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2008年10月18日(土)3:00pm
NHKホール
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スメタナ/交響詩「ハーコン・ヤール」
ショスタコーヴィッチ/チェロ協奏曲第1番
(アンコール)バッハ/サラバンド
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メンデルスゾーン/交響曲第3番「スコットランド」
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チェロ、エンリコ・ディンド
ジャナンドレア・ノセダ指揮
NHK交響楽団
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スコティッシュにおけるウィンドの響きを聴くとやはりこのオーケストラは世界レベルに比する美しさとアンサンブルを持った楽器であると感ずる。(ウィンドは)
第2楽章のクラリネットのあとに同じ音形で続くホルンの強奏が、うるさいティンパニでかき消されてしまうのは非常に問題であるが、この総じて耳障りなティンパニを除けばほぼ完璧。
約一か月前のN響定期でもそうであったが、ステージ部分を通常のオケピットのあたりまで前に出しており、オーケストラが全体に前面に押し出されている。最近このようにしたのかどうか知らないが、音が前に出てきており粗悪なホールながら以前より響きは良くなった。
響きは良くなったのだが、どうもティンパニが強すぎる。奏者の問題かホールの響きのせいなのか。奏者の問題ならば指揮者がコントロールするはずだし、オンステージと聴衆席の感覚が異なるのかもしれない。
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長身のノセダは以前のような激しい棒は少しおさまったようにみえるが、音楽に向かう真摯な姿は相変わらず好感が持てる。
ノセダはオペラ、劇場の人だと思われるが、随所にそのような箇所が見受けられる。棒は機械的なものではなく、たとえばオーケストラの呼吸に合わせて少し余裕をもたせたり、1.5回、2度振りみたいなところもある。一見するとオーケストラに振られているように見えたりするが、音楽の呼吸、流れを大事にしているのであり、またそのような振りができるということ自体、オペラの経験の豊かさを感じさせずにはおかない。
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メンデルスゾーンの入りであるが、ウィンドが束になって美しいハーモニーを奏で、響きを堪能できる部分。そしてすぐさまヴァイオリンによる一筆書きの泣き節、これまたこれ以上ない美しさを感じる。メンデルスゾーンのリッチなトーン。
N響の実力がこれ以上明確な形で現れる音楽もめったにない。実に美しいハーモニーとなった。メンデルスゾーン全開だ。
ウィンドのアインザッツがいま一つ明確性を欠く部分があったが、この曲はこのようにボワーンと響くほうがかえっていいような気もする。あまり気にせずに聴こう。几帳面なヴァイオリンの響きがまわりの楽器をそのように聴こえさせていたのかもしれない。
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ノセダのメンデルスゾーンはかなり筋肉質。というのも、始終活躍するヴァイオリンが几帳面であるため、線が細いというよりも鍛えられた芯の強さを感じるし、またフレーズの切り上げもさっとしたものであまり尾を引かない。そのような感じが全般にあり、線はそんなに太くないものの鋼(はがね)のような音のつくりが面白い。また、オタマジャクシ一つ一つに味があり、聴くほうも噛みしめながら聴く。
音楽の造形はなんだか大規模なものとなり、第4楽章がいったん途切れた後の峻烈なコーダの響きはさらに引き締まったものとなり、結果的に爽快といえる快演。
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ショスタコーヴィッチのコンチェルトのエンリコ・ディンドさん、全く知らない人ですが、弾き方は一見粗雑と思えるぐらいラフだったりする。この楽器に余裕があり過ぎるのかどうか、どのような音色が出ようと自信を失うことなく確信に満ちながら弾く。その姿勢は良しとしよう。
最初にも書いたがステージが前に押し出されているせいもあると思われ、音が前に出てくる。チェロの音もよく響く。ディンドの音自体かなりでかいと思うがその響きが明瞭に聴こえていい感じ。
また、アンコールでみせたサラバンドはピアニシモのピースながらなんだかとても響く。細かなニュアンスがよくわかり見事な出来栄え。
ただ、全体にやや作為的な部分かあるかもしれない。ディンドも例にもれず棒振りたがりの人物らしい。
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一曲目のスメタナのハーコン・ヤール。もちろん初めて聴く。CDでもたぶん聴いたことがない。ある程度の音楽になると音符をかみしめて聴けばそれなりに味が出てくるものだ。特にこのような曲の場合、指揮者がどれだけ曲に共感、同化しているかといったあたりがとても大事になるわけで、ノセダの信念の棒は期待を裏切らない。曲自体はかなりなところもあるが最後まで丹念に聴かせてくれた。
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この日はCプロ二日目である。土曜日の3時。
3、4年前に曜日、開始時刻の変更があったわけだが、それ以前にあった土曜日2時開始にもまして変なスタート時刻である。
客に若者はいない。おじいさんおばあさんの世界。躊躇なく言えば老人ホーム。
それねらいの時間設定と言ってしまえばそれまでか。
この曜日のこの時間、若者にはクラシック音楽以上に楽しいことがたくさんあるに決まっている。
おわり
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