ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

北朝鮮の戦争政策への備えを

2013-04-17 10:33:24 | 国際関係
 北朝鮮の金正恩政権は、朝鮮戦争の休戦協定を白紙化した。それによって、南北朝鮮は国際法上は戦時状況に戻った。北朝鮮は、対米核先制攻撃を唱え、日本の米軍基地と東京・大阪等の主要都市へのミサイル攻撃も辞さぬなどと、国際社会に向けた論調はエスカレートしている。
 果たして、金正恩は、スカッド、ムスダン、ノドンの発射を実行するつもりなのか。本気で戦争を仕掛けるつもりなのか。それとも権力基盤の強化、国内の引き締め、アメリカと交渉の駆け引き等を目的としたものなのか。その本意は、非常に読み取りにくく、日米中韓の各国政府は対応に難儀しているところである。軍事専門家、外交研究者、北朝鮮の専門家等の見方もさまざまであり、現時点で確実な予測は立てにくい。

 ところで、平成6年(1994)ビル・クリントン米大統領は、北朝鮮に宣戦布告をする瀬戸際にあった。当時わが国の細川護煕内閣は、対策案を作成した。内閣安全保障室が取りまとめたものである。 その際、作られた対策案(以下、草案)は、その後、内閣危機管理チームが参考にしてきたという。
 草案は、国連による対北朝鮮経済制裁は、三段階になると考え、それに対する北朝鮮の対応を想定した。

◆第1段階の経済制裁

①大量破壊兵器に関係する科学技術や科学者、技術者の交流禁止
②武器及び武器に関連する物資の禁輸
③文化やスポーツの交流停止もしくは遮断
④北朝鮮外交官や政府関係者の入国縮小措置

 さらに追加的なものとして

①パチンコマネーなどを阻止するための送金停止
②海外資産の凍結

・これらの制裁に対する北朝鮮の反応

①海外にある日本大使館や、日本を代表する大手企業の支店と生産工場を狙ったテロ攻撃
②北朝鮮工作員の日本侵入工作の増加と、化学兵器の日本国内への密かな搬入(人口密集地、日本の重要防護施設、または在日米軍基地への攻撃用として準備)

◆第2段階の経済制裁

①陸上、海上、空路における交通や通信と無線の遮断
②海上における貨物検査。いわゆる海上封鎖(強制措置を伴わない)

・これらの制裁に対する北朝鮮の反応

①重要防護施設等へのゲリラ攻撃
 国会、官邸、皇居、原子力発電所、石油備蓄基地、劇物備蓄施設。
②都市への爆破攻撃と化学兵器使用
 ファッションビル、デパート、テーマパーク、遊園地。
③交通機関へのゲリラ及び爆破攻撃
 新幹線、旅客船、地下鉄、石油タンカー、日本航空と全日空の航空機
④暗殺と誘拐及び殺害(狙撃、爆弾、毒物、サリン等の化学兵器使用)
 大手企業首脳、政界要人
⑤在日米軍と自衛隊の施設へのゲリラ攻撃
 基地、通信設備、基地周辺

 この草案が作られた平成6年(1994)当時は、わが国は経済制裁を行わなかった。草案の経済制裁第2段階の②は、強制措置を伴わない「貨物検査」を「海上封鎖」と認識している。「臨検」と比較すべきものである。草案は、この段階で、北朝鮮のゲリラ攻撃・化学兵器使用・無差別テロ等を想定した。国連が軍事的制裁に踏み切った場合をも、想定していた。

◆第3段階となる軍事的制裁

 日本は憲法上、軍事的制裁には参加しないとされ、具体的な作戦は、草案には登場しない。

・軍事的制裁に対する北朝鮮の反応

①水道、電気、ガスなどのライフライン施設への同時多発ゲリラ攻撃
②空港、港湾施設への大規模で、かつ同時多発的なゲリラ攻撃
③通信ラインの破壊
④弾頭に化学兵器が装填された複数のノドンミサイルによる日本国土への直接攻撃
⑤日本海への大量の機雷設置による、漁船と貨物船の被害
⑥弾薬庫の襲撃と略奪
⑦生物兵器攻撃。天然痘ウィルスの人口密集地での曝露

 草案はこうした想定のもとに、日本政府が行うべき対応について詳細に検討していたと伝えられる。軍事制裁の場合の対応案としては、具体例として、化学兵器弾頭のノドンミサイル攻撃への対応が報じられた。それは、次のようなものである。

・化学兵器弾頭のノドンミサイル攻撃への対応

①大量死者発生に伴う埋葬法の改正
②大量死体収容の棺桶の手配は、政府か自治体か
③空襲警報の整備。NHK、地方自治体の防災無線の活用の検討
④外務省海外広報課による国民への広報体制の確立
⑤災害対策基本法適用の是非

 当時は、迎撃という発想がなく、先制的自衛権の行使は正当化されていなかった。すべてやられることを前提とした対応である。

 当時内閣安全保障室が最も深刻に悩んでいたのは、北朝鮮から押し寄せる大量避難民の対策だった。10万人規模の戦争難民が日本に来る。現有の収容施設では収容しきれない。難民の中には、避難民か工作員かゲリラ部隊か見分けのつかない者が混じっている。また、わが国は政治亡命を受け付けない方針を取っていたが、もし北朝鮮要人が突然日本に到着して亡命を主張したら、現実にどう対応するかも難問である。
 想定事項は、すべて今日にも当てはまる内容である。有事立法によって、法的には一部整備が進んでいるものの、現実に起こりうる事態への準備は、まだまだ不十分である。

 平成6年(1994)、旧内閣安全保障室が対北朝鮮制裁の対応案を取りまとめていた。その時から現在までの間に、起こりうる「第2次朝鮮戦争」にどれだけの備えがされてきたか。
 平成13年(2001)の9・11同時多発テロ事件以後、有事法制は整備されてきた。だが、専守防衛の方針や集団的自衛権の行使の禁止によって、多くの矛盾を生じている。また国民保護法は、有事において国民の生命・身体、財産を守ることを目的に、国や地方公共団体の役割を規定している。しかし、国民保護計画の策定・実施は、遅々として進んでいない。

 戦争難民の問題もある。草案が作られた翌年の平成7年1月17日、阪神淡路大震災が起こった。5千人以上の死者、3万人以上の被災者が出た。3万人規模でも被災者の収容は容易でなかった。平成23年3月11日、東日本大震災と福島原発事故が起こり、いまなお約31万5千人が避難生活を送っている。朝鮮戦争の時は200万人の難民が出たというが、その10分の1の20万人が北から押し寄せてきたとしても、対応は相当の難事となるだろう。しかも、わが国自体が北朝鮮の攻撃を受けて多大な被害が出て、多くの死傷者が出ている状態も考えるから、大きな混乱が予想される。

 現在の有事法制は、まだ土台のないまま仮に立てたテントのようなものである。国家安全保障の根本となる憲法は、依然として改正されていない。第9条は制定当時のままであり、国際環境の変化に対応できていない。憲法に非常事態条項は新設されていない。有事法制を支える国家非常事態基本法も制定されていない。一人一人の国民の生命と財産を守るための国防の教育や訓練は、ほとんど進んでいない。

 草案に話しを戻すと、一つ重要な点を指摘したいのは、それが作られた時点では、北朝鮮は核兵器を持っておらず、核攻撃の場合は想定されていないことである。平成9年には北朝鮮が核兵器を保有していることがわかった。その後、政府が何らかの対応策を練ってきたのか、不明である。
 現在、北朝鮮は4回目の核実験を強行し、核戦力を強めつつあると見られる。平成6年の草案では、化学兵器弾頭のノドンミサイル攻撃に対する対応までは、考えられていた。大量の死者が出る場合を想定し、埋葬法の改正や棺桶の手配を検討している。しかし、核兵器は、サリンやVXガスとは違い、人命を奪うだけでなく、多くの建物や施設、情報システムを破壊する。また被爆地は長期にわたり、放射能による汚染が続く。
 広島・長崎で核攻撃を受けた経験のあるわが国こそ、その経験を生かして、万が一の事態に国民が備えられるようにしていなければいけない。
 大東亜戦争の際、時の指導層は、計画性のない戦争を始めた。国民は緒戦の勝利に興奮し、マスコミは国民を戦いに煽った。人命は、鴻毛のごとく軽く扱われた。政府は、陛下の赤子を赤紙一枚で戦地に送り、銃後の国民は無差別虐殺の爆撃・猛火にさらされた。
 戦後は、敗戦の反省に立って進んできたはずだが、日本人は新たな愚行を続けている。わが国は、GHQに押し付けられた憲法を放置し、それを堅持しようという人がまだまだ多数いる。その結果、今日国民は自らを守るすべもなく、未曾有の危機にさらされている。人命の尊重が言われていながら、国家的非常事態に関する備えには、いかほどの進歩があったといえるだろうか。
 わが国を立て直すには、国民の自覚によるしかない。幸い現在わが国は安倍晋三という国家安全保障にしっかりした認識と姿勢を持った政治家を首班とする政権を持つことができている。この機会に、日本人は、北朝鮮からの国防を真剣に考え、あらゆる事態に対応できる体制の整備を急ぐ必要がある。

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