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自殺における諸要因の分析、平凡な結論とともに意外な知見もある

2013-12-20 16:37:13 | 読書ノート
澤田康幸, 上田路子, 松林哲也『自殺のない社会へ:経済学・政治学からのエビデンスに基づくアプローチ』有斐閣, 2013.

  自殺数に影響する社会的要因を量的に分析する専門書。統計分析を主に据えており一般の人にはやや難しいかもしれない。だが、テクニカルところは章末の補論にまとめており、本論はアプローチの視点と分析結果中心の記述で、結論だけを知りたければ読めないことはないと思う。

  日本では交通事故死者数より自殺者数の方が多いのに、あまり公的な対策がなされていないという話に始まり、経年的変化、自然災害後の自殺者数の増減、政府与党が与える影響、政策の影響、駅の青色灯や地方自治体の自殺対策の効果などが調べられている。「死者数の多い災害の場合は自殺が増えるが、罹災者数が多い場合は自殺が減る」「左派政党が政権に就いていると自殺が減る」など、意外な知見もある。

  ミクロな対策では、電話相談にもっと公的資金を充てることは効果的なのかもしれない。けれども、政策感応的なのは労働力年齢の男性の自殺であって、結局マクロでは失業率を減少させる政策こそが重要であるという平凡な結論に落ち着いてしまう。もう一つの自殺者数の多い層である高齢者の、おそらく難病などを理由にした自殺はどうしようもないものなのかもしれない。
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