大福 りす の 隠れ家

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みち  ~未知~  第35回

2013年10月01日 12時29分25秒 | 小説
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『みち』 ~未知~  第35回



会場に着き忘年会が始まった。

この数ヶ月、殆ど森川以外と話すことが無かったがこの場で色んな社員と話すことが出来た。

(みんな何て優しいのかしら。 こんな空間はすっかり忘れていたわ) そんな感想を持った琴音であった。

数人の男たちは2次会へ流れていったが 森川と琴音はこの場で二手に分かれそれぞれ帰った。

帰りにまた図書館へ寄ると貼り紙に借りられる期間が通常2週間であるのに 1ヶ月ほど借りることが出来ることと 通常5冊までしか借りられないのだが 15冊まで借りられると書かれてあった。

「年末年始だから 長い間借りることが出来るのね。 実家に帰ってる間も退屈だから沢山借りようかしら」 何冊かを手に取った。



マンションに帰り翌日には部屋の大掃除を一通り済ませ車で実家に帰った。 車に乗ると足元に風が向くようエアコンを点けるが 暖めるとそれでなくても痒いしもやけがより一層痒くなる。

「ああ、痒い。 でも膝掛けだけじゃ寒いから我慢するしかないわ・・・」 それでなくても寒がりだからね。 でも、しもやけはすぐに治るよ。 薬も何も使わなくね。

車を走らせ着いた田舎の実家には父親と母親が二人で暮らしている。

両親ともずっと働きづめで決して裕福な家庭ではなかったが 一生懸命に育ててくれたという思いがある。
年老いた両親である。 両親の姿を見ると腰も少し曲がっている。

「もうそろそろ帰って同居した方がいいかしら。 でもここじゃあそうそう仕事が無いものね・・・」 実家に帰る度そのことが頭をかすめる。

そして琴音が帰るとご飯前に目にするいつもの両親の姿がある。 炊き立てのご飯を母親が神棚と仏壇の2つのお椀によそい 父親が最初に神棚にご飯を供え手を合わせる。 次に父方の祖父母の遺影と一緒に掛け軸が飾られてあるところに仏壇用のご飯を供えそして手を合わせる。 小さい時からずっと見てきた光景だ。

「これだけ神仏を信じて大切にしてきた両親をどうして神仏はもう少し楽にさせてくれなかったんだろう」 その姿を見ていつも思う琴音の思いだ。

出来る限り実家に帰るようにしている琴音ではあったが そう簡単に帰ることの出来る距離ではない。 長期休みの時には必ず何日か泊まって帰るようにしていた。
例年、年末に帰り年始を実家で迎える。 これは欠かしたことが無い。 新年を両親だけで迎えさせることだけはしたくなかったのだ。

「琴ちゃん 結婚しないの?」 母親が聞く。

「ごめん。 結婚はしない。 でも大丈夫よ お父さんとお母さんのことはちゃんと私が見るからね」

「そんなことじゃなくて せっかく女の子に生まれたんだから一度は結婚してみない?」 母親の言いたい事はよく分かっている。

「したくないからいいの。 それにもうこの歳よ相手が居ないわよ」 実家に帰る度この会話になるが それも自分が悪いのだと分かっている。 声を荒立てて話すことも無かった。

新年を迎えゆっくりとした時間が流れた日々を過ごし琴音はマンションに帰った。

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