声をしているというのも面白い。一方のイーファはもう少しアメリカーナ寄りと言うか、多彩な表情を持っていて、先の「Lord, Lead Me On」では張り上げるような声でグイグイと勢いを付けていましたし、この「Run Away」でも、彼女が囁くようにハーモニーを付けるだけでフワッと情緒が広がる。そして一番の年上、サラ・ワトキンスが実はもっとも女の子らしい声の持ち主だったり。

そんなワトキンスのキュートな歌声を存分に味わえたのが「You And Me」。こちらは彼女のソロ作にバンド・アレンジによる録音が収録されているオリジナル曲ですが、ステージではウクレレの弾き語りで歌われる。これも凄く良かった! 正直、CD収録ヴァージョンより断然良かったですね。ワトキンスと言えば、ジョン・ハートフォードよろしくフィドル弾き語りで歌った「Long Hot Summer Days」も良かったですね~。観客達も加わったコーラスも秀逸でした。

そしてステージも終盤。3人が歌い継いだギリアン・ウェルチのカヴァー「100 Miles」、もっかのところアイム・ウィズ・ハーとしては唯一のシングル・リリース曲 、ジョン・ハイアットのカヴァー「Crossing Muddy Waters」、さらにはスウェーデンのトラッドグループ、ヴェーセンの「Hassa A's」と高速ブルーグラスの定番「Fire On The Mountain」をスリリングに駆け抜ける荒技でプログレッシヴ・ブルーグラスの片鱗を見せつけつつ、最後は3人が足踏みと手拍子をしながらアカペラ・コーラスで歌う「Be My Husband」。なんとニーナ・シモンのカヴァーですよ! こういう曲を最後に持ってくるセンスは素晴らしいですね。3人の技ありのコーラスが良い雰囲気出してました。

一口にブルーグラスと言っても楽曲はヴァラエティに富み、リード・シンガー3人の持ち味も充分に発揮され、楽器の持ち替えや、コーラスのニュアンス、曲のアレンジなどで様々な冒険を試み、聴く者の耳をまったく飽きさせない。ですが最も心に残ったのは、その素朴な歌心だったり。古きを訪ね、現代の空気をたっぷり吸いつつ、未来を見据える才女達に惜しみない拍手と歓声が送られる。

アンコールはスタンレー・ブラザーズの「Darkest Hour Is Just Before Dawn」。いや~、ブルーグラスって良いですね。およそ1時間15分程だったでしょうか、極上の夜でした。




サラ・ジャローズの楽器。左がバンジョー、右がフラット・マンドリン。そして真ん中にあるのはオクターブ・マンドリンでしょうか? 当初はアコースティック・ギターに見えたのですが、良く見たら8弦で2本ペアの4コースなんです。これらを曲によって持ち替えてました。




こちらはブルーノート・オリジナル・カクテル「Wakin' Back to Georgia」




この日のセットリスト↓

01. Shadows Blues
02. Today Is a Bright New Day
03. Wakin' Back To Georgia
04. Squirrel Hunters
05. Captain's Clock
06. I Think Of You
07. Lord, Lead Me On
08. The Accord
09. Run Away
10. You And Me
11. Hornets
12. Ring Them Bells
13. Long Hot Summer Days
14. 100 Miles
15. Crossing Muddy Waters
16. Hassa A's/Fire On The Mountain
17. Be My Husband
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18. Darkest Hour Is Just Before Dawn




そして終演後にはお楽しみのサイン会。フライヤーとそれぞれのソロ作にサインを頂きました。とても緊張しましたが、写真も撮ってもらったり、和気あいあいな雰囲気でした。


SARAH JAROSZ / BUILD ME UP FROM BONES
2013年発表。タイトル曲がグラミー賞『BEST AMERICAN ROOTS SONG』部門にノミネートされたサラ・ジャローズの3枚目。実はそのタイトル曲「Build Me Up From Bones」にはイーファ・オードノヴァンもハーモニーで参加したりしている。他にゲストにジェリー・ダグラス、クリス・シーリ、ダレル・スコットなども参加。



SARA WATKINS / SUN MIDNIGHT SUN
ブレイク・ミルズがプロデュースしたサラ・ワトキンスのソロとしては2作目にして最新作。2012年の作品。ほぼワトキンスとブレイク・ミルズの2人で製作された作品なれど、フィオナ・アップルをフィーチャーした曲があったり、多少オルタナ寄りの印象。「You And Me」、「The Accord」収録。



AOIFE O'DNOVAN / FOSSILS
イーファ・オードノヴァン、2013年のソロ作。プロデュースはタッカー・マーティン。全曲イーファのオリジナル曲で締められた好作品。ちなみにタッカー・マーティンはローラ・ヴェイアズの諸昨品を手掛けたり、パンチ・ブラザーズの最新作にも関わっている。この辺の人脈も面白い。


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