じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

宇佐美りん「推し、燃ゆ」

2021-01-31 13:59:37 | Weblog
★ 芥川賞受賞、本屋大賞ノミネートと今話題の新人作家、宇佐美りんさんの「推し、燃ゆ」(河出書房新社)を読んだ。

★ 昨夜一度読んだが、疲れた頭では主人公のペースにはついていけず、迷った挙句、今朝もう一度チャレンジした。

★ 「推しが燃えた。」で主人公の語りは始まる。文豪やベストセラー作家やご贔屓な作家は別にして、小説は出だしが勝負だと思う。この出だしは、なかなかゾクゾクさせる。

★ 「推し」とは平たく言えばご贔屓のアイドルだ。アイドルは、もちろん「仕事のない、何もしない、遊んでいる」(旺文社英和中辞典)のidleではななく、「偶像、神像、崇拝される人」(同前)を表すidolだ。

★ 出だしは快調だったが、「推し」との出会い、ピーターパンが出てきたあたりで、早くも作者のペースから少々遅れ気味になった。そこは何とか乗り越え、主人公の高校生活、バイト、家族関係などを知る。

★ 主人公はどうも身の回りの片付けができない性分らしい。発達障害の傾向があるのかも知れない。そんな自分を何となく理解しながら、「推し」にその活路を見出しているようにも感じた。そのことは家族をはじめ周りの人々には理解されないが。

★ 「推し」のCDを棚に飾る(彼女は「祭壇」と言う)あたり、「推し」のサイン入り写真を「教会の十字架か、お寺のご本尊」のように飾るあたり、彼女の「推し」崇拝はもはや宗教である。「推し」と同期(帰依)することによってのみ彼女は自らのアイデンティティを保っているのかも知れない。

★ そして、SNSの存在である。彼女は「推し」仲間や、もしかすると崇拝する「推し」が読んでくれることを想定して、投稿を続ける。現実の彼女が「ケ」とするなら、SNS上の彼女は「ハレ」の舞台だ。

★ ある事件で、「推し」のグループは解散し、「推し」が芸能界を引退するという、「神」の人間宣言を彼女は受け入れることができるのか、「推し」ロスを彼女はどう乗り越えていくのか、興味あることろだ。

★ 21歳の新人作家。前作「かか」の超言語的なデビューほどの衝撃はないが、より深いところに踏み込んでいくような期待を感じた。
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金城一紀「花」

2021-01-30 19:07:19 | Weblog
★ 金城一紀さんの「対話篇」(新潮文庫)から「花」を読んだ。

★ ある朝、若い銀行マンが通勤途中に意識を失う。検査の結果、脳に先天性の動脈瘤が見つかり、医師からは手術を勧められる。ただ、記憶を失うかも知れないという。

★ 突然の宣告で、日常のレールから滑り落ちた主人公。会社も退職し自堕落な日々を過ごすことに。そんな時、大学時代のゼミの先輩がアルバイトを紹介してくれる。ある初老の弁護士が車で鹿児島まで行くので、同乗して欲しいとのこと。

★ よくわからない依頼だったが、彼は引き受けた。東京から鹿児島まで、親子ほども年の離れた男二人の旅が始まる。

★ 旅の中で、弁護士はこれまでの人生を語り、なぜ鹿児島に(それも高速を使わずに)行くのかを語る。主人公もまた脳に爆弾を抱えている境遇を語る。共に、自分探しの旅のようだ。

★ どんな苦境にあっても、必ず道は開ける。「大丈夫」という言葉がありがたい。
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角田光代「かなたの子」

2021-01-29 16:17:01 | Weblog
★ 京都の私立高校受験まであと12日。生徒以上に緊張する季節だ。コロナ禍のストレスかそれとも過労からか、体調はイマイチすぐれないが、そんなことは言っていいられない。

★ 多忙な中でも、金曜日は少しゆとりがある。ドラマ「珈琲屋の人々」(2014年)、ドラマ「ハードナッツ!」(2013年)を観始めた。どちらもなかなか面白い。

★ 「珈琲屋の人々」は池永陽さん原作で、下町の商店街で、親の跡を継ぎ珈琲屋を営むちょっと訳ありな店長がカッコいい(演じるのは高橋克典さん)。「ハードナッツ!」は橋本愛さんが演じる数学の天才学生が事件を解決するというもの。脚本は「TRICK」などを手掛けた蒔田光治さんたち。「の・だめ」の上野樹里さんや、「TRICK」の仲間由紀恵さん、「SPEC」の戸田恵梨香さん同様、橋本さんの独特の雰囲気がいい。

★ さて、角田光代さんの「かなたの子」(文春文庫)から表題作を読んだ。角田作品はどうも敬遠しがちだが、この作品には心を動かされた。

★ いつの時代かは定かではない。風景的には地方のそれもだいぶ田舎の方。文江という女性は子を身ごもるが、死産だったようだ。この地方では「生まれるより先に死んでしまった子」には、名前をつけてはいけない、供養してもいけないという習わしがあった(生まれなかった子は次の子として生まれるという)。しかし、8か月間体内に宿した生命、何もなかったかのようにするのに抵抗を感じた文江は、義母や夫には内緒でその子を「如月」と名付ける。

★ 数年後、次の子を宿した文江は「如月」の夢を見る。「如月」が「甘い臭いの声」で今は「くけど」というところにいると言う。行商の女性によると実際にある地名らしい。彼女は意を決して、「如月」に会いに行く。

★ 民俗伝承をもとにしたような話で、解説ではラフカディオ・ハーンの「子供たちの死霊の岩屋で」が紹介されていた。

★ 青い海をたたえる洞門。それは生と死の境界を表すかのようだった。

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安東能明「撃てない警官」

2021-01-28 20:13:59 | Weblog
★ 安藤能明さんの「撃てない警官」(新潮文庫)から、表題作と「随監」を読んだ。

★ 警察小説といえば、刑法犯を追う刑事課やテロ組織などを追う公安警察を舞台にしたものが多いように思うが、この作品の主人公は現行犯逮捕を経験したこともない管理部門の警部だ。

★ 警視庁総務部企画課企画係の柴崎令司警部に上司から電話がかかってくる。精神的に不安定だった部下が回復してきたので拳銃の射撃訓練をさせてやって欲しいとのこと。上司の指示なので、柴崎も許可のハンコを押す。ところが、その部下が訓練場で拳銃自殺をしてしまう。

★ 悲惨な現場を見て動転する柴崎。その上、上司の課長は電話などかけていないというのだ。結局、責任を押し付けられて、柴崎は左遷されてしまうのだが、彼はどうも納得がいかず、真相を追い求める。

★ 「随監」は左遷先の所轄での話。方面本部の随時監察が入り、放置された被害届の存在が明らかになる。その被害届をめぐる人間模様が描かれていた。

★ 警察組織というのは、一般人にはなかなかわかりづらい。犯罪組織同様に「隠語(業界用語)」も多い。そうした実態をこの作品は教えてくれる。

★ ドラマ化(2016年)もされていたので観た。主人公の警部役は田辺誠一さんが演じられていた。
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柳美里「JR上野駅公園口」

2021-01-24 16:30:45 | Weblog
★ 新型コロナの影響で、京都・大谷高校で予定されていた英検が急遽中止になった。このニュースに引き続き、他の会場でも中止が相次いだ。試験前日(あるいは当日)の中止に、受験予定者はさぞ戸惑ったことだろう。それに英検協会の混乱ぶりは想像して余りある。

★ あれだけビシッとしたマニュアルを用意している英検でも緊急事態にはどうしようもなかったようだ。もっと早く対応できなかったものか、それは反省材料だろう。今後の本会場での試験実施はより困難になるかも知れない。他の検定試験のように端末を使ったものになっていくかも知れない。

★ さて、柳美里さんの「JR上野駅公園口」(河出文庫)を読んだ。あるホームレスの語りで進む。東北地方から東京に出稼ぎに来て、日本の高度経済成長とともに生きてきた男性。田舎に妻子を残し、出稼ぎで稼いだお金で彼らを養った。40余年の歳月。その甲斐あってか娘は高校を卒業して嫁ぎ、息子は高校を卒業後、上京して放射線技師の試験に合格した。

★ しかし、その息子は21歳で突然死。妻もやがて先立っていった。一時田舎に帰っていた男性だったが、娘家族の世話になるのを気兼ねして再び東京へ。ホームレスの生活に戻る。

★ 前半は、息子の不慮の死と葬儀の様子が詳しく描かれている。少し前のまだコミュニティが残っている地方の風景が印象的だった。

★ 男性は、家族との関係もなくなり、日雇いの報酬でその日暮らしの生活。自分の身元がわかるものと言えば、亡き妻と娘から贈られた腕時計だけ。やがて身元不明者として葬られることを予感している。

★ 「死が、自分が死ぬことが怖いのではない。いつ終わるかわからない人生を生きていることが怖かった」(122頁)私も歳を重ねて、この諦観がわかるような気がする。

★ 本書はアメリカで著名な賞を受賞したという。ところどころに出てくる方言がどのように英訳されたのか興味深い。

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森絵都「カラフル」

2021-01-23 14:49:09 | Weblog
★ 森絵都さんの「カラフル」(文春文庫)を読んだ。

★ 死んだはずの「ぼく」が、抽選に当たったとかで、再び下界で期間限定のホームステイをすることになった。課題は自らが下界で犯した過ちを自覚し、下界での修行を積むこと。

★ 「ぼく」は口の悪い天使・プラプラにガイドされ下界へ。自ら命を断とうとして昏睡状態の「真」という中学3年生の肉体に入り、彼の家でホームステイすることになる。

★ 「真」は父、母、兄との4人家族。誰もが秘密を抱えているようだ。クラスメイト達もよそよそしい。「真」の存在など無視するかのようだ。「真」が命を断とうとしたのも無理はないと「ぼく」は思った。だが、次々と真相が明らかになり、友達もできて、「ぼく」は単色にしか見えなかったこの世界が実はカラフルだったことを知る。

★ 再生の物語だった。この世は世知辛く、心無い言動や時には暴力で傷つけられることもある。衝動的に死を思うこともあるだろう。しかし、周りを注意深く見渡せば、自分をどこかで見ている人がいる。自分のことを大切に思ってくれている人がいる。それに気づくことができれば、小さな希望が灯となって、暗い道を照らすことになるかも知れない。そんなことを感じた。

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柚月裕子「慈雨」

2021-01-22 18:17:41 | Weblog
★ 柚月裕子さんの「慈雨」(集英社文庫)を読んだ。この作品でユニークなのは、夫婦でお遍路の旅に出ている元刑事が事件解決のカギを握っているところだ。

★ 栃木県で起こった幼女殺人遺棄事件。それは16年前の同様な事件を思い起こさせるものだった。過去の事件はDNAが決め手になり犯人は捕まり、そして服役している。しかし当時、現場の刑事はその捜査に疑問をもった。再捜査を願い出るが、「上」の方針は既に刑が確定した事件を蒸し返すと、警察、検察の威信が崩れるというもの(特にDNA鑑定の)。現場刑事が「上」に逆らえるはずもなく、彼らは冤罪の疑いに心を痛めつつ職務を全うした。

★ それから16年。もしや過去の事件が冤罪なら、真犯人が再び犯行に及んだのか。しかし16年間のブランクは何か。

★ 刑事たちは2つの事件を追うことになる。

★ 事件が起こり、刑事なり探偵なりが真相を追い、やがて犯人が捕まりめでたしめでたしというのは定番だ。このマンネリの構図をいかに読ませるか、そこが作家の腕の見せ所だ。

★ 作家の好き嫌いはストーリと共に文体が大きく作用する。私は柚月さんの文体が好きだ。楽しんで読めた。


☆ 余談ながら、アメリカの大統領就任式は感動的だった。演出力はさすがだね。最大の貢献はトランプ氏か。トランプ氏らしい終わり方で、バイデン大統領就任の最高の前座を務めた。スピーチも世界最高のスピーチライターを擁しているのか、感動的なものだった。菅さんももっと優れたスピーチライターを雇えばよいのに。良い原稿があっても菅さんタイプには無理かな。演技力に欠ける。それはそれで魅力なのだろうが。

☆ 「二階傀儡政権」とか「安倍に菅あり、菅に菅なし」(何か「永田の前に永田なく、永田の後に永田なし」のようだ)とメディアも手厳しい。オリンピックも危ういし、総選挙に敗れ、菅退陣てところか。なぜか元気なのは河野大臣だったりして。

☆ 身近では高校生にコロナ感染が広がっている。クラブ活動が要因らしい。文科省は活動を2時間に制限しているが、現状を聞くと、準備や後片付けを入れると3時間以上になるという。そこまでしてクラブ活動に力を入れる意味があるのだろうか。
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ドラマ「闇の伴走者~編集長の条件」

2021-01-19 21:00:53 | Weblog
★ ドラマ「闇の伴走者~編集長の条件」(2018年)を観た。原作(新潮社)は長崎尚志さん。

★ 実力者だが変わり者で敵も多いマンガ雑誌の編集長・南部正春がビルから落下して死んだ。事故とも自殺とも殺人とも疑われたが、ちょうど大きな事件と重なったために、十分な捜査はされず転落死で処理された。

★ この真相を元警察官で今は調査会社の調査員(本人は嫌がるが「探偵さん」とも呼ばれている)水野優希(演・松下奈緒)とフリーのマンガ編集者、醍醐真司(演・古田新太)が追い求める物語。

★ 舞台がマンガ雑誌の出版社で、探偵がマンガ編集者というのが新しい。原作著者の長嶋さんは実際にマンガ雑誌の編集に携わっていた方ということで、内実が実に詳しい。マンガに対する蘊蓄にも富む。

★ 編集者というのは黒子で表には出ない存在だが、編集者の力量が雑誌の善し悪しを決めるというのがよく分かった。それに編集者の条件。編集者は何を求めて雑誌を編集すれば良いのか勉強になった。

★ 雑誌にも読者層や時代に応じて「色」(読者層がブルーカラーなのか、ホワイトカラーなのかなど)があったり、読者が雑誌をどう読むのか(継続購読者や気まぐれ購読者など)、とても参考になった(今さら私が編集者になることはないけれど。若い頃は編集に興味があった)。それに「起承転結」。それぞれのバラバラに作品が並んでいるようではあるが、全体を見ればちゃんと「起承転結」になっている。それが良い雑誌だという。なるほどなぁと思った。
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ドラマ「石の繭」

2021-01-18 02:11:34 | Weblog
★ 土曜日、日曜日は1日中、中学3年生の学年末テスト対策。学年末テストが終わるといよいよ高校入試だ。

★ 心配なのは、やはりコロナ感染の拡大。比較的少なかった高校生の感染が増えている。政府は今回の緊急事態宣言では学校の一斉休校はしないというが(休校にした場合の社会的混乱や入試を意識してのことであろうが)、高校、中学校、小学校と広がっていけば、そうも言ってられないかも知れない。

★ 2度目の緊急事態宣言は緊張感に欠ける。人々の「コロナ慣れ」が原因だろうが、政府・自治体の方針が休業要請ではなく時短要請に留まっていたり、学校が平常通りであることも要因であろう。これで、感染が落ち着いてくれれば良いのだが・・・。

★ ドラマ「石の繭」(2015年)を観た。原作は麻見和史さん。モルタルで固められた死体が発見される。天井にはポンペイ展のチケットが。捜査本部が立ちあげられ、そこに犯人を名乗る人物から電話がかかってくる。

★ 犯人は更なる犯行を予言。捜査一課十一係、とりわけ新人の如月塔子が活躍する。

★ 如月塔子役は木村文乃さん。事件を追うと、過去の誘拐事件が浮かび上がってきた。

★ さて、今週も頑張ろう。私立高校入試まであと25日。
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藤沢周平「時雨のあと」

2021-01-16 15:42:43 | Weblog
★ 今日から「共通テスト」。すったもんだの挙句、英語の民間テスト活用もなくなり、果たして「センター試験」と何が違うのやら。

★ 難問奇問批判の末、「共通一次テスト」が採用されたのが1979年。その後「大学入試センター試験」(1990年)となり30年。時代の流れに合わせて制度が変わるのは仕方がないが、果たして何のためのテストかな。

★ やがて「コロナ世代」と呼ばれるであろう人々、コロコロ変わる制度に翻弄され、改革初年が緊急事態宣言下の受験、大学に入ったら入ったで、当面はリモートだ。ご難続きだが、理不尽なのが人生だ。100年に1度の貴重な体験と前向きに捉えてもらえればなぁ。

★ さて、こんなご時世とは無縁のようだが、藤沢周平さんの「時雨のあと」(新潮文庫)から「雪明り」と「時雨のあと」を読んだ。どちらも兄妹愛の物語。

★ 「雪明り」は武士の話。武士といっても下級武士。少々裕福な他家の養子になった兄と極貧の実家で育った義理(継母の子)の妹。家格の違いから絶縁関係だった二人がある雪の日に再会する。妹はやがて嫁ぐが、姑にいじめられ、夫はマザコンで姑の言いなり。ついには身体を壊して寝たきりに。哀れな妹の姿に驚き、兄は妹を負ぶって家を出た。この辺りは、禰豆子を背負う炭治郎(鬼滅の刃)のようだ。兄妹とは言え白昼、他家の嫁を奪い去った二人の運命は。

★ 「時雨みち」は町人の物語。両親に先立たれ、親戚の家で育った兄と妹。兄はとび職で身を立てるがケガで働けなくなってからは博打にハマる。遂に、妹は身売りをする羽目に。その妹のところに、兄は凝りもせずカネの無心。そんな兄でも妹は見捨てない。果たして兄は改心できるのか。落語や講談の人情噺のようだった。
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