山野楽器は表と裏に出入り口があり、表の銀座通りのほうから入ることはまずほとんどない。地下鉄出口A10出てすぐの裏通りはごみごみしていないし、クラシックとラッパのフロアしか面割れしてないから、というかコソコソ入る必要もないのだが、以前は毎日寄ったりしていて、CDをキャッシャーに持っていくと店員交代で、お河童さん専用の人に。この変なお河童さんいつも変なCDばっかり買っているけど今日は何買ったんだろうな市場の動向なんて怪しいものだしやっぱりお河童さんの買うものをチェックしてから陳列を考えよう、と思ったのかどうかは知りませんけれど、チェックされていたようだ。あれありますか、あああれですね。みたいな敏感で濃厚なやり取り。
それでその裏通りはガス灯通りというらしいけど今一つ違和感がある。そんな古くからの名前じゃないしね。昔はなんて呼んでいたのかな。雰囲気的には、金春通りすずらん通りは一本道だし、晴海通り越えてガス灯通り、ちょっと今でも馴染めない。4~9丁目通りの名前は記憶がレントゲン写真状態だが、3丁目から京橋方面はあんまり歩かないので脳裏に刷り込まれない。
それでこのガス灯通り、勝手に裏通りとよばせてもらう、やっぱりお河童さんのメインはクラシック音楽だし、山野楽器にはいろいろとお世話になっているしここがメインなんで、メインの裏、という感じがしっくりくる。
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その裏通り、山野楽器の裏から出てすぐ正面のビルの二階に「オールドムービー」というお店がありました。ビルの一階は扉もなくオープンスペースで、そのまま赤いじゅうたんを踏みしめて階段を上ると右手にガラスの自動ドアがありドアの手前に結構なスペースの順番待ち椅子がありそれを横目に見ながらなかにはいるとかなりの大きさ。左サイドはカーブした腰高なカウンター、中央から右にはテーブルがたくさん、中央奥の壁には幻灯機で白黒ムービーを映写している。その壁の裏側に舞台裏のようにまたテーブルがありひと回りできる。結構なスペースのお店でした。
山野楽器に昔からあれほど頻繁に行っていながらこのお店のことはだいぶあとになってから知り合いに教えてもらいました。それから割と気に入って、ボトルのキープも一気に3本とか手軽だし、通いましたね。グタグタと二人でしゃべり更けるのもいいし、会社のグループでも使わせてもらいました。メニューもいろいろあったと記憶します。なじみのスタッフもおりましたし。それに女性スタッフは、やっぱり黄桜派のお河童さんには合いそうな雰囲気でしたね。
昔マンハッタンに住んでいた時、57丁目のウェストだったんですが同じ通りをずーっと5番街を越えてイーストサイド方面に、そこらへんから3ブロックダウンすると、ビルズゲイBill’s Gayというお店があって、ここはリンカンセンターの出し物が終わった後、そこそこ通いました。リンカンセンターからはちょっと遠いのですけれど、お河童さんの巣を越え、日本クラブを越えて、カーネギーホールを越えて、ティファニーで朝食はとったことは無いけれどそこも越えて、先まで行くとビルズゲイがありました。建屋は奥に行く通路に店が並ぶような感じで、入ってすぐの右手の扉をあけるとオールドムービーのようなキャパではありませんがこじんまり、暗くともダークな感じはしない、おじいさんが二人交代でピアノを弾いている。そのスタンドピアノの上には幻灯機が置いてある。そこから白黒で流れる映像、もちろん無声、音は二人のおじいさんが代わる代わるつけますから。
古い絵のようなシーンと雰囲気、そしてピアノの音、あすこで飲むウィスキーは何を飲んでも極上でした。
ディープなニューヨーク・フィルのサブスクライバー、ニューヨーク・フィラーの毎晩は8時開演10時終演。メトロポリタンオペラのサブスクライバー、メッターの日は、だいたい同じく8時スタートだけれどもものによりカーテンが閉じるのが翌日とか。今はやわになって結構早めのスタートの日もあったりするようですけれど、やっぱりエンタメは夜中に限るということで幕が閉じればリンカンセンター近くのジンジャーマンかビルズゲイ、はたまた、ジャパニーズ・ピアノバーで2時まで過ごす。そんな感じ。やっぱり、コンサートの後はウィスキーを胃壁に垂らすのが最高ということです。
ビルズゲイの看板だったのかどうか忘れましたが、open until close!ですね
銀座のオールドムービーはそんな昔の記憶を呼び起こさせてくれるようなお店でした。今はこんなお店どこにもないだろうな。
CDを買ったその日にそのCDを聴きますか?答えは、「ありえない」、ということで。
おわり