世界変動展望

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激震・STAP細胞:/中 予算獲得に勇み足 理研、ヒロイン作り上げ

2013-02-28 20:05:15 | 社会

「幹細胞の基礎分野で大きな進展があった」。具体的内容に触れない理化学研究所からのプレスリリースが、「STAP細胞(刺激惹起(じゃっき)性多能性獲得細胞)」騒動の発端だった。理研幹部は、毎日新聞の問い合わせに「これまでにない特別なリリース」と応じた。

 1月28日、理研発生・再生科学総合研究センター(CDB、神戸市)。STAP細胞論文の発表に、16社約50人の記者が集まり、かっぽう着姿の若い女性研究者が、ピンクや黄色に壁を塗られた研究室で試験管を振る光景に、無数のフラッシュをたいた。山中伸弥京都大教授が2006年、マウスのiPS細胞(人工多能性幹細胞)作製を発表したのは、文部科学省の記者会見場。カメラマンもほとんどいなかったのとは大違いだ。

 理研は03年、ノーベル化学賞受賞者の野依良治氏が理事長に就任した際、運営方針「野依イニシアチブ」を発表。最初の項目に「見える理研」を挙げた。一般社会での理研の存在感を高めるという意味だ。限られた科学技術予算を全国の研究機関が奪い合う中、「目立つ成果」は必須だ。理研経験者は言う。「理研は、組織として得か損かを基準に動く。膨大な予算獲得につながる成果と考えたのではないか」

 実際、文科省は発表前からSTAP細胞論文の情報を把握し、下村博文文科相に説明していた。「今どんな政策ができるかすぐにあげてくれ」と下村文科相から命じられ、STAP細胞関連の研究費の検討が始まった。「予算獲得のチャンスだと思った」と、ある文科省幹部は明かす。そして1月30日、大々的に報道され、社会では再生医療の進展や「リケジョ(理系女子)」への注目が高まり、下村文科相は翌31日、STAP細胞研究への財政支援を表明した。「演出」ともとられる発表が、理研や文科省の「思惑通り」に世の中を動かし始めた。

 だが、わずか1カ月半後、論文改ざんが判明。3月14日の調査委員会の記者会見には発表時を上回る約200人の報道陣が殺到した。ある再生医療研究者は「理研はやりすぎた。従来、科学研究は淡々と発表するものだ」と指摘する。

 CDBの研究者22人が14日、理研のホームページに「科学の公正性を回復、担保するあらゆる努力を払う」との声明を発表した。その一人は「今後、相当影響があると思う」と不安を口にする。CDBは今年、世界初のiPS細胞を使った臨床研究に取り組む。14日の会見で、理研幹部は「(今回の騒動の)影響はない」と話したが、CDBによると論文の疑惑が浮上後、中止になった視察も出ている。

 影響はそれだけではない。大島まり・東京大教授(生体力学)は「今回の件は研究者としての倫理観の問題で、性別とは無関係。だが、当初のインパクトが大きく、女性研究者や理系を志望する若い女性の背中を押す面もあっただろうと思うと残念で、揺り戻しが起きないか心配だ」と話す。

 文科省も「ヒロインとして期待して」(文科省幹部)、若手や女性研究者への支援を強化する機運が高まっていた。この幹部は「まだSTAP研究そのものがどうなるか分からないが、確かにいろいろな脇の甘さがあった」と肩を落とした。【須田桃子、斎藤有香】

毎日新聞 2014年03月16日 東京朝刊