★ 市川沙央さんの「ハンチバック」(文學界2023年5月号)を読んだ。第128回文學界新人賞受賞作。
★ 遺伝性の筋肉疾患で人工呼吸器を装着している女性が主人公。背骨も曲がっているので、紙の本を読むことさえ苦労する。両親が残してくれた財産でグループホームを営み、自らもそこで生活している。ワンルームほどの空間が彼女の日常だ。
★ 冒頭のネット用語にちょっと戸惑ったが、面白い作品だった。吸痰や誤嚥性肺炎の描写などは体験者ならではというところか。今の時代らしい略語が随所に使われ、良いテンポだと思う。
★ 「死に向かって壊れるのではない。生きるために壊れる」。考えさせられるところだ。
★ 選評で中村文則さんが書かれているように終盤の部分とそれ以前とのつながりがわかりにくかった。終盤部分はそれはそれで面白いのだが。
★ さて、ゴールデンウィーク。読書の春といきましょう。今読みかけの本。葉真中顕さんの「ロスト・ケア」(光文社)は面白い。川越宗一さんの「熱源」(文春文庫)は、登場人物の名前になかなか親しめず、読書も遅れがち。宮部みゆきさんの「魔術はささやく」(新潮文庫)はおよそ半分読めた。薬丸岳さんの「神の子」(光文社文庫)は下巻の3分の1ほど。
★ 貫井徳郎さんの「乱反射」(朝日文庫)は、バタフライ・エフェクトのように小さな悪意や不道徳が積み重なって、という作品のようだ。東野圭吾さんの「夢幻花」(PHP文芸文庫)。花を育てることを老後の楽しみにしていた老人が殺されたところ。
★ 横山秀夫「ルパンの消息」(光文社文庫)。15年前の女性教員の自殺と「ルパン計画」の関係は。大江健三郎さんの「万延元年のフットボール」(講談社文庫)。難解な文章を読むマゾ的な快感に浸れる。時代小説も一つ、山本一力さんの「あかね空」(文春文庫)を読み始めよう。