鈍想愚感

何にでも興味を持つ一介の市井人。40年間をサラリーマンとして過ごしてきた経験を元に身の回りの出来事を勝手気ままに切る

宮本輝の大河小説「流転の海」の掉尾を飾るには惜しい最期の結末だった

2018-11-22 | Weblog

 宮本輝の終生の代表作ともいえる流転の海の完結編の「野の春」を読んだ37年余にわたり400字詰め原稿7千枚にもおよぶ大作は質量とも圧巻である。作者自身の父親の50歳から71歳まで日本の戦後まもなくから立ち上がっていく疾風怒涛の時代を生き抜いた生涯を描いた傑作である。鈍想愚感子の好きな作家のうちの一人でずっと愛読してきた作品であり、最終巻を期待を持って読み進んだが、主人公の松坂熊吾は脳梗塞となり、罹っていた大阪の病院から和歌山の精神病院に転送され、最後は妻と息子が見看るなかあっけなく死んでしまい、小説も幕を閉じる。それまで堂々たる人生を送ってきたのにあまりにも寂しい幕切れで、思わず本を叩きつけてしまった。

 「流転の海」は20数年前、タイトルに惹かれて文庫本で購入し、日本の戦後の厳しい時代を持ち前のバイタリティで駆け抜けていく主人公に魅せられ、以来ずっと愛読してきた。4巻目から文芸雑誌「新潮」で連載されたのを単行本で刊行され、売り出される度に購入して愛読してきた。宮本輝が生まれた昭和22年に主人公は50歳で、初めて子だった。その時に「この子が成人となるまでは生きていこう」と決意し、戦後の厳しい時代に正直で、人のために生きていくことを信条に逞しい生きざまを発揮していく。

 松坂熊吾は四国・南宇和生まれで、大阪を基点に富山、尼崎へと居を移しながら、多くの人たちと交わり、数々の事業を手掛けながら、親子3人で戦後をかけぬけていく。全巻通じての登場人物は1200人にも及ぶが、そのうちの1人たりとも裏切ることなく、誠意と持ち前の思いやりで接して人望を集めていくのは読む人を引きつける。それでいて決して威張らず、恬淡としているのも魅力であった。そしていまでいう有名人でもなく、どこにでもいる市井の人であり続けたのも魅力のうちだった。

 だからそんな松坂熊吾が大団円に向けてどんな生涯の終わり方をするのか、と期待しながら最終巻の「野の春」を読み進めていくと途中で思わず目がしらが熱くなるような場面に幾度か遭遇宇した。ところが、その肝心な場面ではあの熊坂熊吾が愛人の不埒な行動を目撃して腹を立てたのか、病院のベッドのうえで突然暴れ出し、ついには病因から追い出されて、こともあろうに辺地の精神病院に放り出され、監視人らの乱暴な仕打ちに遭ってか、あっけなく昇天してしまう事態に陥ってしまうのである。戦後を颯爽と生き抜いてきたあの松坂熊吾の最期を飾るにはいささか問題の結末であった。

 作者の宮本輝にしてみれば、事実通りに描いたのかもしれないが、読者からすればもう少しロマンが残るような描き方がしてほしかった、というのは勝手な思いなのだろうか。波乱万丈な人生を送ってきた松坂熊吾としていかにも寂しい最期の描き方に不満が残った。これではこれまで応援し、共鳴もしてきた読者としては遣る瀬無い思いが残った。

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出演者全員が男性というのも物足りないし、難解だったノーベル賞劇作家ハロルド・ビンター作の「誰もいない国」

2018-11-11 | Weblog

 11日は東京・初台の新国立劇場でノーベル文学賞を受賞したハロルド・ビンター作の演劇「誰もいない国」を観賞した。いつになく劇場前にキャンセル待ちの列ができていて、人気の高さをうかがわせたものの、内容は柄本明と石倉三郎二人の掛け合いが多くて、難解なもので、果たしてノーベル賞が万人の支持を得たうえで贈与されているのか、と疑問に思った。出演者は男ばかり4人のみで、華やかさにも欠けた素人受けしない演劇である、と正直思った次第。これまで新国立劇場の演劇なら安心して見られる、と思い込んでいたが、今後は少し考えなくてはとも思った。

 「誰もいない国」はロンドン北西部にある大きな屋敷に住んでいる作家のハーストは深夜、酒場で知り合った詩人のスブーナーを連れてくる。下僕は寝静まっているとみえ、誰も出迎えに出ず、やむを得ず、2人は手酌で、コップにウイスキーを次から次へと注ぎ、とりとめないことを勝手にしゃべりだす。お互い好き勝手なことを話し、適当に相槌をうっているうちにハーストは酔いが回ったのか、部屋の中を徘徊しだし、四つん這いになって床を這いだし、挙句の果てには連れてきたスブーナーに向かって「おまえは一体だれだ」と怒鳴り出し、ベッドに横になってしまう。そこへハーストの同居人であるフォスターとフリグスが現れ、スブーナーの相手になるが、話がかみ合わないうちにスブーナーは寝入ってしまう。

 翌朝になってフォスターの世話でスブーナーは朝食を摂り、そこへ前夜のことをすっかり忘れてしまったハーストが起きてきて、記憶を取り戻したのか、スブーナーとオックスフォード大学時代のことを語り出す。2人はオクスフォード大学の同窓で、ひとしきりその頃の思い出話に花が咲く。しかし、スブーナーの奥さんのエミリーとその友人のステラに対して、ハーストがとんでもないことをした、とスブーナーがハーストを責めたことから、2人の仲は険悪なものとなり、いまにもつかみ合いの喧嘩になりかねない雰囲気となってしまった。

 それを見た同居人のフォスターとフリグスはハーストがとてもいい人物であることを強調し、なんとかとりなそうとする。それを聞いたスブーナーは突然、ハーストに「あなたの秘書にしてくれば、あなたに誠心誠意尽くすから、ぜひ雇ってくれ」と懇願しだす。すると、ハーストは「話題はこれきりだ」と終わりにすることをつげると、同居人は「ということはこれで誰もいなくなることだ」と言明し、タイトルの「誰もいない国」だと指摘し、天井から漏れてきて池のようになった居間のソファにふんぞり返ったところで幕となり、なんともいえない終幕となった。

 振り返ってみてもなんともわかりにくい演劇で、大きな屋敷のなかになぜ雨が漏って水溜まりができているのか不思議な舞台装置でもあった。一幕の終盤に主演の柄本明がその水溜まりに倒れて全身水浸しとなったのは演出上のことか、ハプニングなのか、よくわからなかった。それとやはり出演者全員が男性のみというのも物足りない感は否定できなかった。全体を通じて作者のハロルド・ビンターは何を言いたかったのか、よくわからない。こちらの理解力が不足しているのかもしれないが、途中見ていて眠ってしまったこともあるものの演劇といおうのは見て面白いものであることが第一条件だと思う。その点、この「誰もいない国」は買えない、というのが正直なところだ。

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ネット書店のhontoで注文しようとしたら、送料が有料化されていて考えたこと

2018-11-10 | Weblog

 先日、かねて贔屓にしている作家、宮本輝の流転の海の最終作の「野の春」が刊行されたので、いつものようにネット書店のhontoで購入しようとしたら、最後の注文するをクリックしようとして、ふと注文票を見るといつも記載されていない送料として、324円が計上されているではないか。ネット書店のメリットは1500円以上購入すれば、送料が無料にあると思ってきたが、このメリットがなくなってしまったのだ。いつから有料にしたのかわからないが、hontoのホームページでそうしたお知らせを目にしたことがなかった。ネット書店は店舗を構えていないのでその分の経費がかからず、送料を無料にしているのだと思ってきたが、どうやら送料を有料にせざるを得ないほど経営が厳しくなっている、ということなのだろうか。他のネット書店の動向はわからないが、大手のhontoが送料の有料化に踏み切ったことはネット書店が存亡の危機にさしかかっていることは間違いないことだろう。

 書店はかつて日本全国に3万店以上あったが、いまや半減以下の1万2000店程度となっている。最大の理由はアマゾンに代表されるネット書店の登場である。先日、沖縄からやってきた知人は「沖縄には本屋がない」と嘆き、まずリアル本屋に行きたい、と言い出し、渋谷の東急百貨店7Fにある紀伊国屋書店とジュンク堂の大型書店に連れていったら、大喜びで2時間近く本探しをしていった。それで買うか、と思ったら、沖縄に帰ってからネットで注文する、といったので、二度驚いた。ネット書店を利用するのは安いだけでなく、重い本を運ばなくてもいい、というのも大きな理由である、と改めて認識させられた。

 ネット書店リアル店舗を構えなくてもいいので、便利で安くて、持ち運びに手間がかからないメリットがある。ただ、唯一の欠点は実際に手にとって見られないことで、その分はリアル店舗に足を運び、目で確かめて、家に帰ってから、改めてネットで注文する、ということは鈍想愚感子も行っていたことである。

 それが送料が有料化された、となるとネット書店の利用はちょっと考えざるを得ない。結局、今回の「野の春」についてはリアル店舗での購入に切り替えた。2冊、3冊と購入すれば324円の送料はそれほど負担でもないかもしれないが、1冊の購入で324円払うということはちょっとしたコストアップとなると考えたからだ。取次から一般書店への卸価格は定価の70%なので、定価1500円の本で450円となる。これまでネット書店としてはうち324円を負担てもまだ126円の余剰がある、ということで、送料無料を謳ってきたのだろうが、それだけではやっていけなくなった、ということなのだろう。

 大手のアマゾンは従来から新本、古本を問わず一律に1冊270円の送料を徴収している。だから、2冊注文すれな送料は540円となり、hontoより送料は高くなる。でもアマゾンはなかなか手に入りにくい古本を扱っており、特色を出している。ネット書店も安くて便利ということだけでなく古本を扱ったり、取扱う本の分野を限るとか、なんらかの特色を出さないと生き残れない新たな競争の時代に入った、ということなのだろう。

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