1990年のゴールデンウィークをねらってバンベルク交響楽団が来日した。
今なら、熱狂の日ラ・フォル・ジュルネ音楽祭、に組み込まれてしまいそうであるが、どっちにしろ、ゴールデンウィークにどこかに遊びに行ってしまうか、ひたすら演奏会に埋没するか、決断をさせてくれるにはちょうどいい日程の演奏会だったわけだ。
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1990年バンベルク交響楽団の来日公演は4月28日(土)から5月11日(金)まで12回行われた。全部ブラームスである。ブラームス・チクルス。ブラームス・サイクル。
さわやかな5月の緑の風の中、建物にとじこもりじっくりと聴くブラームスも格別だ。4月28日(土)初日から4日間連続でサントリーホールに通えばブラームスの交響曲と協奏曲をまるごと聴くことができる。その通りにした。
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バンベルク交響楽団といえば、1982年に来日の折、カウンターチェアのような半掛けの指揮者用椅子に座りながら立ちながら振ったヨッフムのブルックナー8番が忘れ難い。
しかし、この戦後作られたオケに縁どりを与えていったのは、やはりカイルベルト、シュタイン、あたりのワーグナーこてこて系の人たちだ。
このオーケストラの音色のイメージは一言で言うと、茶色、です。
いつでもすぐに温まることができるオーバーコート。
チェック模様が少し大きめで、多少のほころびは気にしない、みたいな。
バンベルクの音は透明感というよりも力強く弾き、吹くのでなにか厚ぼったい感じがする。
ピッチより骨太な音楽の流れを重視。一度始めたら一気に流れていく感じ。ワーグナーの実演のようなところがある。始まったら最後まで流れる音楽の波。
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それで初日はこんな感じ。
1990年4月28日(土)7:00pm
サントリーホール
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ブラームス/ピアノ協奏曲第1番
ブラームス/交響曲第1番
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ピアノ、エリザベート・レオンスカヤ
ホルスト・シュタイン指揮
バンベルク交響楽団
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いやいや、たまらんです。
ゴールデンウィークの外は五月晴れ、中は秋の夜長。
それこそ第1番の交響曲に負けず劣らず超本格的な第1番の協奏曲。
一度この曲のスコアを見ながら聴いてみてください。交響曲みたい。
ピアノがなかったら3楽章形式の本格交響曲と思ってしまいそうな大規模なもの。
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バンベルクの音というのは重心が低く本格的なものであるが、ときとして大きな川のような流れを作る時がある。
音楽の流れに身をまかせたいと思うことが人間、たまにあるが、バンベルクのはちょっと違っていて、たとえば、ベートーベンのエグモント序曲のコーダで、ブラスセクションがまわりの弦楽器の中をかき分け出てくるような、なんともいえないカタルシスをうまく表現出来ている。昔の音楽表現を思い起こさせてくれるといってもよいかもしれない。
このような協奏曲はこのようなオーケストラの音で聴かなければならない。
レオンスカヤは男顔負けの骨太のサウンドで場を切り盛りする。と言った感じでチャイコフスキーの料理法とは異なるが、決してオケに埋もれることはなく、オケが空白になったときのニュアンスをよく聴けば、微妙なニュアンス表現が日常的に聴くことができるのを、聴く側が怠っているということが自覚できるような素晴らしい演奏だ。このような演奏はもっと耳を傾けて聴かなければならないのだろう。
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交響曲第1番のほうは、自然なカタルシスがもっと素晴らしく、音楽を楽譜通りにやっているのに何故、音楽が熱く燃えてくるのか。
第4楽章の身構えは唐突な時もある曲だが、このバンベルクのように自然であれば、第1,2,3楽章あっての4楽章の熱だということを明確に感じとることができる。つまり音楽の流れがドラマになっている。
言葉では言い表しにくいが、弦が光輝くとか、そんなことではなく、こまかな一人一人の揺れ動く体の演奏が同一楽器のアンサンブルとなり、さらに揺れ動き他の楽器とのセクションアンサンブルに発展していき、気がついたらオーケストラ全体がとめようもない一つの大きな流れを作っていた。
このような作り方もあるのだ。
それにしても明日の昭和天皇誕生日を前にして、なにか暗く重くのしかかられてしまったようなこころもち。第1番のコーダでそのときは弁が全開したような気がしたが、終わってみるとまた明日もあるかといったところか。
おわり
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