世界変動展望

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白橋伸雄(Nobuo Shirahashi)・ノバルティスファーマ社社員のバルサルタン不正疑惑への関与について

2013-04-30 01:00:35 | 社会

京都府立医大や東京慈恵医大のバルサルタン論文不正疑惑ではノバルティスファーマ社の社員が大阪市立大学の所属だけを表示して統計解析に加わっていたことが毎日新聞の報道でわかっている[1][2]。まずはじめにこのノ社の社員は端的にいって白橋伸雄(Nobuo Shirahashi)。あるサイトによればノ社の部長という表記がある。現在は定年を迎えて契約社員になっており、大阪市立大学には所属していない(日刊薬業 2013年4月25日より。写し)。

断っておくが、この記事では論文等で不特定多数に対して白橋の実名が公になっているので、プライバシーとして保護する必要はないと考え実名を扱うことにした[9]。また実名の方が読者にはっきりとわかるし信用性の点で、実名の方がいいという理由もある。匿名の一般ブログなので新聞等に比べて信用性が低く証拠を出さないと信用性が十分でない。特に後に執筆するNagoya Heart StudyやVARTでKyoto Heart Studyと同じノ社社員が統計解析者だったことは新聞等で報道されておらず信頼性のある形で執筆するには論文の記載を示す必要があり、実名を出す必要があった。

不特定多数に対して白橋の実名が公表されていることの証拠だが、まずKyoto Heart Studyの論文([3])で統計解析者として白橋の名前がある。確かに所属は大阪市立大学だけ表記されていてノ社の記載はない。

 
画像1 Kyoto Heart Studyの論文([3])の統計解析者

ではJikei Heart Studyはどうか?[2]では京都府立医大の論文と同じノ社社員がJikei Heart Studyの論文でも名を連ねていると指摘されている。前も言及したが、Jikei Heart Studyの不正疑惑はランセット誌で京大の由井芳樹から告発されている[4]。この告発には参考文献としてJikei Heart Studyの論文([5])が紹介されている。この論文の統計解析者を見ると、

 画像2Jikei Heart Studyの論文([5])の統計解析者

毎日の指摘([2])のとおり、この論文も白橋の所属は大阪市立大学とだけ記載されノ社の記載はない。では本当に白橋がノ社の社員なのかというと、別の論文を見るとわかる。


画像3 JACCの論文の記載 - [6]

2002年時点では白橋はノ社の社員だった。


画像4 武庫川女子大学の教員名簿 - [7]

武庫川女子大学の教員名簿を見ると、2007年(平成19年)12月に白橋伸雄がノ社サイエンスティフィクオペレーション部マネージャーだったことがわかる。この時は確かにマネージャーだったようだ。

このように新聞等が白橋の実名を端的に公表していなかったとしても、すでに公になっている情報からKyoto Heart StudyやJikei Heart Studyのノ社の統計解析者が白橋伸雄であることは事実上公表されているといえる。

実名がきちんと公表されているためプライバシー保護の必要はないことを説明するために長々と説明してきたが、本記事で述べたいのはバルサルタン問題のノ社社員が白橋だということではない。

Kyoto Heart StudyもJikei Heart Studyもノ社社員の白橋が統計解析の責任者として関わっていたことが論文の信頼性に疑問を呈される原因となっている。端的にいってしまえば京都府立医大や慈恵医大がノ社と癒着し不正な研究成果を発表したのではないかと疑われている。

[1]では『3月に取材に応じたノ社の三谷宏幸社長は「どんな統計方法がいいかについてアドバイスしただけ。試験内容や、試験の組み立て方などデザインに関わる相談を受けたことはない。社員は大阪市立大の非常勤講師を兼任していた。統計の世界では有名な人物だ」と説明した。[1]』とノ社社長が回答したようだが、本当にアドバイスしただけなのか。

それになぜノ社社員の身分を隠して論文に所属を記載していたのか。利益相反がばれないように隠したのではないかと推測する人は多いだろうが、真相はさておき不適切な所属表示だったと言われても仕方ないだろう。想像にすぎないが、疑惑研究で必要とされる統計解析の専門家は少なく、他に適切な人が見つからなかったので仕方なく白橋が統計解析者になったのかもしれない。[3]の統計解析者を見ると白橋の他に八木克巳(Katsumi Yagi、財団法人、ルイ・パストゥール医学研究センター)が加わっている。白橋は加わらず、八木だけ加われば何も問題なかったのではないか?撤回された論文で八木だけが統計解析者になっていたものもあった。なぜ白橋は統計解析に加わったのだろうか?


画像5 Kyoto Heart Studyの撤回論文([8])の統計解析者

Kyoto Heart Studyで指摘されている疑惑の内容はバルサルタンと他の薬の結果で患者の血圧値が不自然に揃っていること等だが、詳しいことはわからない。だから、そもそも白橋が不正に関与しているかどうかは今の時点では何ともいえない。

ただ、今の時点で思うことは白橋のノ社所属を表記しなかった点や八木だけでも統計解析できた論文があるのに他では白橋が統計解析に加わっていた点で不自然さを感じる。

スイスのノバルティス本社は第三者による調査をはじめたし、京都府立医大、慈恵医大も調査を開始しているので、これらの団体が事実を歪めない限りそのうち事実は明らかになるだろう。白橋がどのように研究に関わったのかわからないが、バルサルタンの販売会社社員が自ら研究に加わったら立場上公正さを害する危険もあるから慎むべきであった。

正直いってこれまで研究不正の調査は責任を減免するために意図的に不正としなかったり、不正としても事実より小さく判断する等不当な扱いを数多く見てきたので、今回の京都府立医大等の調査でも公正な調査が実施されるか心配しているが、決してそういうことがないようにしてほしい。

また、今後の研究不正の調査制度や研究の実施、管理体制、資金提供団体との関係も改善を図る必要があるだろう。

参考
[1]"クローズアップ2013:降圧剤 京都府立医大の論文撤回騒動 製薬社員も名連ね" 毎日新聞 2013.3.28 その1,その2,その3
[2]"京都府立医大元教授の論文不正疑惑:慈恵医大も調査へ 論文に京都と同じ製薬会社員名" 毎日新聞 2013.4.24 その1, その2
[3]Sawada T, Takahashi T, Yamada H, Dahlöf B, Matsubara H; KYOTO HEART Study Group."Rationale and design of the KYOTO HEART study: effects of valsartan on morbidity and mortality in uncontrolled hypertensive patients with high risk of cardiovascular events." J Hum Hypertens. 2009 Mar;23(3)
[4]Yui Yoshiki:"Concerns about the Jikei Heart Study" The Lancet, Volume 379, Issue 9824, Page e48, 14 April 2012
[5]Mochizuki S, Dahlöf B, Shimizu M, et alfor the Jikei Heart Study group. ”Valsartan in a Japanese population with hypertension and other cardiovascular disease (Jikei Heart Study): a randomised, open-label, blinded endpoint morbidity-mortality study.” Lancet 2007; 369: 1431-1439
[6]Wataru Shimizu,et.al.:"Differential effects of beta-blockade on dispersion of repolarization in the absence and presence of sympathetic stimulation between the lqt1 and lqt2 forms of congenital long qt syndrome" J Am Coll Cardiol. 2002;39(12):1984-1991
[7]武庫川女子大学の教員名簿 写し
[8]Sawada T, Yamada H, Dahlöf B, Matsubara H; KYOTO HEART Study Group.:"Effects of valsartan on morbidity and mortality in uncontrolled hypertensive patients with high cardiovascular risks" Eur Heart J (2009) 30:2461-2469。 撤回公表
[9]実名を扱う場合プライバシー権が問題となる。プライバシーとして保護される法的要件の最高裁判例はない。現在判例として存在するのは「宴のあと」事件(東京地判昭和39年9月28日)であり、それによると

(1)私生活上の事実または事実らしく受け取られるおそれのある事柄であること。(私事性)
(2)一般の人々にいまだ知られていない事柄であること。(非公開性)
(3)一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められる事柄であること。

がプライバシーに当たる3要件である。実務でも使われているし判例でもある。従って本ブログではこの基準で実名の扱いを判断するのが適切だと考える。

実名は(1)私事性を満たさないと思うが、仮に満たすとしても本件では論文等で実名が不特定多数に対して公にされているので明らかに(2)非公開性を満たさない。

よって実名を扱うことは許容されると判断した。
[10]バルサルタン事件の統計解析者だったノ社社員が白橋伸雄であることはフォーブスが報じた写し)。



2 コメント

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ちなみに (Yossy21)
2013-04-30 12:02:30
VARTやNAGOYA HEART studyにもNobuo Shirahashiの名前がありますし、血圧・脈拍がValsartan群とコントロール群で不自然なほど介入前後で一致しているという手口も同じですね。

たぶん、一連の論文は全滅するはず。
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回答 (世界変動展望 著者)
2013-04-30 22:15:10
関連記事を執筆しました。今後どうなるかわかりませんが、公正にやってほしいと思います。
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