じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

赤井三尋「翳りゆく夏」

2021-02-28 20:28:44 | Weblog
★ 赤井三尋さんの「翳りゆく夏」(講談社文庫)を読んだ。

★ ある病院から新生児が誘拐された。犯人は子どもの親ではなく、病院長に身代金を要求する。黒澤明監督の「天国と地獄」のように。そして身代金は用意されたのだが・・・。

★ 結局、新生児は発見されないまま20年が経過。そして、犯人とされた男の娘が大新聞に採用されることとなり、事件は再び動き出す。優れた記者でありながら、ある不祥事のため、今は資料室で時間をつぶす梶記者。彼に社長直々の特命が下る。20年前の事件を洗い直せと。

★ やがて、事件は思わぬ真実にたどり着く。

★ 前半は、誘拐犯と警察との息をのむような駆け引き。後半は、真相を追う梶記者と当時の捜査担当者、ジャーナリストを志しながら世間の中傷で進路を迷う娘。そして、かつては梶記者の先輩で同じく誘拐事件を追っていた武藤(今では人事を担当する重役)が絡んでいく。

★ さまざまな要素が満載で、面白い作品だった。
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菅原潤「京都学派」

2021-02-27 23:35:50 | Weblog
★ 今年の京都大学、文系国語の2次試験は、西谷啓治「忘れ得ぬ言葉」から出題されていた。解く気はなかったが、読み始めるとなかなか面白かったので読み進めてしまった。

★ 著者が京都大学生時代の思い出を記したエッセイ。著者は熱を出し、腸チフスを疑われたが、そのとき面倒を見てくれた友人の言葉を「忘れ得ぬ言葉」として紹介していた。

★ ところで、「西谷啓治って誰」と思って調べてみると、西田哲学の後継者で「京大四天王」と呼ばれた人々の一人であることを知った。西田幾多郎から田辺元そして、西谷啓治、高坂正顕、高山岩男、鈴木成高と受け継がれた学派。それは「京都学派」と呼ばれる。

★ 京都に住んでいてもアカデミズムの世界は遠い。それも戦前の話となると尚更だ。そこで、菅原潤さんの「京都学派」(講談社現代新書)を読んだ。

★ 独創的な考察で世界的にも評価される西田哲学。その概略を説明しながら、西田の学説がどのように批判されながら受け継がれていったのか、特に西田の弟子を中心とした「京都学派」というグループを中心に解説されていた。

★ 先日読んだ小説の三木清も西田の弟子だが、本書によると、先輩教官の田辺元と感情的な対立があり、京都大学で職を得られなかったという。時代を背景に、「京都学派」にも左右そして中間と派閥めいたものがあったようだ。

★ 難しい哲学の解説はよくわからなかったが、当時の人間模様の一端を知ることができた。普遍性を追究すべき学者でも時勢には逆らえないのか、戦中の好戦的な発言が問題となり、「京大四天王」は戦後公職追放となる。

★ 左派の学者と思っていた三木清が、やがて首相となる近衛のブレインとして「東亜共同体」構想を掲げていたというのは、知ってはいたが驚きだった。三木の本音は知らないが、この構想は「大東亜共栄圏」へと発展し、日中戦争を正当化する方便となる。

★ 西谷はやがて追放が解除され京都大学に復職したという。この時期、なぜ西谷の文章が出題されたのか。そんなことを深読みしてしまう。

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コナン・ドイル「赤髪組合」

2021-02-25 01:06:42 | Weblog
★ 数日前の「天声人語」、コナン・ドイルの「赤毛組合」が引用されていたので、「シャーロック・ホームズの冒険」(新潮文庫)から「赤髪組合」(延原謙訳)を読んだ。

★ ワトソンがシャーロック・ホームズを訪ねると、ちょうど赤髪の中年男が来ていた。遠慮して立ち去ろうとするワトソン。しかし、シャロック・ホームズはそれを止め、赤髪男の不思議な事件に引き入れる。

★ 赤髪の男は事件について語る。ちっぽけな質屋を営むこの男、新聞で「赤髪組合」の求人広告を見たという。ごく簡単な仕事で、ちょっとした収入が得られるというもの。怪しげな話だが、収入の魅力には勝てず、男は面接会場へ。うまい話に乗せられて、既に多くの人々が集まっていたが、なぜか、この赤髪の男が採用されてしまう。

★ 簡単な仕事とは、大英百科辞典を書写するというもの。男はまじめに働き、週単位で約束の収入を手にする。しかし、ある日、いつものように男が作業場へ行くと「赤髪組合は解散しました」の貼り紙が。わけがわからず、男は評判のシャーロック・ホームズを訪ねたという。

★ 「赤髪組合」の目的は何か。読者はシャーロック・ホームズたちと共に謎解きに参加する。1891年発表の作品だということに驚く。短くて、トリックもシンプルだが、100年以上たっても面白い。

★ さて、「天声人語」がこの作品を引用したのは、例の「知事解職請求署名」疑惑について。呼びかけた人々は知らぬ存ぜぬだが、誰かが署名を書写(偽造)したのは間違いなさそうだ。シャーロック・ホームズならこの謎をどう解くやら。  
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柳広司「矜持」

2021-02-23 19:39:13 | Weblog
★ 私は学生時代、三木清の著作を読んで感動した。中でも「人生論ノート」(新潮文庫)の附録として掲載された「個性について」という原稿は、当時「生きるとは何か」を考究していた私に大きな刺激を与えた。有島武郎の「惜しみなく愛は奪う」(新潮文庫)、倉田百三の「愛と認識との出発」(角川文庫)と並び、私の座右の書となっている。これらの書を通して、私は「生きるとは創造であり、創造とは自己実現である」という仮説を立てることができた。

★ 「個性を理解しようと欲する者は無限のこころを知らねばならぬ。無限のこころを知ろうと思う者は愛のこころを知らなければならない。愛とは創造であり、創造とは対象において自己を見出すことである。愛する者は自己において自己を否定して対象において自己を生かすのである」(前掲「人生論ノート」146頁)

★ 三木自身は後記で、大学卒業の直前に書いた「幼稚な小論」と自ら評価しているが、彼をして思い出として収録せざるをえなかった原点なのであろう。

★ ということで、三木清は私にとって特別な想いのある人物だ。その気持ちをもちながら、柳広司さんの「アンブレイカブル」(角川書店)から「矜持」を読んだ。

★ 特高警察を管轄する内務官僚クロサキ。彼は三木清と同郷の出身で、常に三木を意識しながらキャリアを積んできたという。一方は稀代の天才と評され、京都帝国大学で西田哲学の継承者と目されながら、同業の人々の嫉妬ゆえか大学を追われた者。一方は彼のうしろ姿を見ながら東京帝国大学を出て内務省のキャリア官僚となった者。

★ どこで道が分かれたか、取り締まる方と取り締まられる方。この二人が対面する終盤の取り調べ風景の迫力がすごい。

★ 歴史という大河の前で人間は無力なのか。しかし、その無力な人間が歴史を築いている。

★ いつになく感情的になったクロサキ、戦時体制や特高警察の在り方に危機感を持ち始めている。しかし、動き出した組織はもう止まらない。考えることを忘れた官僚機構は、無意味なノルマや組織防衛のために肥大化の一途をたどる。行き着くところまで。

★ 戦後、価値観は大きく転換したというが、官僚機構は過去から何を学んだのだろうか。隠蔽、忖度、密室、組織防衛、無責任。何も変わっていないんじゃないか。密告、嫉妬、集団的圧力、やっかみ。人や社会も過去の痛みを忘れつつあるようだ。
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瀬戸内寂聴「わが晩年」

2021-02-22 19:01:59 | Weblog
★ 京都新聞のコラム「天眼」で瀬戸内寂聴さんの「わが晩年」(2021年2月21日付)を読んだ。奥嵯峨の春の訪れを紹介しながら、移ろいゆく時の流れを回想されていた。

★ 少し前までの観光ブームが嘘のように、ひっそり静まった嵯峨野。「源氏観光ブーム」で、にわか土産物屋に変装した家屋も、いつしか店を閉め、昔の格子戸が目につくようになったという。

★ コロナ禍で寂庵詣り(まいり)に訪れる人もなく、禅僧の托鉢の声も聞こえず、沈黙の中に「忘れていたうごいすの声など」が聞こえるようになったそうだ。

★ ひと気のない庵の奥でひっそり暮らす老尼の自分、自ら過去に書いた小説の設定を思い浮かべて、ひとり笑い。「この上ないおだやかで有り難いわが晩年である」と結ばれていた。

★ 瀬戸内さんの作品は読む機会がなかったが(どうも業が深そうで)、コラムから感じる雅にして端麗な文体は、紫式部や菅原孝標女を思い起こさせる。

★ ローカル紙の話題ながら、今朝の京都新聞「灯」というコラム。甲賀支局、立川真悟記者の「Go To 病院」も面白かった。齢50にして経験した尿路結石。その体験を綴っているのだが、最近はお尻の方も。「前の虎、後門の狼」を「前の石、肛門の・・・」となぞらえるところでは笑った。診療所で渡されたパンフレットには「人はみな痔主」と書かれてあったとか。

★ 寂聴さんの花鳥風月とは対照的ながら、これはこれで良かった。
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柳広司「アンブレイカブル」から

2021-02-21 15:37:30 | Weblog
★ 柳広司さんの「アンブレイカブル」(角川書店)から「雲雀」を読んだ。面白かった。

★ 柳さんと言えば戦前の日本のスパイ組織を扱った「ジョーカー・ゲーム」が有名だ。昔懐かしい市川雷蔵さん主演の映画「陸軍中野学校」を思い浮かべながら読んだものだ。

★ その柳さんが今回描いたのは、戦前官憲により検挙され、時には拷問死させられ、時には獄死させられた小林多喜二、三木清など4人の物語だ。「雲雀」は小林多喜二の話。官憲に文字通り痛めつけられる労働者や資本主義の矛盾を暴露したプロレタリア文学者。彼を快く思わない内務省の役人が彼を陥れようと罠を仕組んだ。

★ 「もはやこれまで」と思った場面でのどんでん返しには、思わず噴き出した。

★ 文学史の勉強で、小林多喜二と言えば「蟹工船」、プロレタリア文学者としか学ばない。私は彼が銀行員だったことを初めて知った。

★ この作品を読んで「蟹工船」や小林の他の作品を読んでみたくなった。書棚に「蟹工船・党生活者」はあるのだが、昔の発行なので字が小さくて難儀だ。改めて買おうかそれとも「青空文庫」で読もうか。アマゾンのキンドルでも読めるようだ。
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鷲田清一「<個> 自由の隘路」

2021-02-19 20:35:36 | Weblog
★ 京都府公立高校前期試験、鷲田清一さんの「<ひと>の現象学」(ちくま学芸文庫)から、「<個> 自由の隘路」の一部が国語科で採用されていたので読んだ。

★ 学術論文ではないとはいえ、哲学者の文章は難しい。しかし、私たちが日常ごく普通に使っている「自由」という言葉が実に曖昧なものであることが分かった。そしてその原因が、明治初期、freedomやlibertyという語が輸入されたとき、日本の知識人たちの悪戦苦闘にあるということが分かった。

★ 鷲田氏は「自由」という語には、外圧からの抵抗の「合い言葉」として使われる「自由」と「わがまま」「放埓」、勝手気ままという意味で使われる「自由」があるという。

★ このあたり鷲田氏は柳父章さんの「翻訳語成立事情」(岩波新書)を紹介されていたので、同書の第9章「自由」のところを読んでみた。

★ そもそも漢籍や日本語の中に「自由」という語があり、それはあまり良い意味で使われなかったという。明治期の知識人たち、西周や福沢諭吉などもあえて「自由」という語を避け、「自主」とか「自在」「寛弘」などという訳語を使っていたという。それが明治4年、中村正直が「自由之理」を著した辺りから「自由」と言う語が訳語として定着してきたという。曖昧な意味を残したままに。

★ グローバル化が進み、「証拠」と言えば良いところを「エビデンス」という時代になった。しかし、果たして原語の本来の意味や感覚(ニュアンス)を私たちは理解しているのだろうか。わかったような気になっているだけかも知れない。そんなことを考えさせられた。 
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ドラマ「神のクイズ」

2021-02-18 20:52:37 | Weblog
★ FOD(フジテレビオンデマンド)で「監察医 朝顔」を楽しく観ている。犯罪サスペンス、医療サスペンスであるとともにホームドラマ的要素満載で、毎回ウルウルしてしまう。

★ 同じく監察医(解剖医)が活躍する韓国ドラマ「神のクイズ」(2010年~)も面白い。第1シーズン(全10話)を観終わった。

★ 解剖によって犯罪の真相を追求するところは「監察医 朝顔」と似ている。ただ、ホームドラマ的要素は少なく、解剖所見から希少な疾患を探っていくところは「ドクター・ハウス」のようだ。犯罪捜査のスリリングさは「クリミナル・マインド」、第9話、10話のあたりは「メンタリスト」的な要素も感じる。

★ 第2シーズンへと進めていきたい。

★ ところで「鬼滅の刃」の第2シーズンが年内に始まるようだ。再びブームを起こせるか。最近のアニメでは「はたらく細胞BLACK」と「怪物(けもの)事変」が面白い。

★ 「はたらく細胞BLACK」は前作をやや大人向けにしたような感じ。喫煙やカフェイン、性病なども取り上げられている。酸素を運び続ける「赤血球さん」、外敵から体を守る「白血球さん」「マクロファージ」「キラー細胞」、出血を修復する「血小板ちゃんたち」。このアニメを見ると「体を労わらなくては」とあらためて思う。

★ 「怪物(けもの)事変」は、人間と妖怪との間に生まれた半妖のキャラクターが活躍する作品。「呪術廻戦」「約束のネバーランド」と並び、「鬼滅の刃」に続くかも。
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三浦哲郎「とんかつ」

2021-02-15 18:35:57 | Weblog
★ 京都府の私立高校の合格発表がピークを迎えている。ラインで、電話で、来訪で、「先生、合格しました!」の喜びの声が届く。塾稼業をしていて、この瞬間が最高の至福の時だ。この一言のために、生徒と共に頑張ってきた。

★ さて、明日は京都府の公立高校前期入試、そして3月8日は受験者が最も多い中期入試だ。あとひと月弱。もうひと頑張りだ。

★ ということで、晩御飯は「かつ丼」を食べ、三浦哲郎さんの「短篇集モザイクⅠ」から「とんかつ」を読んだ。

★ 「とんかつ」は高校国語の教科書にも採用されたという。北陸の裏通りにひっそり佇む和風の宿に母親と中学を出たばかりの男の子が宿泊する。聞き慣れない方言、何か陰気な雰囲気。宿の者たちは「もしや」と陰口をたたく。近くには自殺の名所が・・・。

★ 翌朝、軽装で出かける母子。しばらくして、帰ってきた息子を見て宿の人は驚く。すっかり頭を刈っていた。事情を聴くと、父親の住職が交通事故で亡くなり、息子があとを継ぐために近隣の名刹に修行に入るのだという。

★ 母子水入らずの(ある意味)最後の晩餐。母親は息子の好物である「とんかつ」を夕食に注文する。宿の女将の心遣いでじっくり揚がった分厚いとんかつ。実にうまそうだ。

★ そして1年。息子がけがをしたというので、母親が再び見舞いに訪れるのだが。

★ 「かつ丼」と言えば、吉本ばななさんの「キッチン2 満月」で描かれているのもうまそうだ。

★ 何はともあれ、受験生、ガンバレ!
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相場英雄「震える牛」

2021-02-14 15:37:56 | Weblog
★ 相場英雄さんの「震える牛」(小学館文庫)を読んだ。

★ 田川信一警部補、殺人の時効が撤廃になり、捜査一課につくられた「継続捜査班」に所属する。班員はわずか6名。迷宮入り濃厚な未解決事件を再捜査している。

★ 田川が今回捜査するのは、2年前に起こった強盗殺人事件。居酒屋で2人が殺されたのだが、犯人の手口がどうも不自然だ。殺された2人も接点がなさそうだし。しかし、地道な捜査を重ねるうちに、食品偽装、精肉卸売業者と大手スーパーとの癒着、そして「震える牛(BSE疑惑)」が明らかになっていく。

★ 強殺事件の犯人は誰か。動機は何か。

★ 大手スーパーやチェーン店が増える一方で、地元の個人商店が閉まっていく。個性のない商店街が増える中で、食の安全とは何かを考えさせられる。

★ 肉の行商から成長した大手スーパー。巨大化するに伴って、経営者は何かを失っていく。数字ばかりを追い求めるようになるのは、仕方のないことなのだろうか。

★ 終盤はドラマよりも迫力があるように感じた。
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