2015年12月14日(月) 武蔵野市民文化会館 小ホール
シューマン 子供の情景 op.15 17′
ベートーヴェン ピアノソナタ第23番ヘ短調 熱情 9′+5′+5′
Int
ラフマニノフ 幻想的小品集op.3より
エレジー、前奏曲、道化師 5′、4′、3′
スクリャービン 練習曲op.2-1 5′
スクリャービン 詩曲「炎に向かって」Op.72 3′
プロコフィエフ トッカータ op.11 4′
ピアノ、グロリア・カンパネール
(enocre)
ドビュッシー 月の光 4′
アルヴォ・ペルト Fur Alina アリーナのために 1′
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実のところ熱情を聴きたくて、ちょっと遠出でしたが出向きました。このホールもソリストもお初となります。
1986年イタリア産、スレンダーな大人美人で黒のロングドレス、ちょっとハイヒールが高い気もしましたが、着こなし歩きこなし、見られ慣れしているようで、いいですね美人は。
もったいぶったところが無く、自意識過剰も無い、あっさりと弾き始めます。目をつむるような瞑想ピアノではまるでなくて、目を大きくひらいてじっと何かを睨みつけるような感じ、そして時折、満足の不敵な笑顔。殊の外、音楽に集中しているピアニストと見受けました。
ざっくりと、子供の情景は音のふくらみが感じられました。熱情はかなり激しくアゴーギク多用でテンペラメント。ラフマニノフはロマンティックでスクリャービンはより現代風、プロコフィエフはヴィルトゥオーソの時代を思い出させる。
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子供の情景を聴いていて、音に太みがあるなぁと、暖かなオレンジ色の音色で隙間が無くてやさしい。1曲ごとに曲想に沿い明確に表情を変えていく。カンパネールは姿勢が良くて見ていて気持ちがいい。強音でビクつく弾きっぷりは癖だと思うが、気の入れようのクセというより現代音楽のショートフレーズに細かく対応して出来上がった形のような気がしないでもない。憧憬のようなロマンティックなワードとは別の引力。
熱情はベートーヴェン中期のやりつくしの作品で、運命動機がどうのこうのというより、叩きならあの音形しかないだろうと思わせるに十分。荒れ狂う音楽の素晴らしい表現。
息を切らず前へ前へ、形式は下敷であり、綱渡り的なフレーズから激烈な響きまで見事に表現、本当に素晴らしい熱情を聴きました。すごい作品、あらためて。
休憩後のラフマニノフはそれぞれの副題をイメージさせるものだが、ロマンティックな曲ですね。同期のスクリャービンと並び合わせると、ラフマニノフの目はその時代を見つめていて、スクリャービンの目は先を見つめている。
スクリャービンの練習曲は甘いものですけれどノスタルジックなものはない。その最後の響きがそのまま詩曲の最初の音になっているのは曲目構成の妙でしょうが、あまりに違う小品でびっくりしますね。初期のピアノ協奏曲から一気にシンフォニーの5番に流れていったような錯覚に陥ってしまいました。
こうやって並べて聴くと本当に面白いものですね。
最後のプロコフィエフは、その昔、ピアニストがヴィルトゥオーゾで売っていた時代を思い出させるもので、腕達者の自己表現で聴衆も求めるものだろうが、あまり好きな曲ではありませんでした。
カンパネールは、曲ごとに終わるとさっと消え、すっとはいってきてすぐに次の曲を弾き始めます。曲ごとに1回ずつの出入りですね、あっさりしたもので、拍手に過剰に反応しないし求めることもしない。あれだけの美人だと自意識過剰という単語もどこかに飛んで行ってしまっているのでしょうね。
アンコールもすぐに始めてしまう感じ。コンセントレーションの方法をよく知っていると思う。集中度の高め具合、気持ちの切り替えがすっと出来る。夜のモードの表情を濃く出したドビュッシーは黒くしっとりとしたものでした。
2曲目のペルト、点と点の短い曲。彼女のしたそうな作品群がここらあたりにもたくさん並んでいそうですね。
いい演奏会でした。特に濃口の熱情を聴けて良かったですね。
ありがとうございました。
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この小ホール、オルガンがあって、演奏の合間にそのパイプの数を見て数えてみました。よくわかりました。
コンパクトなホールで椅子に余裕があり、リサイタルをゆっくり聴くには最適ですね。三鷹の駅から一本道を曲がることなく、結構歩きますが、雨でなければ問題ないでしょう。
武蔵野市民文化会館のコンサート・パンフにはいつも少し笑いの要素があって面白い。さらにこの日のプログラムには、「激ムズ!」といった言葉でわかりやすく説明があったりして、今まで見たこともないものだっただけに笑ってしまいました。楽しい一夜でした。
おわり