熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

国立劇場・・・文楽「女殺油地獄」

2018年02月20日 | 観劇・文楽・歌舞伎
   今回の文楽で、是非観たかったののは、この近松門左衛門の「女殺油地獄」。
   どうしようもない放蕩息子、大坂のぼんぼん崩れの典型的な気の弱いワルが、この浄瑠璃の主人公の河内屋与兵衛(玉男)で、親父の印判を使って借りた金を返せなくなって、切羽詰まって同業の豊島屋七右衛門(玉志)の女房お吉(和生)を殺害して金を奪い、捕縛されると言うストーリーである。
   そんなアホな息子でも可愛い一心の、親の徳兵衛(玉也)と女房お沢(勘彌)の親バカぶりが、実に切なくて泣かせるのだが、その親の純愛に一瞬だがホロっと感じ入る姿を見せる与兵衛が、せめてもの救いであろうか。
   住大夫が、この「女殺油地獄」で、はじめて、おじいさんおばあさんを出して愁嘆場をこしらえたと言っているが、主人公の与兵衛も、心中物のがしんたれの大坂男と違って、不良ながらも、商家の跡取り(?)のぼんぼんで、色男であり、かしら名が、源太と言う飛び切りの男前として登場するのであるから、がらりと雰囲気の変わった浄瑠璃となっている。

   この文楽は、かなりの省略はあるのだが、他の近松物と違って、脚色は殆どなく、丁寧に近松の元の浄瑠璃を踏襲しているのは、それだけ聴衆の心をつかむ完成度が高いのであろう。

   さて、この近松門左衛門の「女殺油地獄」は、文楽でも歌舞伎でも随分観ている。
   1993年から、歌舞伎と文楽には、大概通っているので、1990年代には、初代玉男のお吉、簑助の与兵衛と言う考えられないようなゴールデン・コンビの逆を行った公演があったようで、観ていると思うのだが、このブログは、2005年から書いているので、残念ながら、その記録も記憶もない。
   それでも、2005年の、簑助のお吉、勘十郎の与兵衛
   2009年の、紋壽のお吉、勘十郎の与兵衛
   2014年の、和生のお吉、勘十郎の与兵衛 を観ており、このブログに書いている。
   今回、玉男の与兵衛を観るのは初めてであって、先代玉男の人形ぶりはどうだったであろうかと想像しながら観ていた。

   一方、歌舞伎の方は、2009年に、仁左衛門の与兵衛、孝太郎のお吉、と言う素晴らしい舞台を観ており、その感動の記録を残している。
   仁左衛門の舞台は、色々観ているが、立派な風格のある立役も良いが、やはり、上方の歌舞伎役者で、血や言葉がそのように誘うのか、近松門左衛門のナニワオトコを演じると天下一品である。ブログにも書いたが、どうしようもない放蕩息子だが、親の愛情にホロリとして手を合わせる与兵衛の心の揺れ、弱さ悲しさは、門左衛門の世界である。
   もう一つ印象的であったは、2011年、ル テアトル銀座で行われた殆どオリジナルに近い通し狂言の舞台で、幸四郎(染五郎)の与兵衛、猿之助(当時亀治郎)のお吉と言うエネルギッシュで迫力に満ちた凄い舞台である。

   この舞台では、簑助が、与兵衛の妹おかちを遣っている。
   与兵衛に頼まれて、先代の徳兵衛を騙って、病身の身を起こして、自分の婿取りを止めて、与兵衛に好きな女を娶らせて家督を譲れば、自分の病は治ると、訴える役回りである。それが聞き入れられないと知った与兵衛が、父の徳兵衛を殴る蹴るの狼藉を働くので、おかちは、このように言えば、商売に精を出すと約束したのにと明かしたので、与兵衛は、おかちも、外から帰ってきた母お沢をも、蹴り飛ばして暴れるので、勘当されて追い出される。
    そんな健気な商家の病人の町娘を、簑助は、実に、丁寧に情感豊かに遣っていて、いつものように、美しくて素晴らしい。
   
   この舞台で興味深いのは、やはり、大詰め、豊島屋油店の段、与兵衛思いの老親の愁嘆場とお吉殺戮の場であろう。
   瀕死の状態のお吉が、店の油壺を倒して床を油まみれにしたので、逃げ惑うお吉を抜き身の刀を追いかける与兵衛が、滑りながら、くんずほぐれつ、
   お吉の人形は、裾を足遣いが腹ばいで引っ張って、一気に舞台の端から端まで滑り抜き、与兵衛の人形は、足や左の激しい動きに加えて、玉男が刀を杖代わりに床を激しく突き立て必死に立ち上がろうとノタウツ激しさ、
   仁左衛門や染五郎、孝太郎や亀治郎も凄い至芸の連続であったが、三人の人形遣いで織りなす人形だからできるスペクタクルモードのシーンの数々は、目を見張る迫力で、物語の凄まじさを増幅する。
   この段を、一気に語り抜き、観客を頂点に誘うのが、呂太夫と宗助。
   住大夫は、愁嘆場で点数が稼げる、おじいさんおばあさんで浄瑠璃らしゅう情を語って、殺しの場面になったら、あとは、新劇みたいなもんですから、リアルに語ってたらいいのです。と言っているが、この「豊島屋油店の段」だけで、立派に、みどりの一幕になる長丁場の凄い舞台である。

   義太夫・三味線も人形も、感動の連続、
   もう一度、近松門左衛門を読み直したが、凄い浄瑠璃である。
   これまで、この歌舞伎や文楽の舞台については、十分に書いたので、蛇足は避けたいと思う。
   

(追記)この口絵写真は、国立劇場のHPから、借用転写。
    前回の舞台写真で、殺戮の場と与兵衛が勘当される前の乱暴狼藉のシーン
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