安部首相の辞任に伴い、次期首相に一体だれが就くのかが大きな焦点となってきた。いまのところ、岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長、河野太郎防衛相が総裁選への立候補を表明しており、これに野田聖子元総務相ら数人の声が上がっており、あと数人の立候補者が出るものと見られている。これに自らは名乗りを挙げないものの、ほかから推されれば立候補することもありうるという菅官房長官が加わるものとされている。となるとどうやら菅氏と石破氏の一騎打ちの様相が濃くなってきたようである。
安部首相はかつては後継者として岸田氏を指名し、事あるごとに周囲にそうした印象を与えてきたが、この春以来のコロナウイルス対策を進めてきた段階で、岸田氏を自らの後継者とすることに疑問を感じるようなことが再三生じたことから、最近は菅氏を指名しつつあるような動きを見せるようになってきた、とされている。さらに今回、安倍首相が後任の首相を指名する両院議員総会の仕切りを二階幹事長に一任したのは菅氏と石破氏の争いになるとみて、間違っても石破氏に総裁の座を讓るようなことにならないようにするためだ、ともされている。
というのは通常、総裁選は3年の任期満了時に実施し、その場合には国会議員票と同数の自民党党員・党友による地方票の合計数で選ばれることとなっている。しかし、今回のような任期途中に辞任するなどの緊急時は党員票を省いた両院議員総会で新総裁を選出できることになっている。いまのところ、自民党の両院議員数は394人に対し、地方票は各都道府県に3票、つまり計141票しかなく、議員票に比べ3分の1弱の重みしかないことになりそうな見通しだ、という。つまり、地方で人気のある石破氏にとっては極めて不利な戦いとなっている。
となると、菅氏が新たな総裁に就く可能性が極めて高い、ということになる。しかし、菅氏が過去7年8ケ月安倍首相のもとで無事に官房長官を務め上げてこられたのは菅氏個人の能力があったものの安倍首相を支える首相官邸を発信力のもとに霞ケ関の官僚団の強力な布陣があったからこそで、安倍首相が退くことを決めたいまその布陣が菅新総理のもとで同じような機能を発揮するとはとても考えられない。第一に菅総理のもと、だれを官房長官に据えるかが問題である。だれを据えようが、かつての菅氏と同じようなパフォーマンスを発揮するようなことはまず考えられない。菅氏は自らがやっていたことを想起し、その物差しで新たな官房長官を見るに違いない。となれば、いつも物足りなく思い、厳しく叱責することになり、いずれギクシャクし出すに違いない。
よくプロ野球の名選手は監督になると平凡な資質を露呈する、といわれる。名官房長官も同じでまず総理大臣としては2流、3流の成果しか期待できない、ということである。最近では安倍晋三、福田康夫両氏が官房長官から首相となったが、両氏とも首相として成果を上げたとは必ずしもいえないだろう。確かに安部首相は歴代首相として連続、通算とも最長の記録を打ち立てたが、果たしてそれに伴う歴史に残る実績を上げたのか、となると必ずしもそうではないだろう。仮に菅氏が新たな総裁の座に就いても1年で化けの皮がはがれるのではないか、と思う。そんな人を総理大臣に迎えることが国民にとって幸せなことか、疑問に思うところである。