熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

イノベーションは物語づくりから・・・黒川清内閣特別顧問

2008年07月18日 | イノベーションと経営
   INNOVATION SUMMITで、黒川清氏が、「持続的成長と日本の課題」と言うテーマで、自論のイノベーション立国を熱っぽく語った。
   在米経験が長く、卓越した医師と言うバックグラウンドで幅広く国際的な活躍をしながら、日本学術会議会長まで歴任した最高峰の知識人で、科学者でありながら、グローバル時代の世界経済を、これほどまでに適格に把握して展望できる人は、恐らく、社会科学系にも少ないであろうと思えるほどの論客で、何時聴いても、パンチが利いた迫力のある講演は楽しい。
   これほど、卓越した逸材が、イノベーション25戦略会議座長として取りまとめた日本のイノベーション戦略が、殆ど鳴かず飛ばずの状態にあるのは、それだけ、日本の官僚機構の抵抗と、政治の貧困さに問題があるのであろうか。

   3月に出したPHP新書「イノベーション思考法」を読むと黒川氏の論点が、良く分かるが、重要な時代認識の中に、フラット化したこれからの時代は、偉大な卓越した個人の時代で、これらの巨人によって世の中が一挙に新展開すると言う強烈なメッセージがある。
   一人の偉大な人財(Human Capital)のアイディアが、世界を一変させる、そんな時代になったと言うのである。
   従って、黒川氏は、互換性の利いたパーツ人間ばかり育成してきた過去の教育を否定して、出る釘を叩くのではなく、出る釘を如何に見つけ出して伸ばすかと言うことを強調する。

   また、イノベーションについては、技術革新ではないと強調し続けており、今回も、物語を作ることだと力説した。
   技術的に優位である筈のソニーが、何故、スティーブ・ジョブズのiPodに負け、任天堂のWiiに負けたのか、技術一辺倒で、物語性に欠けるからで、消費者は、新しい組み合わせのコンセプトに乗ったのである。
   これが、強烈なブランドを形成し、他の競合商品の追随を許さなくなり確固たる地歩を築いた、これこそ、今日あるべきビジネス・モデルだと言う。

   日本の工業製品は世界に冠たる品質を誇っているが、いくら3Gで世界最高だと言っても世界に通用しない日本の携帯電話は、日本製品のガラパゴス化を促進しただけで、その閉鎖社会も、アップルのiPhone一発で、革命騒ぎを起こしてしまった。
   日本の環境重視の省エネ製品は、中国やインドは勿論、台頭著しい世界の新興中産階級の垂涎の的であり、かっての盛田昭夫さんのように、世界に打って出て果敢に売り込むべきだと黒川氏はハッパをかける。

   黒川氏が、時代を画している言葉として次の言葉を列挙した。
   グローバル化、イノベーション、人財(人材ではない)、クラスター、コアコンピタンス、フラット化。
   これに、ブランド、マーケティング、オープンソース&コラボレーションによるビジネス・イノベーションを加えれば、ほぼ、黒川氏の主張する日本の産業のあるべき姿が見えてくる。

   ところで、先日の片山知事の指摘のスマイルカーブによる「川中」製造業の悲劇からの脱却が、ものづくり日本を活性化する最も重要なテーマであるような気がしている。
   片山氏は、15,000円するワコールのブラジャーが、鳥取の下請工場では、ハギレを買って来て完成品に仕上げても800円しか貰えない現実を語っていたが、このことは、川中を主体としている日本の製造業の殆どが抱えている問題ではないかと思う。
   川上である筈の原材料においても、iPodやノキア等の携帯電話の部品の大半が日本製であるにも拘わらず、利益の大半は持って行かれてしまっている。
   トヨタは別として、世界最高の製品を製造して世界に貢献している筈のソニーや新日鉄などの利益率が、何故、良く分らない新興ソフトウエア産業に劣るのか、日本製造業のビジネス・モデルの根本から考えてみる必要があるように思っている。

   ところで、先の新書を読んでいて強烈な印象を受けたのは、日本で開発中のリニア新幹線の話である。
   リニア新幹線が実用化されると、東京ー大阪間は1時間以内の移動距離となり、更に、必要エネルギーは半分、CO2排出量は70%減少すると言う。
   これが、ワシントンーニューヨーク間等世界の近距離大都市間に交通システムとして採用されれば、殆ど完全に、飛行機が必要なくなり航空路線が消えてしまう。
   航空機が、どのような帆船効果を現出するのか興味のあるところだが、シュンペーターの言う駅馬車から鉄道への創造的破壊が起こる。
   このようなイノベーションは、経済社会環境が悪化し社会のニーズが逼迫すればするほど生まれ出で、早晩、産油国も、泣く憂き目に遭う事となるかも知れない。

   
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