文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
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書評:この方法で生きのびよ! ―沈む船から脱出できる5つのルール

2015-11-15 09:34:38 | 書評:ビジネス
この方法で生きのびよ! ―沈む船から脱出できる5つのルール
クリエーター情報なし
経済界


 帯に、<社会からの「切り捨て」に遭わないために>と銘打った、「この方法で生きのびよ! ―沈む船から脱出できる5つのルール」(鈴木博毅;経済界)。

 一読して感じたのは、書かれていることの視点が定まっていないなということ。「はじめに」の部分には、<「5つの恐ろしい氷山」がいま、あなたの船に近づいている>(p4)と書かれている。ここで、「船」とは、自分たちが属している組織やビジネスの枠組みのことで、「氷山」とは、パラダイム・シフトを起こすような、大きな変化のことだ。本書では、この「5つの氷山」として、「代替」、「新芽」、「非常識」、「拡散」、「増殖」を挙げている。

 「はじめに」を読む限りは、自分たちの企業が、「5つの氷山」に例えられる、外部環境からくる脅威にどう対応していくのかという、防衛の視点から書かれているように思える。しかし、本文を読むと、全体的には、むしろ、攻めの視点の方が強く感じられる。

 確かに、「代替」の章については、レコードがCDにとって代わられたように、いつ自分たちのビジネスに代わるものが現れるかもしれないという脅威があることは分かる。だが、「新芽」の章は、絶望的な状況からでも立ち直る、レジリアンスの重要性について、日本の敗戦時の状況などを例に語っているものだ。これを、迫り来る「氷山」だと言われると、かなり違和感を感じる。この章は、むしろ、「氷山」とぶつかった後にどうするかを述べているようだ。

 残りの章についても、自分たちにこのような脅威が近づいているという視点での書き方ではなく、変化の時代である現代においては、こんな心構えでビジネスをやっていかなければならないというような内容だ。「氷山」がどんな脅威をもたらすのかは分かり難く、どう対応していけば良いのかも明確ではないように感じる。そして、「拡散」と「増殖」の違いは、何度読んでも、理解できなかった。著者も書くことに困ったのか、「増殖」に関する章では、やたらと、ウィルスのたとえ話が多く、ビジネスとの関係が分かり難い。いっそここは、「拡散・増殖」という項目でひとくくりにして、氷山の数としては、4つでも良かったのではないかと思う。まさか、縁起の悪い「4」を嫌って、無理に5つにしたのではないとは思うが。

 もうひとつ、そもそも、本書の内容は、企業に関してなのだろうか。それとも、個人に関してなのだろうか。副題には、<沈む船から脱出できる5つのルール>とあるが、脱出するなら個人のことのように思える。しかし、内容の方は、企業が、迫りくる「氷山」の海の中で、どう対応していくべきかというようなことが中心なのではないか。

 思うに、「氷山」という例えを使ったのが悪かったのではないか。「レッド・オーシャン」を抜けて、「ブルー・オーシャン」に至る航路を切り開いていくためのフレームワークということなら、参考になるようなことも多いと思うのだから。

☆☆☆

※本記事は、書評専門の拙ブログ、「風竜胆の書評」に掲載したものです。

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