この23日から26日にかけて日本を訪れたバチカン市国のフランシスコ教皇は長崎、広島を訪れたほか、東日本大震災の被災者との集いを持ち、天皇陛下、安倍首相とも面会し、核兵器の廃絶を強烈にアピールするとともに原子力エネルギーを使うべきではないとのメッセージを発し、私たちに深い感動を与えてくれた。世界13億人のカトリック教徒の頂点に立つローマ教皇の一言一言に対し、我々は核兵器の廃絶に向けていまこそ立ち上がらなければならない、と胸にきざむべきである。
フランシスコ教皇はもともとアルゼンチン・ブエノスアイレスの大司教であったが、2013年3月13日に世界に130人いる80歳未満の枢機卿によて選挙で選ばれた。中南米から選出されたのは初めてのことで、就任以来「貧者の教会」を掲げ、精力的に世界の平和に取り組んできている。世界で唯一の被爆国である日本にはいつか訪れよう、と願ってきた。訪日に先立ってチリを訪れた飛行機の機内で記者団に「焼き場に立つ少年」の写真を配布したこともあった。その写真は長崎に原爆が落とされたのちに米軍の従軍カメラマンが撮影したもので、亡くなった弟を背負い、背筋をまっすぐに伸ばして唇を固く結んで火葬の順番を待っている裸足の少年をとらえていて、見る者にその表情はやり場のない怒りを心の中に押さえ込んでいるように感じさせる。その写真を持ち出すのはフランシスコ教皇が心から核の廃絶を願っていることを物語ってもいる。
フランシスコ教皇は「すべてのいのちを守るために~PROJECT ALL LIFE」をモットーとしており、長崎、広島を訪れることで平和への願い、核廃絶への思いを世界に向けて発信しよう、ということである。こんな思いで25日に天皇陛下と会い、ともに世界へ発信しよう、と確認しあった。その足で首相官邸を訪れたが、安倍首相との面会時間はわずか7分間で、あとは日本に駐在する各国の大使を前に持論を述べた。その場で安倍首相は「核兵器国と非核兵器国の橋渡しの努め、双方の協力を得ながら対話を促す努力において決して倦むことはない」と述べたが、世界で唯一の被爆国であるのになぜ核兵器廃絶を明言しないのか、については相変わらず疑問が残る。
安倍首相はフランシスコ教皇から核廃絶への同意を求められるのを嫌って、世界各国の駐日大使の面々の前でフランシスコ教皇を演説させ、橋渡し役を行うということでお茶を濁したのは明白である。これでは我が国の被爆者や核廃絶を訴える市民に顔向けできない。国連などの場で核廃絶への署名から逃げている安倍首相としては核廃絶に合意することはまずい、とでも判断したのであろう。米トランプ大統領の”ポチ”としてはここは曖昧なスタンスで逃げるにしくはない、と考えたのだろう。フランシスコ教皇との1対1での面談は通訳を交えての7分間であるから、挨拶に一言二言付け足しただけの極めて簡単なやりとりしかなかったことだろう。
26日に帰国の途についたフランシスコ教皇はローマに向かう機内で記者会見し、原子力発電について「安全が保障されない限り、核エネルギーは使うべきではない」と語った。その前日に東京電力福島第一原発事故の被災者と都内で面会した際、日本のカトリック教団が原発の廃止を求めていることに触れ、「将来のエネルギー源について勇気ある決断が必要だ」とも述べた。これも安倍首相には耳の痛い発言であろう。
1981年にローマ法王、ヨハネ・パウロ二世が来日して以来38年ぶりのローマ教皇の来日なのにこんなていたらくでは安倍首相に今後まともな外交を期待するのは無理なようである。