ルーツな日記

ルーツっぽい音楽をルーズに語るブログ。
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アラン・トゥーサン@ビルボードライヴ東京

2012-10-17 19:29:49 | ニューオーリンズ
ALLEN TOUSSAINT / SOUTHERN NIGHTS

10月15日、ビルボードライヴ東京にてアラントゥーサンのステージを観てまいりました。

ここ数年、ビルボードの常連という印象のアラン・トゥーサンですが、今回はインフォメーション曰く「1stステージでは過去に他アーティストに提供した楽曲の数々をセルフカバー、2ndステージでは1975年の名盤『サザンナイツ』を再現するというスペシャルな構成」とのことでした。どちらもとても魅力的で、出来れば通しで観に行きたいところ、財布の都合を考え2ndステージのみで我慢することにしました。やっぱりあの名盤「SOUTHERN NIGHTS」の再現ライヴは見逃せません!!

開演前には「ブルース銀座」の陶守さんがDJを務め、マーシャ・ボール、アール・キング、ドクター・ジョンなどストレートなものから、¡Cubanismo!のようなマニアックな変化球まで、多彩なニューオーリンズ・サウンドで楽しませてくれました。単なるBGMとは違う、ニューオーリンズ好きの心をくすぐる選曲は流石でしたね。開演前からニューオーリンズ・パーティのような良い雰囲気でした。

開演予定時刻を15分程過ぎた頃、ようやくメンバーがステージに姿を現す。今回はレナード・ポーチェ(g)、ハーマン・ルボー(ds)、ローランド・ゲリン(b)といったお馴染みのメンバーに加え、サックスはいつものブライアン ‘ブリーズ’ カヨリではなく、実際にあの「SOUTHERN NIGHTS」に参加しているゲイリー・ブラウン。こういう人選にもそそられますよね。まずはこのバックバンドが「Southern Nights」をイントロ代わりに演奏し、程なくしてアラン・トゥーサンが紹介される。拍手喝采の中ステージに上がるアラン・トゥーサン。アラン・トゥーサンと言えばいつもサンダルを履いていることが常々ファンの間で話題になっていましたが、最近はド派手なスーツがもっぱら注目されているようです。目の覚めるような色彩の、良い意味で悪趣味なスーツを色々持っているようで「今日はコレだ、明日はどれだ?」とツイッター等を通じてマニアックなファンの間で盛り上がっていました。ちなみにこの夜は金色の刺繍の入った真っ赤なスーツでした。そして足下はもちろんサンダル。

アラン・トゥーサンがピアノの前に座り、弾き歌い始めたのはもちろん「SOUTHERN NIGHTS」の1曲目を飾る「Last Train」です。実は始まるまで、「SOUTHERN NIGHTS」再現とか言っといていつもとあんまり変わらないライヴになるんじゃないの?とかちょっぴり疑ったりもしていたのですが、「Last Train」が始まった瞬間、おー、ホントに「SOUTHERN NIGHTS」だ!とワクワクしちゃいましたね。そしてアルバム通りに「Worldwide」、「Back In Baby's Arms」と続く。普通のライヴではなかなかお目にかかれないこういった曲を聴けるだけでも新鮮! ですがそれ以上に現在のトゥーサンならではの優しくまろやかな歌声と鍵盤タッチ、そしてニューオーリンズ歴戦のつわもの達による生バンドで、あの名盤通りの曲順に進んでいくステージは、何か特別な時間が流れているような不思議な感じでした。

続いてファンキーな「Country John」。この曲も格好良いですよね~。そしてポップな「Basic Lady」に続いてタイトル曲「Southern Nights」。何処か神秘的に広がる美しきメロディー。しかしここでは触りだけですぐに「You Will Not Lose」へ。この曲も独特の艶っぽい陰影にトゥーサンらしいポップセンスが伺える良い曲ですね。そして待ってましたの「What Do You Want The Girl To Do?」。名曲ですよ!ホント素晴らしい曲。しかもこの並びでこの曲を聴ける喜び。もうただただうっとりと聴き惚れましたね。またゲイリー・ブラウンのサックスが素晴らしかった! オリジナル版はサックス奏者が数名参加しているので、どこを誰が吹いているのか分らないのですが、もうゲイリー・ブラウンしかあり得ない!って思うぐらい、この曲にぴったりのフィーリングでしたね。むしろ一番良いところでソロが終わってしまって、もっと聴きたかったな~っていう惜しい感じすら。

そして「When The Party's Over」、ラストの「Cruel Way To Go Down」でもゲイリーのサックス・ソロがフューチャーされる。良いですね~。これまでのブライアン ‘ブリーズ’ カヨリは割りとブリブリと吹く感じでしたが、ゲイリーはよりメロウでジャズっぽい。この違いが凄く新鮮でしたね。そしてゲイリーのフィーリングが今夜の「SOUTHERN NIGHTS」をより味わい深くしていたことは間違いないですね。

そして最後にあらためて「Southern Nights」。トゥーサンによるほぼ弾き語りで、途中「上を向いて歩こう」を挟んだり。いや~最高でしたね。「Last Train」からこの「Southern Nights」まで、MCもまったく無しでかの名盤の世界へトリップさせてくれた全11曲。名盤の魅力をあらためて感じさせられると同時に、現在のトゥーサンと彼のバンドが新たな命を吹き込み、瑞々しい生の音楽として堪能させていただいた至極の時間。感無量でした!

しかしこれで終わりじゃないですよ。ここでやっとトゥーサンのMCが入り一息。そして「Sneakin' Sally Thru The Alley」、「Get Out Of My Life, Woman」とリー・ドーシー提供曲を立て続けに。後者ではゲイリー・ブラウン、レナード・ポーチェ両者のファンキーなソロが格好良かった。そして次の曲ではレナードがギターを置き、2本のリコーダーを同時に吹くべくマイクの前にスタンバイしたものの、それを無視してトゥーサンがピアノソロを弾き始めてしまう。あれ?って顔してリコーダーを持ちながらメンバーに確認したり、おろおろしているレナードさんが微笑ましかったり。もしかしたら、いきなりトゥーサンが予定にないピアノソロを弾き始めちゃったのかな?なんて思ったり。

予定外と言えば、実はこの日の1stステージでは本来「セルフカバー曲集」をやるはずのところ、手違いで「サザンナイツ再現」をやってしまったそうで、結局この日は1stも2ndも「サザンナイツ再現」になってしまったらしいんです。流石は生ライヴですからね。何が起るか分りませんね。通しで見られた方は名盤二巡目みたいなレアな体験をされた訳で…。

さて、それはさておき、トゥーサンならではの暖かくもエレガントな鍵盤捌きも見事なピアノソロ。クラシックとニューオーリンズが目まぐるしく交差するような展開はいつものトゥーサン・ワールド。それは「Big Chief」へ繋がりバンドが合流。やはりこの曲は盛り上がる! そして「Tipitina」へと繋がりプロフェッサー・ロングヘア・トリビュートな様相。「Big Chief」にしろ、「Tipitina」にしろ、ある程度盛り上がると変調して崩してしまうところがトゥーサン流。さらに「Everything I Do Gonna Be Funky」を始めるものの、これもワンコーラスぐらいでやめてしまう。このあたり、いかにも気の赴くままにピアノを弾いてる感じが、いかにもトゥーサンらしい。

そして「Pretty Pretty」。ようやくレナード・ポーチェのリコーダー2本吹きが日の目を見ました。この人、ギタリストなのに、フルート吹いたり、各種パーカッションを操ったり、そう言えば「Big Chief」ではトロンボーン吹いたりも。なかなか器用な人なんですよね。で、この「Pretty Pretty」という曲、前回の来日時にも演っていましたが、中島美嘉さんのトリビュート・ソングだそうですね。

バンド・メンバーの紹介を兼ねたインスト曲でソロを回し、本編ラストは「Southern Nights」をアップテンポで。最後に今夜のテーマである「Southern Nights」に戻るところが憎いですね。いかにもサザンナイツな夜の終わりを告げるようなノリノリの演奏。あ~、終わりたくないー!と思いつつ、トゥーサンはステージを去っていく。

拍手喝采が続き、もちろんアンコール。曲は「Yes We Can」。最後にピアノとコーラスだけでゴスペルっぽく疾走していくところが格好良いんですよね~。で、このアンコールの時、トゥーサンが観客席に向かって「誰かピアノ弾かない?」みたいな感じで問いかける。そして一人の男性を指差して指名したんですよ。その男性も指名されたからには仕方が無いみたいな感じでステージに上がり、深々と一礼してトゥーサンの横に座る。そして二人のブギウギ・セッションが始まった訳ですが、この男性が意外と弾けるという展開に場内も割れんばかりに盛り上がる。ブレイク部分も右手一本でバッチリ決めつつ左手でピースサインを掲げるなんていう余裕も見せたり。一通り盛り上げたら自ら立ち上がり、再度深々とお辞儀をしてさっとステージを降りるという引き際もわきまえている。お見事でしたね。あの人、何者でしょうか?

そして再度、アウトロ的な「Southern Nights」。トゥーサンは最前列の観客達から握手攻めに合いながら去っていく。いや~、良いライヴでした。やはりアラン・トゥーサンは何度見ても良いですし、今回は『サザンナイツ』再現ということで特別味わい深かったですね。そして何よりも収穫だったのはゲイリー・ブラウンですよ! 良い音色してましたね~。メロウなジャズ・フィーリングも良し、ファンキーな切れ味も抜群。ジワジワと染み入るような本物感にゾクゾクさせられました。


ちなみにこのゲイリー・ブラウン、トゥーサンの名盤「SOUTHERN NIGHTS」や「LIFE, LOVE AND FAITH」へも参加しているサックス奏者なのですが、「THE COMPLETE WARNER RECORDINGS」で日の目を見たライヴ音源でも「Allen And Gary Brown」という曲名でフューチャーされている、当時からトゥーサンの信頼熱いサックス・プレイヤーだったようですね。当時トゥーサンがプロデュースした作品、Dr.ジョンの「IN THE RIGHT PLACE」や「DESITIVELY BONNAROO」、フランキー・ミラーの「HIGH LIFE」、ジョー・コッカーの「LUXURY YOU CAN AFFORD」などにも彼の名前を見つけることが出来ます。しかももっと遡ると、この人、ミーターズの前身バンドとなるアート・ネヴィル&ザ・ネヴィル・サウンズのメンバーだったようですね。その後はアーロン&シリルのソウル・マシーンの一員だったようです。近年ではシリル・ネヴィルのソロ作「NEW ORLEANS COOKIN'」などにも印象的なプレイを残しています。




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