鈍想愚感

何にでも興味を持つ一介の市井人。40年間をサラリーマンとして過ごしてきた経験を元に身の回りの出来事を勝手気ままに切る

ケイト・ブランシェットの凄みが印象に残った映画「ナイトメア・アリー」。米アカデミー賞の受賞には至らず残念

2022-03-29 | Weblog

 28日は東京・二子玉川の映画館でケイト・ブランシェット主演の「ナイトメア・アリー」を観賞した。先週24日発売の週刊新潮に紹介されていたので、観ようと思ったのだが、平日にも拘わらず結構な入りで、週刊誌のPR効果は抜群なのだ、と感じ入った。ケイト・ブランシェットは個性豊かな女優で、誌上ではその演技力を褒めていたので、観る気になった。たまたま、この日は米国で年に一度のアカデミー賞の表彰式が行われていて、確かこのナイトメア・アリーも作品賞などの候補として取り上げられていたと覚えていたので、受賞が決まる日に該当の映画を観るのも一興とも思っていた。

 「ナイトメア・アリー」は幕開け、ブラッドリー・クーパー演ずる中年の男、スタンが打ちひしがれてある陋屋にやってきて、床にあった大きい袋を床下の穴に放り込み、火をつけ家ごと燃やしてしまう場面から始まる。なにやら先の物語や、闇を象徴するような意味合いがあるのか、とも思わせた。その後、スタンはヨーロッパの都市の片隅にあるようなカーニバルの巡回ショーの一座に紛れ込み、獣人や体内に電気を走らせる美女など一座の演し物を観ていくうちにいつしか裏方をやるようになり、知らず知らずのうちにそのノウハウを取得していく。そうしたなか警察の手入れがあった日に、取り締まりに来た捜査官の名前を瞬時のうちに読み取り、亡くなった家族の霊などを呼び出すなどして追っ払ってしまう。

 自らの能力に目覚めたスタンは電極のショーをしていた女性、モリ―を連れ出し、一座を抜け出し、都会へ行き、ホテルでの霊感ショーを行うようになる。目隠しをして舞台に立ち、助手役のモリ―の語りをヒントにその場で観客の持っているものや、思っていること、それに家族のなかで亡くなった人の霊を呼び出すようなことを行い、名声を高めていく。で、ある日、ケイトブランシェット演じる精神科医、リリスが大物検事とともに観客に加わっている座で、いつもの大向うをうならせる芸を披露し、リリスは手の持っていた小袋を取り上げ、この中に何が入っているか、と問いかける。これに対し、スタンは小型の拳銃、しかも象牙の装飾が施されていることを見破り、信任を得るに至る。

 そして、スタンとリリスはリリスの大物顧客を対象に霊感商法を仕掛け、巨額のお金を手にしていく。政界や法曹界の大物を次から次へと手玉に取り、のし上がっていく。いずれも亡くなった子供や奥さんの霊を呼び出して、心を慰める、といった趣向で、スタンはトップの興行師となる。しかし、支持を得ていた財界大物の亡くなった奥さんの霊を呼び出すのにモリ―を変装させて登場させることを思い付き、実行に移すが、事が露見して、大物の怒りを買い、争いのうえ、殺害してしまう。さらには子息の霊を呼び出して喜んでいた検事の奥さんが夫と一緒に拳銃自殺を図る事件も起きて、挙句の果てに最愛のモリ―にも逃げられ、スタンはリリスのもとに助けを求めにいくが、リリスにも見放される。

 一人になってかつての巡回ショーの一座に辿り着き、「仕事がないか」と相談するが、「適当な仕事がない」と一旦は断られる。しがなく引き下がろうとしたところ、相手は「ひとつある」と言い出し、「なにか」と問うと、「獣人だ」と言われ、スタンは「それこそ宿命だ」と叫んだところで、幕となった。悪事を働く者にはそれなりの制裁が課される、ということなのか、見終わって、画面の最後にでてくるタイトロールを見ていたら、ケイト・ブランシェットが主演という感じで進んでいて、彼女の凄みが印象に残った。タイトルの「ナイトメア・アリー」は夢魔の小道といった意味のようで、その通りの映画であった。今朝の朝刊によると、この「ナイトメア・アリー」米アカデミー賞の作品、撮影、美術、衣装デザイン賞の受賞には至らなかったのは残念なことだった。

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温泉ホテルの脱衣場で失くなったと思っていたTシャツの肌着が戻ってきた、世の中捨てたものでもない。

2022-03-25 | Weblog

 24日から東急ハーヴェスト伊豆山に泊まりに赴き、ここ最近ずっとコロナウイルス感染下で客足が落ちていたのがうそみたいに結構な人出で、熱海駅前の足湯は満員で大勢の人が群がっていた。24日の全国のコロナウイルス感染者数は4万9929人と1週間前の水準に戻っており、決して楽観は許せない状況となっている。それでもその日はゆっくりと温泉に浸かり、のんびりと過ごして、英気を養い、今朝は午前4時半頃に起き、朝湯に浸かって、温泉をたっぷり1時間は楽しんだ。で、脱衣場に戻り、籠の中を覗いたら、確か着てきたはずのTシャツの肌着が見当たらない。まだ、そんなにお客が入っていないので、間違えるはずがないのに、どうしたことか、とあたりを探したが、どこにも見当たらない。

 仕方ないので、肌着は身につけずに浴衣を着て、浴場をあとにし、いつものマッサージ機にかかった。そういえば、数年前にもここ伊豆山で、お湯から上がって脱衣場に戻ったところ、見知らぬご老人が籠から当方の赤い股引を引っ張り出し、まさに履こうとしているところだった。で、「それは私のですが‥‥」と言ってその行為差し止めたら、しばらくして件の老人は気付いたようで、股引をもどいてスゴスゴと引き下がっていったことがあった。どうやら認知症に罹っているようで、自分の衣類を置いた籠が見当たらないようで、その後もしばらくウロウロと歩き回っていた。

 でも今回はそんなうっかりと当方の肌着を持っていったとも思えない。マッサージ機にかかりながら、なにか当方の行いに不審の念を抱き嫌がらせをしているのではないか、とも察せられたが、そんな覚えもないので、勘違いで持っていったとしても自分の肌着はあるわけで、どこかで間違いに気づくのではないだろうか、それとも着ていたTシャツの肌着は確か南米のウルグアイで買い求めたもので、ひょっとしたらサッカーファンがそれと気付いて持ち去ったのだろうかとも思ったりした。再び脱衣場に戻り、屑籠などを点検したが見つからず、部屋に帰った。

 かみさんに経緯を話すと、それはやはり認知症の人が間違えていったのでは、として、もう鍵のあるロッカーに衣類を入れて、そうした災難に遭わないようにするしかない、とのアドバイスをくれた。前回の事件から直後には鍵のある所しか使わないようにしていたが、しばらくすると、以前のように開放した籠を利用するようになってしまった。高級感のある温泉ホテルをモットーにしている東急ハーヴェストでまさかそんなことは起こらないだろう、とのイメージがあるが、どっこい利用者のなかには認知症を患っている人もいるわけで、考えられないような事態が発生しないとも限らない、ということだ。

 利用者としては自らこうした事態に備えるには鍵のあるロッカーしか利用しないことで臨むしかないのかもしれないが、脱衣場にある鍵のついているロッカーの比率はせいぜい全体の20%程度しかない。往年の街中にあった銭湯ではほとんどが鍵のついたロッカーだった。となると、開放感のある高級ホテルのイメージとは合わないこととなってしまう。

 ともあれ、こうしたことがったことをホテル側に知っておいてもらうのはいいことだ、と思って、フロントへ事前の会計をした際に訴えて、報告した。まあ、出てこなくても仕方がない、という気持ちだった。どうせ、来月にはまた来るから、ひょっとして出てくるようなことがあったら、連絡を頼みます、といった軽い気持ちだった。そしたら、帰る直前になって、フロントから携帯電話に連絡があり、「ありました」ということだった。「どこにあったのか」と聞いたら、「脱衣場にあった」ということだった。おそらく、家族の者が気が付いて、そっと返しに来たのだろう、と推察できる。まさか、返ってくるなどと思いもしなかった。何と言っていいのか、わからないが、世の中捨てたものでもない、ということなのだろうか。

 で、めでたく帰途についたが、返りの熱海駅前はすっかりコロナウイルス感染前の状態に戻った大勢の人で溢れ返っていた。コロナ感染のリバウンドが起きているのは間違いないところだろう。

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「まん延防止等重点措置」の全面解除は岸田政権の命取りになる決定ではなかろうか

2022-03-18 | Weblog

 政府は17日、新型コロナウイルス対応の「まん延防止等重点措置」を適用中の18都道府県に対し、期限の21日に全面解除することを正式に決めた。1月のオミクロン株の急拡大に伴い最大36都道府県に拡大した重点措置は約2カ月半ぶりに適用地域がなくなる。この日全面解除を諮問された基本的対処方針分科会は医療関係の委員2人が解除に消極的だったものの、結局は全員が賛成した。尾身茂会長は「感染リバウンドはありうる」とはしたものの、果たしてこれでコロナ感染拡大は収まっていくのか、疑問が残る。

 尾身会長はじめ分科会の委員全員が賛成したのは「多くの人が(解除しないと)社会へのダメージが大きくなる」との問題意識を持ったからだ、というが、約3年にわたって、コロナウイルス感染と戦ってきた関係者の間には不安を抱く向きが多い。特に17日の全国のコロナウイルス感染者は5万3588人とピークの今年2月5日の10万4197人の半分近くになっているものの、依然として高水準の感染者を記録している。しかも東京都の場合、17日には8461人の感染者が発生しており、これも第5波に比べれば高い水準である。しかも東京都の最近のPCR検査数は3日間平均で1日1~2万件程度で、相変わらず検査数を絞っており、当初からいわれていたPCR検査の拡充にはいまだに至っていない。しかも全国的にみれば、どこの都道府県も毎日大勢の感染者が発生しており、とても収まったとは言えない状況である。

 なのになぜ全面解除となったのか。過去3年にわたって感染防止に努めてきたうえ、海外では米国、英国などを筆頭に感染防止から日常の生活を取り戻す方向へ舵を取り始めていることの影響が大きく、日本もその波に乗ろう、との判断が働いているからとしか見えない。しまもいまはロシアのウクライナ侵攻で世界的にこの異常事態を修復しよう、との意識がみなぎっていて、コロナどころではない気分になっている。そうした状況を見て、岸田首相は全面解除に踏み切ることにしたのだろう。

 なのに日本のトップレベルの医療関係者がそろっている分科会のお歴々のなかで一人も異論を唱えた者がいなかったのは理垣に苦しむところである。科学的にもいまの段階で全面解除に踏み切るのは納得がいかないところである。もう少し、様子を見てからにしてみてもいいはずである。最低、解除に対して行うべきことについて注文をつけることぐらいはしてほしかった。政府の意向に対して忖度することしか考えていないとしか思えない。

 しかし、コロナウイルスはいまや新種のオミクロンBA2株に置き換わりつつあり、ブラジルでは新たなデルタミクロン新種株が出現し、今後こうした新種のコロナウイルス禍が襲い掛かろう、としているし、いまのオミクロン株も終息の兆しを見せていない。こんな状態で、全面解除しても再度、緊急事態へ逆戻りすることは目に見えている。この3年、政府のコロナウイルス感染防止はこれといったきちんとした対策を打ってきたわけではなく、なんとなく収まっては感染拡大を繰り返してきたに過ぎず、こうすれば防止できる、といった手を打ってきたとは言えないのが実態である。今回も周囲の状況から解除しただけで、確たる先の見通しがあってのことではない。

 政府は22日以降、重点措置を解除しても向こう1カ月間はリバウンド防止期間として、「重症化しやすい高齢者への支援や、感染リスクの高い行動の回避が重要」としているが、その程度の措置でコロナウイルスの感染防止が図れるとはとても思えない。また、全面解除と謳えば国民の気が緩み、一気に感染が広がりかねないことが最大の気がかりである。岸田首相はじめ政府のコロナウイルス感染防止に取り組む面々の顔ぶれを見ていても、とてもこれでコロナウイルス感染を阻止できる、と思えるような感じがしてこない。岸田首相は7月の参院選のことしか頭になくて、今回の決定はいずれ政権の命取りになることだろう。

追記(3月22日)本日の東京都のコロナウイルス感染者数は3533人で、前日より322人減、前週の火曜日より4303人減と一見大幅に改善しているように見える。しかし、3連休後の休み明けで、過去3日間の1日平均PCR検査数はわずか5961人で、これで計算した陽性率はなんと59.2%であり、いかに3連休だったとはいえ、あまりにも少ない検査数で、コロナ感染は大幅に減少していることをアピールしよう、との政治的意向が反映した数字であるのではないか、と勘繰られても仕方がない。休み明けという点も考慮されるべきで、まだまだ明日以降の状況を見ないと収拾しつつあるなんて、とても言えない。 

 

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我が国裁判史上、あまり例のないことかもしれない。風営法、および暴力団排除条例違反の被告3人の刑事裁判で公判開始から判決までが1日で行われてしまって、驚いた

2022-03-16 | Weblog

 16日は東京・霞が関の東京地裁へ裁判の傍聴に出かけた。午前10時から722号法廷で、東京・池袋で個室マッサージ店でいかがわしいサービスを提供し風俗営業法違反、そして板橋区小学校の禁止区域内に暴力団事務所を設置し、暴力団排除条例違反の2つの罪に問われた男性3人の刑事裁判を傍聴した。3人のうち2人は神戸山口組系の組長と若頭、それに個室マッサージ店の経営者で、3人はつるんでいかがわしいサービスを提供し、4年間で4億6千万円も稼いでいて、組の事務所は周囲から苦情が、持ち込まれていた、という。

 裁判はまず検事が起訴状を読み立て、罪状を述べ立てた。3人とも素直に罪を認め、それぞれ反省を口にした。もちろん、弁護人も争う姿勢はみせず、事実関係は直ちに立証された。続いて証人尋問に移り、どういうわけか、若頭の妻が登場し、弁護人の質問に答える形で、事件の概要を知った経緯から夫が暴力団員であることを初めて知ったことなどを打ち明け、暴力団員を辞めてもらうよう、話し合いを進めていることや、子供が来月に小学校に入学することなどを打ち明けた。そして、「今後、こうした罪を犯さないようにし、もし犯したら自首するように勧める」とも語った。

 続いて被告尋問に移り、弁護人、検事、裁判長が順次尋問に入り、事件の経過、今後の事態の収拾などについて聞いていった。個室マッサージ店については閉鎖することとし、主犯格の経営者は「もう風俗業には関わらず、今後は実家に戻り、家業を手伝いたい」と語り、もうひとつの暴力団事務所については撤収し、周囲に迷惑をかけたことをお詫びする、と口にした。3人とも今回の2つの犯罪について、裁判長の問いに答える形で、「認識が甘かった。近隣に迷惑をかけた」と反省を示した。

 そして検察官意見として「再犯の可能性はあるものの、反省の態度もうかがえる」として、個室マッサージ店を経営していたMG1社に対して罰金200万円、経営者には懲役8カ月、組長には懲役8カ月、わか若頭には懲役1年を求刑した。これに対し、弁護人は本来略式起訴にするのが妥当としながらも3人とも大いに反省の姿勢を見せているとして、寛大な処置をお願いしたい、と述べた。

 で、本日の公判はこれで終わり、裁判長から判決を言い渡す期日が伝えられる段取りかな、と思ったら、なんと裁判長はやおら用意していた判決を申し渡すと宣言し、判決として「MG1社には罰金200万円、経営者には懲役8カ月、組頭には懲役8カ月、若頭には懲役1年」と検事の求刑通りに言い渡したうえ、「経営者と若頭には未決拘留日数の各30日を参入すること」、および「3人に対し、3年間の執行猶予も申し渡す」と宣告した。

 刑事裁判で万引きのような軽犯罪しついて公判と判決を1日で即断して行うような例はこれまで見たことはあるが、こうした重罪に相当するような事犯で、公判と判決が1日で行われるのを見たのは初めてで、裁判長の大英断といえる。とかく日本の裁判は長いと言われてきたが、こんなに早く判決が下される裁判もあるのだ、ということを初めて目にした画期的な裁判といえるのではないだろうか。

 裁判中に弁護人が「執行猶予で被告が釈放された場合‥‥」と口走るようなことが2回ばかりあり、まだ執行猶予がつくと決まったわけではないのに、と違和感を感じた場面があった。まさか、事前に裁判長と打ち合わせていることはないと思われるが、そんな感触を得ていたとしたら、問題ではないだろうか、とも思った。予めの公判時間は2時間とされていたが、判決を申し渡す段階ですでにその2時間は過ぎており、公判中に裁判長がしきりに「時間がないので急ぐように」と弁護、検事双方に促していたのも判決を言い渡す積もりだったからだったのだろう。ひょっとしたら、我が国裁判の歴史の凄い場面に遭遇したのかもしれない、と思ったら、一瞬胸がワクワクとしてきた。これだから、裁判の傍聴はやめられない、と強く思った次第である。

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原告、被告とも意外と高いものについたある夜の出来事の代償、お互い用心にこしたことはないという教訓を残した損害賠償裁判

2022-03-09 | Weblog

 9日は東京・霞が関の東京地裁へ裁判の傍聴に出かけた。午後1時10分からの706号法廷での女性がかつての勤め先と上司に対して損害賠償請求を求めた民事裁判の傍聴をすることとし、開始5分くらい前に傍聴席に座ると、傍聴席の後方に書記官2人が待機し、裁判長が席に着くと早速、衝立のボードで被告席を目隠しするような作業にとりかかった。すると、後方のドアから入場してきた原告らしき女性が被告からは全く見えないような形で傍聴席の後ろ側から証人席に着き、宣誓をして、証人尋問に入った。民事裁判でこんな形で裁判が行われるのを見たには初めてで、どんな裁判が繰り広げられるのか、いやがうえにも興味をそそられた。

 原告は職場の上司の被告との間に大っぴらには言えないトラブルがあったようで、それで被告の顔を見るのも嫌という状況のようで、代理人の質問にて、まずは被告との関係を聞かれ、入社3年半にして1回だけ食事に付き合ったことがある、と答えた。それもラーメン屋で、それきりで別れた、という。そして、その2カ月後に職場のほぼ全員で東京・新宿でアルバイトの送別会をした時に2次会を行い、全員が終電に乗り遅れてしまい、原告の発案で被告の家に泊まることになり、だれが泊まるかクジで決めることとなり、原告がそれに当たってしまい、被告と2人だけでタクシーで目黒に行くこととなってしまった。タクシーのなかでは変なことにはならないと約束したはずだったのに、いざ被告の家に着くと被告はシャワーを浴びた後に原告の肩や腕を触り、原告が拒否するにも拘わらず強引に迫り、遂には肉体関係を結ぶまでに発展してしまった。

 被告は事が終わってから「後悔している。申し訳ないことをした」と謝った、という。また、この日には奥さんを実家に帰してしまっていて、夜遅く帰ってきて、大家さんに知られたら、奥さんに連絡されることもあるから、静かにしていることをきつく原告に言っていたこともあって、原告に翌朝も会社には内緒にするように申し渡した。

 しかし、原告は拒否するのに強行した原告を許すことができず、翌日以降、同僚や直属の部長に事の経緯を相談し、何とかして被告に謝罪をしてほしい、と思い、警察にも相談した、という。警察には被害届を出したが、証拠となるようなものがない、ということで受理されなかった、という。その後、会社は辞めざるを得なくなり、心療内科にも通うようなことになり、被告への怒りは収まらず、この裁判を起こすに至った、という。

 これに対し、続いて証人席に着いた被告は原告との性行為があったことは認めたが、原告が言うような無理やりではなく、お互い了解済みのことと思っていた、という。「原告が拒絶するような態度は一切なかった」と言い切った。事件の翌朝に一緒に会社に向かった際、「原告は『昨夜はやっちゃったね』と嬉しそうに話していたので、職場には黙っているように依頼した」と語っていた。

 実際のところ、2人の関係は2人だけの話なので、お互いが自分の都合のいいように理解しているようで、聞いていてどっちに軍配が上がるのかは判定しにくい。原告は以前にガールズバーに勤めていたことがあり、それが今回の伏線になっていたような感もあり、さらに原告はXジェンダーであるとも漏らしていた。ただ、うら若き女性が夜間、1人だけの男性の部屋を訪れるのは無防備としかいいようがない。両人の言い分だけでは判定がつかない、というのが正直なところだろう。ただ、被告はその後、会社から世間を騒がせたということで懲戒解雇処分(その後会社都合退職)となっているうえ、奥さんとも離婚に至っており、それなりの社会的制裁を受けた形となっている。だからというわけでもないが、被告には最終的には少額の賠償金が課される、ということっで落ち着きそうである。結果として、原告、被告ともある夜の出来事が意外と高いものについたという代償を払わされる形となったわけで、お互い不用意な行為であった、と言わざるを得ず、用心に用心をかさねるしかない、ということだろう。

 原告、被告の証人尋問を聞いて法廷をあとにしたので、その後の経緯はわからないが、裁判長が原告、被告に対し、なにひとつ尋問をしなかったのは意外な感じがした。補助裁判官がいなかったせいなのか、これだけ複雑な要素のある裁判で裁判官が尋問をしなかったのは初めて見た。これで、的確な判決が下せるものなのか、疑問が残った。

 

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