28日は東京・二子玉川の映画館でケイト・ブランシェット主演の「ナイトメア・アリー」を観賞した。先週24日発売の週刊新潮に紹介されていたので、観ようと思ったのだが、平日にも拘わらず結構な入りで、週刊誌のPR効果は抜群なのだ、と感じ入った。ケイト・ブランシェットは個性豊かな女優で、誌上ではその演技力を褒めていたので、観る気になった。たまたま、この日は米国で年に一度のアカデミー賞の表彰式が行われていて、確かこのナイトメア・アリーも作品賞などの候補として取り上げられていたと覚えていたので、受賞が決まる日に該当の映画を観るのも一興とも思っていた。
「ナイトメア・アリー」は幕開け、ブラッドリー・クーパー演ずる中年の男、スタンが打ちひしがれてある陋屋にやってきて、床にあった大きい袋を床下の穴に放り込み、火をつけ家ごと燃やしてしまう場面から始まる。なにやら先の物語や、闇を象徴するような意味合いがあるのか、とも思わせた。その後、スタンはヨーロッパの都市の片隅にあるようなカーニバルの巡回ショーの一座に紛れ込み、獣人や体内に電気を走らせる美女など一座の演し物を観ていくうちにいつしか裏方をやるようになり、知らず知らずのうちにそのノウハウを取得していく。そうしたなか警察の手入れがあった日に、取り締まりに来た捜査官の名前を瞬時のうちに読み取り、亡くなった家族の霊などを呼び出すなどして追っ払ってしまう。
自らの能力に目覚めたスタンは電極のショーをしていた女性、モリ―を連れ出し、一座を抜け出し、都会へ行き、ホテルでの霊感ショーを行うようになる。目隠しをして舞台に立ち、助手役のモリ―の語りをヒントにその場で観客の持っているものや、思っていること、それに家族のなかで亡くなった人の霊を呼び出すようなことを行い、名声を高めていく。で、ある日、ケイトブランシェット演じる精神科医、リリスが大物検事とともに観客に加わっている座で、いつもの大向うをうならせる芸を披露し、リリスは手の持っていた小袋を取り上げ、この中に何が入っているか、と問いかける。これに対し、スタンは小型の拳銃、しかも象牙の装飾が施されていることを見破り、信任を得るに至る。
そして、スタンとリリスはリリスの大物顧客を対象に霊感商法を仕掛け、巨額のお金を手にしていく。政界や法曹界の大物を次から次へと手玉に取り、のし上がっていく。いずれも亡くなった子供や奥さんの霊を呼び出して、心を慰める、といった趣向で、スタンはトップの興行師となる。しかし、支持を得ていた財界大物の亡くなった奥さんの霊を呼び出すのにモリ―を変装させて登場させることを思い付き、実行に移すが、事が露見して、大物の怒りを買い、争いのうえ、殺害してしまう。さらには子息の霊を呼び出して喜んでいた検事の奥さんが夫と一緒に拳銃自殺を図る事件も起きて、挙句の果てに最愛のモリ―にも逃げられ、スタンはリリスのもとに助けを求めにいくが、リリスにも見放される。
一人になってかつての巡回ショーの一座に辿り着き、「仕事がないか」と相談するが、「適当な仕事がない」と一旦は断られる。しがなく引き下がろうとしたところ、相手は「ひとつある」と言い出し、「なにか」と問うと、「獣人だ」と言われ、スタンは「それこそ宿命だ」と叫んだところで、幕となった。悪事を働く者にはそれなりの制裁が課される、ということなのか、見終わって、画面の最後にでてくるタイトロールを見ていたら、ケイト・ブランシェットが主演という感じで進んでいて、彼女の凄みが印象に残った。タイトルの「ナイトメア・アリー」は夢魔の小道といった意味のようで、その通りの映画であった。今朝の朝刊によると、この「ナイトメア・アリー」米アカデミー賞の作品、撮影、美術、衣装デザイン賞の受賞には至らなかったのは残念なことだった。