ほそかわ・かずひこの BLOG

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仏教192~テーラワーダ仏教の「本質的な限界」

2021-08-07 10:16:24 | 心と宗教
●テーラワーダ仏教の「本質的な限界」とは

 仏教は、約2000年前にインドで部派仏教と大乗仏教に分かれた。北伝の大乗仏教は、日本に来て独自の発展をした。その日本に南伝の部派仏教が初めて。オウム真理教事件の後に伝来したのである。藤田と山下は、アメリカでテーラワーダ仏教に出会っていた。藤田は。テーラワーダ仏教の瞑想経験を持つアメリカ人に坐禅を教えた。山下は、自らミャンマーへ行って修行し、テーラワーダ仏教の比丘になった。そうした彼らは、現代の日本仏教にないものがテーラワーダ仏教にあることを知るとともに、テーラワーダ仏教に「本質的な限界」を見てもいる。
 藤田によると、アメリカの禅堂にはテーラワーダ系のヴィパッサナー瞑想をかなりやり込んだ人が結構、来ていた。彼らの多くは、かつて坐禅をしていた。だが、禅は「ただ坐れ」と言うだけで説明がなく、修行についても曖昧模糊としていて、何をやっているのかわからなくなった彼らは、ヴィパッサナー瞑想に乗り換えた。そこで彼らは、テーラワーダ仏教は、ちゃんと言葉で説明があるので理解できるし、何をどうするかということがはっきりしていると感じた。だが、しばらくして、また坐禅に帰ってきているのだと藤田は説明する。藤田が彼らに聞くと、みな「ヴィパッサナーをやればやるほど『自分』が重く感じられる」と語るのだという。
 この点に藤田と山下は、テーラワーダ仏教の特徴を見ている。それは、「『自分』が頑張って瞑想をしている」という意識が働いていることである。アメリカ人は自我が強烈だから、ヴィパッサナー瞑想に打ち込んでいくうちに、「自分」が重く感じられるようになるのだろうと藤田と山下は解釈する。山下は、「わたしのところに来ている『仏教2.0』の人たちも、この『自分』が瞑想している限りどんなに頑張っても新しい地平が開かれてこない息苦しさを感じています」と語っている。
 山下は、次のように語っている。「『仏教1.0』は方法とかメソッドということはほとんど言わないし、メソッド的なことはやらない。何かそういうことはレベルが低いことであるかのように見下している。そこでは問題はみんな解決済みであるかのようなスローガンが声高に掲げられる。だから実際にある現実の問題が手つかずのままでほったらかしになっている」と。私見を挟むと、これは、衆生は本来そのままで悟っているという観念、煩悩即菩提というような思想によって、かえって現実の心の悩みへの取り組みが放置されていることをいうものだろう。これに比して、山下は言う。「『仏教2.0』はそれとは大違いで、方法の有効さが過剰なくらい強調される。こうすればこうなるということが明確に記述されている。だから『仏教1.0』では何が何やらわからない、煙に巻かれていたと感じていた人たちが一斉に引きつけられたのは、まあ無理もないことでした。ところが、そういう人たちが言われた通りにその方法を実行してみたんだけど、どういうわけかそこに書かれているような結果がうまく出てこないという現実が見えてきた」と。
 山下は、自分が修行したミャンマーでの経験をもとに次のように言う。「パオ瞑想センターのようなところには、だいたい千人ぐらいの修行者がいるんだけれども、そこで瞑想メソッドのコースを完了できるのはせいぜい10人くらいのものなんですよ」と。ということは、完了できる者は1%以下ということである。藤田もアメリカで似たような実態を見てきた。
 藤田と山下が「仏教2.0」と呼ぶテーラワーダ仏教は、自分の心の問題を取り上げ、その問題解決の方法として仏教をメソッド化して提示している。また、彼らによると、テーラワーダ仏教の瞑想を実践する人たちは、自分自身の心の問題を仏教を通して真剣に解決しようとする。だが、山下はミャンマーで、藤田はアメリカで、「『仏教2.0』が約束しているはずの成果が思ったようには得られていないという現実」に直面し、テーラワーダ仏教の限界を感じるようになった。その限界は、テーラワーダ仏教の「本質的な限界」だと断じている。この見方は、現在、アメリカを中心に日本や欧州等に広まっているテーラワーダ仏教系のインサイト・メディテーションやマインドフルネスの限界を指摘するものである。インサイト・メディテーションやマインドフルネスは効用が大きく注目されているが、仏教史に照らすならば、その限界が推測される。私は、藤田と山下が厳しい修行と豊富な指導の体験をもとに打ち出している見解は、現代アメリカ仏教の可能性を評価するうえで、大いに参考になるものと考える。

 次回に続く。

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