語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【保健】ワクチンを接種し損ねても ~インフル予防に補中益気湯~

2017年01月08日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)インフルエンザの季節だ。予防には、マスク着用と手洗いの徹底を。おつかれ気味なら、漢方薬の「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」【注】を試してみよう。
 補中益気湯は、すでに750年以上の歴史がある名方だ。添付文書には虚弱体質の夏痩せや病後の体力増強に効く、とある。ただし、「インフルエンザの予防」という記載はない。
 しかし、臨床医は経験的に補中益気湯の感染防御力を知っており、近年、科学的なメカニズムを裏づける報告が相次いでいる。

 (2)基礎研究を総合すると、補中益気湯には、次の作用が認められている。
  ①生体の免疫能を増強し、感染・重症化を防ぐ。
  ②細胞内に侵入した病原ウイルスを分解する「自食作用(オートファジー)」を増強して感染を予防する。
 特に②は、今一番ホットな研究分野といえる「オートファジー」と関連付いたものだから、「業界」で注目を集めた。
 オートファジーは、今年のノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典・東京工業大学栄誉教授らが発見したメカニズムだ。壊れたタンパク質やミトコンドリアを「ごみ袋」に収納、分解し、再生されたアミノ酸を材料に、新しいタンパク質を合成するという細胞内の「リサイクルシステム」だ。
 当初は、飢餓に襲われたときに自分の細胞を栄養源とする、究極の「自食」の仕組みと考えられていた。しかし、近年は生命維持に欠かせない新陳代謝や、病原体の排除に大きな役割を果たしていることが判明している。

 (3)実際の予防効果については、2009年の新型インフルエンザ流行時に行われた新見正則・帝京大学教授らの報告がある。
 成人男女、358人を
  ①補中益気湯内服群
  ②補中益気湯非内服群
に分けて最大8週間投与した結果、①の感染者は1人、②の完成者は7人と、①で有意に感染率が低かったのだ。副作用は下痢や倦怠感など軽いものだった。

 (4)漢方薬は、体質に「合う」「合わない」で効き目が違う。
 補中益気湯を「美味しい」と感じたらOKサインだ。湯に溶かし、舌で味わってから服用を決めるとよい。

 【注】構成生薬は、次の10種類。滋養強壮作用のある「人参(ニンジン)」と「黄耆(オウギ)」、水分循環をよくする「蒼朮(ソウジュツ)または白朮(ビャクジュツ)」、炎症をひく「柴胡(サイコ)」、血行をよくして貧血症状を改善する「当帰(トウキ)」、のどの痛みや痔を治す「升麻(ショウマ)」、胃腸の働きをよくする「陳皮(チンピ)や生姜(ショウキョウ)」、その他「大棗(タイソウ)」、「甘草(カンゾウ)」。これらがいっしょに働くことで、よりよい効果を発揮する。病院では、煎じる必要のない乾燥エキス剤を用いるのが一般的だ。(「おくすり110番「補中益気湯」」)

□井出ゆきえ(医学ライター)「ワクチンを接種し損ねても/インフル予防に補中益気湯 ~カラダご医見番・ライフスタイル編 No.330~」(「週刊ダイヤモンド」2016年12月24日号)
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