じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

市川沙央「ハンチバック」

2023-04-29 21:37:47 | Weblog

★ 市川沙央さんの「ハンチバック」(文學界2023年5月号)を読んだ。第128回文學界新人賞受賞作。

★ 遺伝性の筋肉疾患で人工呼吸器を装着している女性が主人公。背骨も曲がっているので、紙の本を読むことさえ苦労する。両親が残してくれた財産でグループホームを営み、自らもそこで生活している。ワンルームほどの空間が彼女の日常だ。

★ 冒頭のネット用語にちょっと戸惑ったが、面白い作品だった。吸痰や誤嚥性肺炎の描写などは体験者ならではというところか。今の時代らしい略語が随所に使われ、良いテンポだと思う。

★ 「死に向かって壊れるのではない。生きるために壊れる」。考えさせられるところだ。

★ 選評で中村文則さんが書かれているように終盤の部分とそれ以前とのつながりがわかりにくかった。終盤部分はそれはそれで面白いのだが。

 

★ さて、ゴールデンウィーク。読書の春といきましょう。今読みかけの本。葉真中顕さんの「ロスト・ケア」(光文社)は面白い。川越宗一さんの「熱源」(文春文庫)は、登場人物の名前になかなか親しめず、読書も遅れがち。宮部みゆきさんの「魔術はささやく」(新潮文庫)はおよそ半分読めた。薬丸岳さんの「神の子」(光文社文庫)は下巻の3分の1ほど。

★ 貫井徳郎さんの「乱反射」(朝日文庫)は、バタフライ・エフェクトのように小さな悪意や不道徳が積み重なって、という作品のようだ。東野圭吾さんの「夢幻花」(PHP文芸文庫)。花を育てることを老後の楽しみにしていた老人が殺されたところ。

★ 横山秀夫「ルパンの消息」(光文社文庫)。15年前の女性教員の自殺と「ルパン計画」の関係は。大江健三郎さんの「万延元年のフットボール」(講談社文庫)。難解な文章を読むマゾ的な快感に浸れる。時代小説も一つ、山本一力さんの「あかね空」(文春文庫)を読み始めよう。

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誉田哲也「ヒトリシズカ」

2023-04-28 16:02:36 | Weblog

★ 誉田哲也さんの「ヒトリシズカ」(双葉文庫)を読み終えた。随分と入り組んだ話だった。

★ 警察官の娘が家出した。仕事柄、公にはできず、警察官は探偵に捜索を依頼する。物語の始まりはそんなところ。

★ やがて、ヤクザ同士の抗争あり、銃撃事件ありで、そのそれぞれにある女性の影が潜む。どうやらそれが、警察官の娘「シズカ」のようなのだが。

★ この作品の複雑さは、さらに時代が前後するところだ。映画「パルプフィクション」ほどではないが、ジグソーパズルが1つずつ埋まっていき、最後に全体が完成する感じだった。

★ 自ら語らない「シズカ」の様子、最後はちょっぴり切ない。「シズカ」は何に怒り、何に復讐したかったのか。そして、何を守ろうとしたのだろうか。

☆ さていよいよゴールデンウィーク。塾は平常通り、いや学校が休みの分だけ忙しくなるかも。忙しい方が体調が良いというのは、ワーカホリックの症状か。

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遠藤周作「病める女」

2023-04-27 22:45:07 | Weblog

★ 朝日新聞の集金。担当の方は申し訳なさそうに値上げの説明の紙を渡された。値上げするのは朝日新聞の本社で、新聞を販売するのは地域の販売店だ。集金担当者はただ購読料を集金するだけなのだが、購読者との矢面に立ち、ご苦労な様子だった。

★ 私も今回の契約で(といっても2025年までの長期契約だが)購読をやめるつもりだが、それまではせっかくなのでしっかり読んでやろうと意気込んで目を通す。今日は文化欄の「北方謙三が語る直木賞」が面白かった。

★ 5回シリーズで、今日は第4回目。山本一力さんの「あかね雲」が受賞した経緯。ベストセラー作家、東野圭吾さんの受賞が難航した理由。同じく、7度も候補に挙がりながら受賞できなかった馳星周さんのエピソード(8回目にして見事に受賞されたが)。裏話は面白い。

★ 京都新聞の文化欄は渡邉英理さんが「いま、文学の場所へ」のコーナーで、市川沙央さんの「ハンチバック」を紹介されている。文學界新人賞受賞作。面白そうなので、日頃は買わない文芸誌(2023年5月号)を買った。この週末読んでみよう。

★ NHK100分de名著「新約聖書 福音書」が面白かったので、今日は遠藤周作さんの「聖書のなかの女性たち」(講談社文庫)から「病める女」を読んだ。

★ マタイ伝、あるいはマルコ伝に記されている病める女性のエピソード。信仰が病を癒すということを説く。病を受け孤独な夜を過ごす人へ癒しの文章が温かい。

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宮本輝「トマトの話」

2023-04-26 21:18:00 | Weblog

★ 宮本輝さんの「五千回の生死」(新潮文庫)から「トマトの話」を読んだ。

★ 今は広告代理店に勤めるある男性。ふと同僚たちと学生時代のアルバイトについて語り合うことに。

★ 当時彼は働きながら大学に通う苦学生。少しでも割の良いバイトを探した結果、紹介されたのが深夜の交通整理。道路工事に伴う交通整理だ。

★ 四方から来る乗用車を渋滞させず行き来させ、一方工事場所にアスファルトを積んだダンプカーを誘導する。気を抜くと事故に巻き込まれかねない危険な職場だった。

★ そこで彼はある年輩の男性と出会う。現場に出はしたものの体が悪いらしく、飯場で寝たきりの生活。彼はその男に頼まれトマトを買ってくる。とはいえ、数日たっても男はトマトを食べない。ただ大事そうに撫でるだけだった。

★ また彼は男から手紙を託される。快く引き受けたのだが紛失してしまう。そして、遂に男は容体が急変して。

★ 何がってことはないが、情景が目に浮かぶ作品だった。

☆ NHK「100分で名著」、今月は「新約聖書 福音書」。若松英輔さんの解説に思わず引き入れられる。説教が巧いなぁ。

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大薮春彦「野獣死すべし」

2023-04-25 16:34:44 | Weblog

★ 大薮春彦さんの「野獣死すべし」(光文社文庫「伊達邦彦全集1」より)を読んだ。

★ 松田優作さん主演の映画では、冷徹な犯罪を繰り返す男の姿が描かれていた。その男は戦地カメラマンで、戦場のあまりに悲惨な現実を見て、心が崩壊してしまったようだ。今の言葉で言えばPTSD(心的外傷後ストレス障害)。

★ 原作は主人公、伊達邦彦の生い立ちを記述する。彼の心的外傷の背景は太平洋戦争だ。ハルピンで育った彼は、戦局の悪化に伴って、北朝鮮、南朝鮮へと移動し、何とか海路日本にたどり着く。その行程がいかに悲惨であったか。

★ 現実世界の価値観、法体系がいかに砂上の楼閣であるかを感じさせる。同時に、悲惨な生育が彼のような「野獣」を産んでしまうのだろう。

★ 理屈はともかく、映画の中の松田優作さんのポーズはカッコいい。狂気の中で彼は何を聞き、何に指を刺したのだろう。

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「とっときのとっかえっこ」

2023-04-23 16:37:44 | Weblog
 
★ サリー・ウィットマン「とっときのとっかえっこ」(童話館出版)を読んだ。小学校の国語教科書に載っていた懐かしい作品だ。
 
★ おじいさんのバーソロミューと隣の家の娘ネリーの歳の離れた友情の物語。
 
★ 赤ちゃんだったネリーの乳母車を押すバーソロミュー。月日は流れ、ネリーは成長し、バーソロミューは老いていく。
 
★ やがてネリーがバーソロミューの車いすを押すことに。
 
★ 立場が逆転しても二人の友情は変わらない。自分が歳をとったせいか、妙に感動した😊
 
★ 選挙に行ってから映画「野獣死すべし」を観た。何度観ても松田優作さんのエキセントリックな演技が最高だ。


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劉慈欣「郷村教師」

2023-04-22 16:28:36 | Weblog

★ ドラマ「スタートレック:ピカード」は大団円で第3シーズン(そして多分最終章)を終えた。「新スタートレック」のメンバーが一堂に会し(数十年ぶりの同窓会のような感じ)、懐かしかった。俳優はもちろん、声優陣もオリジナル作品と変わらずで良かった。

★ 劉慈欣さんの「円」(ハヤカワ文庫)から「郷村教師」を読んだ。山間の寒村の物語と広大な宇宙のエピソードが交錯する。

★ 寒村の物語は、どこか懐かしい原風景で、これだけでも一つの作品になっている。私財を投じて学校を営み、因習に囚われている貧しい人々の子弟に教育を授ける教師の話。彼もまた貧村に育ち、志ある教師に助けられて成長したのだ。(因習に囚われる人々の様子は魯迅の「故郷」のように感じた。)

★ 彼は病に冒され、最期の瞬間を迎えようとしている。しかし、その最期の時に際しても子どもたちへの指導を怠らない。

★ 一方、宇宙では文明を破壊すべきか否かの調査が展開されている。

★ 世代を超えて知識、情報を伝達する「教師」という存在の意義を教える作品だった。

☆ さて、明日は市議会議員選挙の投票日。狭い世界の戦いだけに、政策以前に人間関係のしがらみに影響されて、誰に投票すべきか迷う。国政選挙や首長選のように割り切れないのが辛いところだ。

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映画「決戦は日曜日」

2023-04-20 21:06:26 | Weblog

★ 選挙戦もいよいよ終盤。ということで、今日は映画「決戦は日曜日」(2022年)を観た。

★ 強い地盤を持ち、政権にあっては防衛大臣を務めた代議士が病に倒れた。後継をめぐって、地元の代議士などの意見が統一せず、結局、代議士の娘が公認を得て出馬することに。

★ しかし、この娘、政治の世界は全くの素人。更にお嬢さん育ちのわがままときている。

★ 父親の代から引き継いだ政治秘書たちが何とか形を整えようとするが、彼女にとってみれば、あたりまえの政治的慣習が気に食わない。彼女の暴言、暴挙にメディアは群がり、年寄りが仕切る後援会とも険悪なムード。他の代議士たちは隙あらばと利権を狙っている。

★ 嘘がまかり通る政界の常識に嫌気がさし、何度も出馬を辞退しようとするが、その都度、担当の秘書がなだめたり、すかしたり。しかし、遂に限界。いっそ落選すればと策を練るのだが。

★ 娘役は宮沢りえさん。担当秘書役は窪田正孝さん。秘書の仕事は大変だなと思う。同時に政界の悪しき慣習や利権に群がる人々には辟易する。

★ 選挙事務所の様子は、今週街中でよく見かける風景だ。選挙に当選するのが目的で、何のために勝つのかが怪しい候補者も目にする。目的と手段が本末転倒だと思うのだが。

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劉慈欣「円」

2023-04-18 18:40:58 | Weblog

★ 不思議な数字がある。分数にならない数(循環しない数)を無理数といい、中でも円周率πやネイピア数eは超越数と呼ばれる。

★ 久しぶりに本屋をのぞくと劉慈欣さんの「円」(ハヤカワ文庫)を売っていたので、表題作を読んだ。

★ 中国の史実を援用しながら、架空の世界を描いているSF作品だ。燕の刺客が秦の始皇帝を襲うが、始皇帝は彼の才能を惜しんで、自らに仕えるよう言う。刺客は円の不思議さを説き、円周率の神秘を語る。始皇帝は彼に円周率の計算を命じ、彼は人力計算機をつくり計算に挑むのだが・・・。

★ 2進法を利用した人力計算機は面白いアイデアだ。

☆ 2020年代、今や人工知能(AI)が実用化に向かっている。やがて訪れるのがユートピアなのか、それともデストピアなのか。人間はAIを使いこなすことができるのか。それとも、その奴隷と化すのか。

☆ アイザック・アシモフの「ロボット三原則」が現実味を帯びてきた。

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馳星周「不夜城」

2023-04-17 15:20:45 | Weblog

★ 統一地方選挙後半。以前に比べ選挙カーの騒音は比較的控えめだ。立候補者の票割(住み分け)が徹底しているせいか、それとも連呼型の街宣はもはや時代遅れか。

★ さて、馳星周さんの「不夜城」(角川文庫)を読んだ。東京、歌舞伎町を舞台に中国マフィアたちが覇権を争う話。

★ 昔、出張で東京を訪れたとき、何度か歌舞伎町を歩いたが、危ないところだったんだね。昼間歩く分にはそれほど身の危険を感じなかったが、表と裏の顔があるようだ。

★ この作品、金城武さん主演で映画化(1998年)されている。歌舞伎町でよくロケができたなと思った。

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