文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

書評:天空の標的2 惑星ラランド2降下作戦

2016-12-01 08:59:11 | 書評:小説(SF/ファンタジー)
天空の標的2 惑星ラランド2降下作戦 (創元SF文庫)
クリエーター情報なし
東京創元社

・ギャビン・スミス

 本書は「帰還兵の戦場シリーズ」(全3巻)に続く「天空の標的シリーズ」(全4巻)の2巻目となる。

 敵は秘密結社(カバル)。この巻では、主人公のジェイコブ(ジェイク)・ダグラスたちが集められ、敵の前線基地がある高重力惑星ラウンド2への軌道降下低高度開傘(OILO)による侵入を行うまでが描かれている。

 作品世界では、人間は過酷な宇宙でも生存できるようにするためか、体中を改造している。ジェイクにしても、全身をサイボーグ化した帰還兵という設定だ。

 全身サイボーグというと、よくこの手のマンガに見られるように、脳みそ以外は全部機械になっているのかと思ったら、どうも違うようだ。あくまで肉体をベースにして、それに色々なものを追加していくらしい。だから、全身サイボーグでも、女の子とにゃんにゃん(古い?)可能。おまけに、ネット上のバーチャル世界をプレイの場にすることもできるらしい(そんなん、楽しいのか?)。

 ジェイクたちのチームは、なかなか多彩だ。ジェイクは、元娼婦でハッカーのモラグという少女にメロメロなのだが、このモラグの悋気がすごい。ジェイコブが他の女と寝ている写真がネットにバラまかれているのを見て、怒りのあまり、ジェイコブに何発も銃弾を撃ち込むというアブナイ人なのだ。(もっともジェイクは全身サイボーグなので、ショックは受けても、死ぬようなことはないのだが。)

 この作品世界では、人もシステムの一部のような存在なので、ネット上でのバーチャルな戦いもある。だから、ハッカーというものが戦闘チームにとっては重要なようだ。チームにはもう一人、ベイガン(異教徒)という年配のハッカーがいる。変わり者ぞろいのチームの中で、この男は比較的まともなようだ。

 そして、ハワード・マッジー(マッジ)というジェイコブの戦友のジャーナリスト。彼はかなりの薬中のうえ、女よりは男の方が好きなようだ(この辺り、腐女子を狙った設定?)。

 作戦には、もっと銃を撃てる人間が必要だということで仲間にしたのがキャット・サマージョイとマーリー(マール)・サマージョイというきょうだい。キャットは女性だが、スキンヘッド。マールの方は、マッジのセフレ(もちろん♂×♂)になったようだ。

 そしてもう一人ミチヒサ・ヌイコという日本人らしい女性。彼らが、OILO作戦に使う快速艇<テツノ・チョウ>のパイロットなのだが、体が不自由なので、船にある生命維持装置の中におり、キメラとして船と一体化しているため、ネットにより意思疎通を行う。ネット上のバーチャル世界で、茶会も開くのである。彼女も、ヘイガンに口説かれて、あんなことやこんなことをする仲に。ただし、上のような事情があるので、場所はネット上の世界。

 彼らが、OILO作戦を決行するまでには、小惑星帯を事実上支配している小惑星帯探鉱産業会社(BPIC)の奴隷にされそうになったり、友人だったヴカリ(人狼)の部隊に襲われたりと波瀾万丈。まさに手に汗握るといったところか。

 しかし、いくつかツッコミどころもある。彼らは、現実のみならず、ネットの中のバーチャル世界でも戦いを行うのだが、バイオフィードバックという機能により、バーチャル世界でやられると、本体の方もズタボロになるのである。毒コードというものも存在しており、バーチャル世界で毒を飲むと、現実の人間も本当に死んでしまうらしい。そんなソフト、あらかじめアンインストールしておけよと思うのだが。

 また人間にもジャックが付いており、そこにプラグを差し込んで、データをやり取りして意思疎通を行ったりしているのだが、これを使って、行動を制限したり、奴隷にしたり、コンピュータウィルスを送り込んだりもできるのである。なぜ、わざわざそんなアブナイ仕様にしているのだろう。 この世界のサイボーグには、統一された仕様が存在しているのか? 本書を読む限り、サイボーグ内では情報系と制御系が混在しているような仕様のようだ。そんなもん、ちゃんと分けてセキュリティを確保しておけと言いたい。

 また、バーチャル世界での登場人物を表すのにアイコンという言葉が盛んに出てくるが、これはアバターといった方が正確だろう。アイコンとは、普通は絵で表されたアプリのメニューのことを指す。

 最後に、前の巻を読めば分かるのだろうが、この巻から読み始めると、作品世界にとって重要な概念が、説明なしに出てくるのも読者には不親切だ。例えば、<神>とデミウルゴスと言う言葉が何度も出てくる。この2つの闘いも、本書の重要な要素だと思うのだが、それがどんなものかは読んでいるうちになんとなく分かってはくるものの、100%の確証とはならない。せめて重要なキーとなる用語には一覧表をつけてほしいと思う。

☆☆☆

※本記事は、「風竜胆の書評」に掲載したものです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする