じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

大石直紀「二十年目の桜疎水」

2020-10-31 15:15:47 | Weblog
★ 大石直紀さんの「桜疎水」(光文社)から「二十年目の桜疎水」を読んだ。

★ 北欧のどんよりした冬、主人公に「母危篤」の知らせが届く。借金を残して急逝した父親に代わり、身を粉にして働いた母。それは一人息子のためであったに違いない。それはわかっていながら、主人公は母の束縛から逃げ続けてきた。

★ 地元を離れ、京都の大学に進学した主人公には、かつて結婚を約束した女性がいた。しかし、幸せな日々はある事故のために終わりを告げる。

★ 母が臨終を前に語った告白。それが心に引っかかり、主人公は20年ぶりに京都を訪れる。彼はかつての恋人と会うことができるのか。彼女は彼を受け入れてくれるのか。玄関のチャイムを押すシーンは胸が躍る。


☆ 鴨川沿いの桜の美しさ。京阪電車が地上を走っていた学生時代の記憶が蘇る。等間隔に座るカップルの姿は今も続いているだろうか。

☆ 本作は今年度の「京都本大賞」を受賞したという。むべなるかな。
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佐多稲子「三等車」

2020-10-30 23:16:52 | Weblog
★ 塾生が2016年のセンター入試「国語」を解いていたので覗いてみた。文学作品は、佐多稲子さんの「三等車」が使われていた。これが、読み始めるとなかなか面白い。

★ 終戦後の1950年代、鉄道の座席は一等から三等まで区別され、三等車は庶民階級であふれかえっていた。

★ 鹿児島行きの急行列車、「わたし」は座席屋(座席を確保し、それを乗客に売る闇屋、ダフ屋)に200円(今の価値では2000円から3000円だという)を払い、座席を確保した。

★ 「わたし」の隣の席に幼子2人を連れた夫婦がやってくる。夫はすぐホームに降り立ったので、見送りだけのようだ。妻が愚痴交じりに語る。夫を頼って東京に出てきたものの、物価が高くて生活が立ちいかない。幼子を抱えて共稼ぎもできない。夫は東京に残り、母子は実家のある鹿児島に帰るという。家業が農家だから餅ぐらいは食わせてもらえるだろうと。

★ 「男って、勝手ですねえ。封建的ですわ」というセリフが光る。

★ 満員列車の3密状態は今のご時世では考えられない。昔はみんな逞しく生きていたんだなぁと思った。

★ それにしても文末の注釈。「二百円」は貨幣価値が変わったから良いとして、「闇(闇取引)」「所帯」「ねんねこ袢纏」「ズック」「外套」、果ては「メンコ」まで。今の子たち(大学受験者)は「メンコ」を知らないのかぁと感慨深かった。形態や遊び方までご丁寧な説明が付いている。

★ 「昭和は遠くなりにけり」ってところだろうか。
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映画「十三人の刺客」

2020-10-30 16:33:52 | Weblog
★ たまにカップ焼きそば(厳密に言えば「焼きそば」ではないが)が食べたくなる。しかし、たまに食べるものだからつくり方を間違ってしまった。カップ麺同様、先に粉末ソースを乾麺にかけ、湯を注いでしまった。「アッ」と思った時は後の祭り。ソース色の湯を切り、随分と薄味の「焼きそば」になってしまった。これではさすがに「まずい」と思って、ウスターソースとマヨネーズで和えると、案外うまかった。

★ さて、そんな雑話はさておき、昨日は映画「十三人の刺客」(1963年)を観た。NHKBSで放映されていたが、途中からだったので、あらためて最初から観た。この作品、2010年にリメイクされているという。

★ 1963年と言えば「斜陽産業」と言われながら、まだ映画界が活況だった時代。「七人の侍」(1954年)や大河ドラマ「赤穂浪士」(1964年)など、時代劇にも人気があったようだ。

★ 将軍の子でありながら利己的で残虐な性格の明石藩主。その素行にたまりかねて、江戸家老が筆頭老中の門前で切腹する。藩主の悪行を糾弾する訴状を残して(今の時代で言うなら内部告発)。

★ 訴状はもっともながら、将軍の寵愛を受け、次期老中と言われる明石藩主だけに、筆頭老中もその処置に困り果てた。そして遂に刺客を差し向けることにしたというストーリー。

★ 政権による暗殺・テロだが、そこは封建時代のお話。参勤交代の帰路を狙って、13人の刺客が藩主側50余名を相手に死闘を演じる。

★ 片岡千恵蔵さん、嵐寛寿郎さん、そして若い里見浩太朗さんなど、スターがそろう。藩主の悪辣に心を痛めながらも忠義の為、藩主を護衛する軍師、鬼頭半兵衛。その役を演じる内田良平さんの目が鋭い。

★ クライマックスは寂れた宿場での乱闘シーン。舞台が迷路のようで、「七人の侍」ほどの迫力、美しさは感じなかったが、実際の戦闘はこのような肉弾戦なんだろうなぁと思った。昔の映画は面白い。
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岡本かの子「鮨」

2020-10-29 10:18:55 | Weblog
★ 朝日新聞で、やくみつるさんの風刺画「秋思」を見る。杜甫の「春望」のパロディ。領袖を下りた石破氏の心境を慮っている。漢詩の巧拙はともかく、この感性が好きだ。

★ さて、今朝は岡本かの子さんの「鮨」(青空文庫)を読んだ。あるサイトで面白いと書いてあったので読んでみた。岡本かの子という人はよく知らない。「芸術は爆発だ!」で有名な岡本太郎さんのお母さんというぐらいだ。「鮨」は戦前に書かれた作品だが、古さを感じなかった。

★ 東京にある「福ずし」。そこを訪れる一人の中年の常連客を、店の娘「ともよ」の視点で描いている。

★ その常連客、紳士風ながら独特の雰囲気がある。他の客からは「先生」と呼ばれるようになった。ある日、店の外で「先生」と偶然会った「ともよ」。病院の焼け跡に腰掛けながら、「先生」の生い立ちを聞く。

★ 没落する家(時代の趨勢と亭主の道楽が原因のようだが)。「先生」はそこの息子として生まれたが、食事をすることによって自分が穢れていくようで食欲が進まなかったという(これも家の没落を何となく感じての不安感からだったようだ)。痩せていく我が子(小学生ぐらい)に困り果てた母親は、ある日、縁側でパフォーマンスを演じる。息子を前に鮨を握ったのだ。少年は、玉子、イカ、そしてそれまで食べることができなかった魚のネタを始めて味わう。

★ この「鮨」の情景が実にうまそうだ。

★ 昔語りを聞いてから、「先生」は「福ずし」に姿を見せなくなった。定住しなという「先生」のことだから、どこかの街で鮨を食べているのだろうという、「ともよ」の想像で物語が終わる。

★ 中年男は「深夜食堂」のオダギリ・ジョーさんのイメージで読んだ。ちょっと雰囲気は違うけれど。鮨が食べたくなるいい作品だった。
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映画「アイネクライネナハトムジーク」

2020-10-28 00:24:01 | Weblog
★ 映画「アイネクライネナハトムジーク」(2019年)を観た。

★ 原作は伊坂幸太郎さん。ボクシング、ヘビー級の王座決定戦を軸にいくつかの話がリンクしていた記憶がある。

★ 映画では連作短編がとてもうまくまとめられていた。脚本のうまさだろうか。

★ 多部未華子さんが美しくてかわいかった。恒松佑里さんもいいなぁ。三浦春馬さんは10年前と10年後を違和感なく演じていた。原田泰造さんもいいなぁ。

★ 人の出会いは偶然なのか、それとも運命なのか。世の中の出来事はバラバラなようで、実はつながっているんだと感じた。
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ドラマ「しゃばけ」

2020-10-26 12:01:19 | Weblog
★ 昨日読んだ「果てしなき渇き」が暴力的だったので、気分を変えて畠中恵さんの「しゃばけ」(新潮文庫)を読み始めた。ところが、ファンタジー系はどうも苦手で、調べればドラマ化されているというので、ドラマ「しゃばけ」(2007年)を観た。

★ ある夜、江戸の廻船問屋の若だんな・一太郎は殺人現場に遭遇する。彼も襲われそうになるが、鈴の付喪神・鈴彦姫、手代の佐助(犬神)と仁吉(白沢)に助けられ難を逃れる。

★ それ以来、一太郎の近辺で連続殺人事件が起こる。どうやら、犯人(?)は、一太郎を狙っているようだ。背景には彼の出生に関わる秘密があった。

★ 何と言っても妖(あやかし)が愉快だ。「妖怪大戦争」のようだ。小さな鬼たちは、万城目学さんの「鴨川ホルモー」を思い起こさせる。

★ 世間では「鬼滅の刃」が大ブーム。コロナ禍の中、目に見えないモノへの関心・恐れとそれに立ち向かう姿が受けているのだろうか。カラフルで造形美(?)豊かな鬼たちや鬼滅隊の「呼吸・型」も子どもたちの心をくすぐっている。
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深町秋生「果てしなき渇き」

2020-10-25 18:33:14 | Weblog
★ 深町秋生さんの「果てしなき渇き」(宝島社)を読んだ。先に映画「渇き。」((2013年)を観ていたので、ストーリー自体はわかっていた。しかし当然のことながら、映画以上に過激だった。

★ 人間はどこまで暴力的になれるのか。それが愛の裏返しであるとしても、独りよがりの愛は極めて暴力的だ。

★ 元警官である藤島はキレやすい性格だったようだ。妻の不倫相手を半殺しにして警察を追われた。彼が再就職したのは警備会社。警備員として彼はコンビニの斬殺現場を目撃する。

★ 同じ頃、彼は元妻からの電話を受ける。珍しいことだったが、娘が行方不明になったという連絡だった。彼が以前のスィートホームを訪れ娘の部屋で見つけたものは、信じられないほどの薬物だった。

★ それから娘を探す彼の暴走が始まる。娘を捜しながら彼が知らなかった娘の一面を知らされる。

★ 人間の根底になる残虐性、暴力性を存分に感じさせてくれる作品だった。
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アニメ「すべてがFになる」

2020-10-24 13:09:53 | Weblog
★ 共通テストに「情報」が加えられるかも知れないという。世の中はデジタル化が急速に進み、アナログ人間の肩身は狭くなる一方だ。

★ アニメ「すべてがFになる」(2015年)を観た。全11話。原作は森博嗣さんだ(1996年発表)。

★ 天才少女と言われながら両親を殺害した(心神喪失ということで罪には問われなかった)真賀田四季博士。彼女は離島の研究所に優秀な研究者を集め、自らも研究所の一室に15年間籠って研究を続けていた。

★ 優秀な研究者であり、大学で教鞭をとる犀川創平とかつての恩師の娘で大学生の西之園萌絵は、真賀田四季に関心を持ち、研究室のメンバーと共にその研究施設を訪れる。そこで、連続殺人事件が起こる。研究室を管理するコンピューターの不具合(実はあらかじめプログラムされたものだが)で、研究所は外部との交信が絶たれる。警察の助けを得られないまま、犀川たちは犯人なき密室殺人の謎に迫っていく。

★ サスペンス的要素、メロドラマ的要素、ファンタジーな映像が印象的だった。「すべてがFになる」というタイトルが意味するものは。

★ 理系的なセリフも多く、賢い人たちがハマりそうな作品だった。
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赤川次郎「マリオネットの罠」

2020-10-22 20:24:27 | Weblog
★ 赤川次郎さんの「マリオネットの罠」(文春文庫)を読んだ。多くの作品を発表されている赤川さんの最初の長編だという。

★ オープニングとエンディングが衝撃的だった。オープニングは少女による連続殺人の幕開け。その殺害描写はかなりショッキングだ。

★ フランス語の家庭教師として、豪邸に住み込む男。地下に監禁された少女。少女は脱出に成功し、一方、家庭教師は行方不明に。連続殺人に幻覚剤を密輸する組織の話が絡んでくる。

★ 男の行方は。警察の追求から逃れる少女の行方は。少女はなぜ連続殺人を繰り返すのか。マリオネットとは。

★ ハッピーエンドと思われた終盤、どんでん返しが待っていた。盛りだくさんの内容だった。 
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映画「クリムゾン・タイド」

2020-10-20 23:10:41 | Weblog
★ 昨日だったかNHK・BSで放映されていた「クリムゾン・タイド」(1995年)。ふと観たのが途中からだったので、あらためて最初から観た。気持ちを集中してみると緊迫感がなお一層伝わってきた。

★ ロシアで過激派勢力による反乱が起こったという設定。反乱軍が核施設を占拠し、合衆国への攻撃が可能となったことから、米軍は核兵器を搭載した原子力潜水艦の出航を命じる。

★ 核先制攻撃を行うかどうか。原子力潜水艦「アラバマ」の中では、好戦的な歴戦の艦長(ジーン・ハックマン)と士官学校を出てハーバードで学んだ慎重派のエリート副官(デンゼル・ワシントン)が対立、お互いに武装して艦の指揮権を争うまでに発展する。

★ ロシア国内での政府軍と反乱軍の趨勢、アメリカを中心とする西側諸国とロシアとの対立、潜水艦同士の戦闘、潜水艦内の指揮権争い。そうした一連の争闘が、巧みに描かれている。時間が進むにつれて、緊張感が増大してくる。

★ 潜水艦内の様子はセットであるとわかっていながら、作品に引き込まれる。何と言っても乗組員たちの緊迫感がすごい。特に汗の表現が効果的だ。水深深く潜航する艦内は確かに暑かろうが、それに生死の間をさまよう緊張感が拍車をかける。

★ 艦長と副官の対立(名優の演技が際立つ)。対立の背景に人種問題も感じさせる。女性の出演が少ないのもこの映画の特徴だ。

★ 面白い映画だった。
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