『みち』 目次
第 1回・第 2回・第 3回・第 4回・第 5回・第 6回・第 7回・第 8回・第 9回・第10回
第11回・第12回・第13回・第14回・第15回・第16回・第17回・第18回・第19回・第20回
第21回・第22回・第23回・第24回・第25回・第26回・第27回・第28回・第29回・第30回
『みち』 ~未知~ 第34回
ある日、森川が琴音の横に来て
「年末の賞与なんだけどね。 これだけ出ることになったの」 森川がメモを見せた。 メモには社長の字で『全員、80% 織倉さん 5万円』 と書かれていた。
「織倉さんのは お駄賃みたいだけど・・・ゴメンね。 不景気じゃなかったらよかったんだけど」 森川が申し訳なさそうに琴音に言った。
「謝らないでください。 森川さんのせいじゃないですよ」 慌ててそう言った琴音であったが
「多分会長が渋ったのよ。 社長が頑張ってくれてここまでだったんだと思うわ。 それにしても もう何ヶ月も会長来てないわね」
「そうですね。 見かけませんね」
「顔も見たくないから丁度いいけど」
「え?」
「うふ。 本音が出ちゃった。 でもね、私だけじゃないわよ、全員。 社長もよ。 あ、それから会長が来ないから これからは織倉さんが会長の自宅に判子をもらいに行かなくちゃならないわね。 この計算が終わったら自宅を教えるわ。 すぐ近くだから歩いていけるわよ」
「はい」
「とにかく計算しましょうか。 賞与計算は給与計算とちょっと違うから少しでも出てよかったわ」 賞与の計算の仕方を教わった。
とうとう 年末。
社内の大掃除を済ませ 午後からは忘年会兼森川の送別会。
会場に行く前に ロッカーで
「森川さん 今まで有難うございました」 そう言って 用意してあったストールと手袋のプレゼントを渡した。
「まぁ! こんな事しなくてもいいのに」 思いがけないプレゼントに森川が驚いている。
「本当は大きな花束をお渡ししたかったんですけど 森川さん原付だから持って帰るのに大変だろうと思って だからこれも。 長い間のお勤めご苦労様でした」 そう言って小さなブーケも手渡した。
「うふふ かわいい。 有難う。 きっとこれを見たらドリアも喜ぶわ」
「ドリア?」
「そう、うちの万犬」
「まんけん?」
「そうなの。 病院代がバカほどかかる犬。 一万円札がどんどん飛んでいくの。 だから万犬」
「え? 犬を飼ってらっしゃるんですか?」
「あら? 言わなかったかしら? ずっと病院通いだった犬なんだけどね、もう歳なの。 ヨロヨロ歩いてるんだけど目はまだかろうじて見えてるから こんなに色んな色のお花を見るときっと喜ぶわ。 ありがとう」 最後に見た森川の笑窪だ。
会社近くの忘年会会場へは各自で向かうのだが 自転車を出している琴音と原付を出している森川を見て一人の男性社員が
「森川さん、織倉さんと二人で僕の車に乗って一緒に行きませんか?」 声をかけてきた。
「織倉さんどうする? 私は原付だから会場に行ってそのまま帰るけど 織倉さん自転車じゃあちょっと遠いわよ。 乗せてもらったらどう?」 森川が琴音に言った。
「大丈夫です。 自転車で行きます」 その会話を聞いていた男性社員が
「織倉さん道分かりますか?」
「さっき森川さんに聞きましたから分かります」
「それじゃあ、大丈夫ですね。 じゃあ、僕先に行ってますね」
「ありがとうございます」 声をかけてくれたことに礼を言った琴音。
「じゃあ 行きましょうか」
「はい」 会社を出発したが森川も道を教えたものの琴音を心配して ちょっと先に行っては止まって待ってを繰り返していた。
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ある日、森川が琴音の横に来て
「年末の賞与なんだけどね。 これだけ出ることになったの」 森川がメモを見せた。 メモには社長の字で『全員、80% 織倉さん 5万円』 と書かれていた。
「織倉さんのは お駄賃みたいだけど・・・ゴメンね。 不景気じゃなかったらよかったんだけど」 森川が申し訳なさそうに琴音に言った。
「謝らないでください。 森川さんのせいじゃないですよ」 慌ててそう言った琴音であったが
「多分会長が渋ったのよ。 社長が頑張ってくれてここまでだったんだと思うわ。 それにしても もう何ヶ月も会長来てないわね」
「そうですね。 見かけませんね」
「顔も見たくないから丁度いいけど」
「え?」
「うふ。 本音が出ちゃった。 でもね、私だけじゃないわよ、全員。 社長もよ。 あ、それから会長が来ないから これからは織倉さんが会長の自宅に判子をもらいに行かなくちゃならないわね。 この計算が終わったら自宅を教えるわ。 すぐ近くだから歩いていけるわよ」
「はい」
「とにかく計算しましょうか。 賞与計算は給与計算とちょっと違うから少しでも出てよかったわ」 賞与の計算の仕方を教わった。
とうとう 年末。
社内の大掃除を済ませ 午後からは忘年会兼森川の送別会。
会場に行く前に ロッカーで
「森川さん 今まで有難うございました」 そう言って 用意してあったストールと手袋のプレゼントを渡した。
「まぁ! こんな事しなくてもいいのに」 思いがけないプレゼントに森川が驚いている。
「本当は大きな花束をお渡ししたかったんですけど 森川さん原付だから持って帰るのに大変だろうと思って だからこれも。 長い間のお勤めご苦労様でした」 そう言って小さなブーケも手渡した。
「うふふ かわいい。 有難う。 きっとこれを見たらドリアも喜ぶわ」
「ドリア?」
「そう、うちの万犬」
「まんけん?」
「そうなの。 病院代がバカほどかかる犬。 一万円札がどんどん飛んでいくの。 だから万犬」
「え? 犬を飼ってらっしゃるんですか?」
「あら? 言わなかったかしら? ずっと病院通いだった犬なんだけどね、もう歳なの。 ヨロヨロ歩いてるんだけど目はまだかろうじて見えてるから こんなに色んな色のお花を見るときっと喜ぶわ。 ありがとう」 最後に見た森川の笑窪だ。
会社近くの忘年会会場へは各自で向かうのだが 自転車を出している琴音と原付を出している森川を見て一人の男性社員が
「森川さん、織倉さんと二人で僕の車に乗って一緒に行きませんか?」 声をかけてきた。
「織倉さんどうする? 私は原付だから会場に行ってそのまま帰るけど 織倉さん自転車じゃあちょっと遠いわよ。 乗せてもらったらどう?」 森川が琴音に言った。
「大丈夫です。 自転車で行きます」 その会話を聞いていた男性社員が
「織倉さん道分かりますか?」
「さっき森川さんに聞きましたから分かります」
「それじゃあ、大丈夫ですね。 じゃあ、僕先に行ってますね」
「ありがとうございます」 声をかけてくれたことに礼を言った琴音。
「じゃあ 行きましょうか」
「はい」 会社を出発したが森川も道を教えたものの琴音を心配して ちょっと先に行っては止まって待ってを繰り返していた。