ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

トランプ時代の始まり~暴走か変革か18

2017-01-12 09:32:12 | 国際関係
●日本への影響とそれへの対処

 結びに、来るべきトランプ政権の日本への影響とそれへの対処について書く。
 私は、東日本大震災の発生後、平成23年(2011)5月に、「日本再建をめざして~実行すべき課題」を発表し、マイサイトに掲載している。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinionaa.htm
 5年以上経過するが、残念ながらそれらの課題の取り組みは遅々としており、日本の再建は、良く進んでいない。本稿の各項目に、トランプの政策の日本への影響とこれへの対処について書いたことは、それらの課題に加えてなすべきことや、状況を踏まえた補足となることである。各項目に書いたことをここで集約しつつ、私見を述べたい。まずTPPを含む経済面、次に外交・安全保障面、そして根本的な対処の順に書く。

 最初にTPPを含む経済面についてである。オバマ政権は、2009年(平成21年)1月から2期8年続いた。現在の第2次安倍政権は、2012年(平成24年)12月に誕生し、以後、約4年間、オバマ政権と協調して歩んできた。
 オバマ政権は中国を経済的に包囲するという思惑からTPPを推進し、日本を取り込んで、12か国の交渉を主導してきた。ところが、最終段階で、米国は、国民が選んだ新たな大統領トランプにより、TPPから離脱するというどんでん返しになろうとしている。
 TPPは、関税分野だけでなく、投資やサービスなど幅広い分野のルールを定めようとするものである。自由貿易を拡大する広域経済協定だが、オバマ政権は米国主導で各国の文化・伝統・価値観を排除し、グローバリゼイションを徹底的に進めようとした。わが国は、もともと米国主導のTPPへの参加に慎重な姿勢を取っていたが、米国との協調のため、かなり遅れて議論に参加した。米国に安易な妥協をすることは、大きく国益を損なう。TPPで米国の外交圧力に屈すれば、プラザ合意以降の日米経済戦争の最終局面になりかねない。ただし、それでもTPPに大きな意味があるとすれば、台頭する中国への対抗である。とりわけわが国の場合、現行憲法のもと国防を米国に依存しているので、中国の軍事力から国を守るために、最終的には米国の意思に沿わざるを得ない屈辱的な立場にある。
 遅れて参加したわが国は、安倍首相を中心にタフな交渉を続けてきた。だが、明らかに米国追従やむなしという中での部分修正の努力だった。米国は自国主導の姿勢を貫いたので、参加12カ国の交渉は5年半以上もかかり、ようやく2015年10月に、大筋合意に達した。その後は、詰めの交渉が続けられてきたが、最終段階になって、次期大統領のトランプは、TPPから離脱すると宣言した。わが国としては、やむを得ず米国に追従してきて、最後に突き放される格好となる。
 本年1月20日、トランプは、大統領就任と同時におそらくTPP脱退を宣言するだろう。安倍首相は、米国が抜けたTPPは「意味がない」と言っている。では、わが国政府は、米国がTPPを脱退した場合にどうするか。シナリオを準備してきたのだろうか。米国抜きでTPPを日本主導で進め、発効条件や内容の修正を図るのか。日本もTPPをやめて、二国間での自由貿易協定の組み合わせに進むのか。TPPと違って中国が加入する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に軸足を移すのか。
 米国の離脱でTPPが発効しなければ、それによって生じた空白は、RCEPで埋められることになるだろう。RCEPは米国が入っておらず、GDP最大の国は中国だから中国主導となる可能性が高い。
 ここで日本は、米国へのさらなる従属の道でも、中国の暴力的な支配に屈する道でもなく、自らの運命を切り開く主体性を持った戦略的な構想力を求められている。
 トランプの経済政策は、レーガノミクスと共通点がある。わが国はプラザ合意の時と同じような結果に陥らないようしっかり研究して、主体的に対応することが求められる。
 米国は「物を作って売る」という経済の基本的な活動を軽視し、貨幣や証券のやりとりで利益を上げるという金融中心の活動に傾きすぎてしまった。製造業の衰退は、その結果である。米国のエリートは、大地の上に立って汗水流して働くのではなく、人工的な空間で頭を使うことだけで莫大な富を手に入れられるゲームに熱中している。また、米国民の多くが下層に至るまで、海外からの借金で豊かな生活をする生き方に、はまってしまった。基軸通貨を掌握する地球的な覇権国家だから可能になった倒錯状態である。こうしたアメリカ人の生き方、価値観を改めない限り、米国経済の再建は成功しないだろう。必要なのは経済政策の転換よりも、生き方、価値観の転換である。オバマには、米国を根本的に再生しようとする理念も意思も見られなかったが、トランプも同様である。ここに気付かないと、いずれアメリカという帝国は腐敗・倒壊する。
 日本人もまたグローバリゼイション=アメリカナイゼイションの進行の中で、アメリカ人の生き方、価値観を模倣し、本来の経済活動を見失っている。米国型株主資本主義の追従を脱し、明治維新以来、昭和の高度経済成長期まで独自に発展日本型の資本主義、国民全体や企業共同体の利益を追求する経済思想・経済体制に立ち戻るべきである。
 トランプ政権が中国に対してどのような政策を行うにしても、わが国が自らの戦略を以って自らの意思で判断・行動するのでなければ、対米追従の繰り返しになる。中国経済は悪化し、米国の中国マネー依存が薄れ、米国の対中政策が強硬策に転じようとしている。その米国では、米国型資本主義が行き詰まっている。わが国は、米国型資本主義の模倣を脱し、日本型資本主義の再興を図りつつ、対中政策においても、米国に追従するのでなく、米国と対等の立場で連携する姿勢を取るべき時にある。
 わが国はトランプ政権の誕生を前にして、独立主権国家としての真に主体的なあり方を迫られているのである。

 次回が最終回。

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